どうしても似てしまう道徳科の発表。「色と形」の学習活動を取り入れて、子どもたちの思いや考えの違いを「見える化」してみませんか?
みなさんは、道徳の授業について、こんな悩みをお持ちではないですか?
「机間指導の際、子どもの書いた考えがじっくり読めない。キーワードを拾うのが精いっぱい」
「本音・本心が見えないまま、子どもの書いた【正しい考え】で授業が進む」
「どうしても、発表が一部の子どもに偏ってしまう」
これらの悩みが解消した先には、どんな景色が広がっているのでしょうか。
私たちは、「発表する子もしない子も、思いや考えが【見える化】され【共有】される授業」を思い浮かべます。
言葉だけだとどうしても違いが出にくい子どものアタマとココロを「色と形」で引き出します。
【連載】「色と形」で子どものアタマとココロが見えてくる!! #03
執筆/茨城大学大学院教育学研究科教授・打越正貴
茨城大学全学教職センター助教・宮本浩紀
目次
1. 「たまちゃん、大すき」のあらすじ&内容項目
今回取り上げるのは、小学校3年生の道徳科。内容項目は「友情、信頼」。教材は「たまちゃん、大すき」(『新編 新しいどうとく 3』東京書籍)です。教材のあらすじと内容項目は以下の通りです。
教材について
原作は、さくらももこ原作の漫画「ちびまる子ちゃん」。あらすじはこちらです。
ある冬の夕方、タイムカプセルを埋める約束をしたまる子とたまちゃん。でも約束の時間にたまちゃんがやってこない。2時間待ったまる子は、約束を破られたと思い、タイムカプセルを河川敷に捨ててしまう。次の日、「家の用事があって行けなくてごめん」と謝るたまちゃんを許せないまる子だったが、自分も似た状況に身をおくことで、自らを振り返ることになり……。
まる子とたまちゃんは大の仲良し。そんな二人にトラブルが起こってしまいました。仲直りは難しそうと思われる中、まる子は自分の家で、たまちゃん置かれていた状況と、そのときの気持ちが想像できるような状況になります。
そして偶然にも、たまちゃんも同じ頃、待ちぼうけをくらったまる子の気持ちに思いを馳せられるような状況を体験しました。それがきっかけとなって、二人は仲直りを果たすのです。
内容項目について
この教材を通して、小学校3年生の「友情、信頼」について学びます。内容はこちらです。
〔第3学年及び第4学年〕
(出典:『小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編』46頁)
友達と互いに理解し、信頼し、助け合うこと。
第3学年における指導の要点はこちらです(本時の教材に合わせて抜粋しました)。
・気の合う友だち同士で仲間をつくって自分たちの世界を確保する……(が、)自分の利害にこだわることで、友達とトラブルを引き起こすことも少なくない。
(出典同じ)
・友達のよさを発見することで友達のことを理解したり、友達とのよりよい関係の在り方を考えたり……できるように指導することが大切である。
以上を踏まえて、「友達とのよりよい関係の在り方」について考えます。まる子とたまちゃんに起こったけんかを元に、双方の立場・言い分を思い浮かべながら、友達と互いに理解することの大切さを学びます。
2. 「たまちゃん、大すき」の授業づくり
「たまちゃん、大すき」のどこに注目すべきか、それをどう授業に生かすかについて確認します。
①まる子とたまちゃんは「大の仲良し」
②まる子の感情はさまざまに変化する
(ワクワク⇒ピリピリ⇒かちん⇒もやもや⇒じーん)
③「たまちゃんも、同じだったんだ…」をどう深める?
・「形」に関するこだわりを探る。
①
教材の範読後、二人が「大の仲良し」であることを確認します。それにより、ケンカが招いた仲違いのつらさ、教材末尾のたまちゃんへの思いが際立ちます。
②
・「たまちゃん、大すき」の中で、まる子の感情はさまざまに変化します。教材研究の際にその整理をしておくことで、本時で一番深めたい感情に迫れます。
・内容項目からみると、「もやもや」から「じーん」への変化が授業の山場になります。
※「もやもや」:台所でお手伝いをしているとき/「じーん」:たまちゃんと仲直りできたとき
③
・まる子の心情の変化を探ります。「もやもや」から「じーん」への変化の原因に注目します。
おじいちゃんにテレビを見るのを誘われたけど、お手伝いがあって行けなかったから。
たまちゃんも同じだったんだと気づいたから。
このような発言が出ることを予想して、「切り返し」や「ゆさぶり」の発問を考えておきます。
まる子は、夕方にタイムカプセルを探しに行ったんだよね。次の日に学校で謝るのでは遅かったのかな?
