小5特別活動「地震のときの正しい行動の仕方」指導アイデア

連載
【文部科学省視学官監修】特別活動 指導アイデア

帝京大学教育学部教授(前文部科学省視学官)

安部恭子

文部科学省視学官監修による、小5特別活動の指導アイデアです。6月は、<学級活動⑵ウ「地震のときの正しい行動の仕方」>を紹介します。

地震はいつ、どこにいる時に起こるか分からない自然災害です。生活の様々な場面で地震が起こったときに、自分の命を守るためにどのような行動をとるのか、避難訓練などの実践を通して、地震から自らの命を主体的に守る意識を高める