△「まる子がたまちゃんと同じ経験をしたから、今日探しに行った」
〇「たまちゃんは大切な友だちだから、今日探しに行った」
この二つは大きく違います。
お手伝いのときの経験は、行動のきっかけにすぎません。まる子を動かしたのは、大切な友だちへの 思い であるといえます。
たまちゃんがかけがえのない友だちだからこそ、まる子はもう一度、2人で一緒に作った、あのタイムカプセルを取り戻したかったのでしょう。
そう考えることで、本時の内容項目である「友達の理解」を中心に置いた授業が生まれます。
3. 「色と形」の活用例
でも、授業時間は45分と限られています。
「子どもが登場人物の思いをパッと表せて、一目で共有できないものだろうか?」
そう考えて、
本授業では、「色と形」を次のように活用しました。
本活動では、「色と形」をこう使いました
1.色鉛筆など、何か色を塗れるものを用意する
2.描くテーマを決める
(例: 今回は、ワークシートに白抜きのハートマークを印刷しておきました)
(例:まる子の心情を描いてもらいました)
3.ハートマークに「色」を塗るよう伝える
(例:今回は、「何色で塗ってもいいよ」と伝えました)
4.まずは隣同士で、続いてクラス全体で、自分の作品を紹介し合う
5.クラスメイトから自分の作品に関する質問を受け、自分の思いや考えを伝える
4. 子どもの作品紹介
子どもが表した「色と形」の作品をご紹介します。様々な「色」が用いられているところ、ハートマークの中に絵が描かれているところが特徴です。この子は次のような説明文を書きました。
この子は、主にピンクとむらさきを使って、まる子の気持ちを表しました。
「心情メーター」と違って、「色と形」では自分のイメージに合った色を塗ることができます。赤と青というプラス・マイナスの感情を超えて、登場人物の心情について、実に多彩に表せるのが特徴です。
また、この学習活動では、教師が子どもの思いや考えを探る方針も立てやすいです。
例えば、
ハートマークの右はじに描かれた水色の模様は何を表しているの?
ハートマークの中に描かれている黄色いキラキラって何?
と聞くことができます。
「色と形」を使って絵を描いた後には、必ず言葉で説明する時間を取ります。でも、作品に描かれていることが説明文に盛り込まれていないということもあります。そんな子どものこだわりを教師が引き出したり、また、子ども同士で引き出せるのも魅力です。「主体的・対話的で深い学び」の充実に、きっと「色と形」が役立つはずです。
イラスト/難波孝
打越正貴●うちこし・まさき 茨城大学大学院教育学研究科教授
民間企業、公立小学校・中学校の教諭、教育委員会指導主事、公立中学校校長を経て現職。
校内研修講師として、主に茨城県内の公立小・中学校を訪問し、教育方法の観点から各教科の授業づくり・授業実践について指導・助言を行っている。 著書に『主体的な学びを育む思考指導の理論と実践』(単著、青簡舎、2021年)、『イメージからことばをひきだす「色と形」の授業づくりアイデア』(共編著、ネクパブ、2022年)、『ことばをひきだす授業論』(共編著、PUBFUN、2024年)等
宮本浩紀●みやもと・ひろき 茨城大学全学教職センター助教
信州豊南短期大学幼児教育学科助教・同専任講師を経て、現在、茨城大学全学教職センター助教。
講師として、茨城県内の各公立小・中学校、茨城県教育研究会道徳教育研究部等において各教科の授業づくりの助言・指導を行っている。 著書に『モラルの心理学』(共著、北大路書房、2018年)、『イメージからことばをひきだす「色と形」の授業づくりアイデア』(共編著、ネクパブ、2022年)、『ことばをひきだす授業論』(共編著、PUBFUN、2024年)等
打越先生と宮本先生の共著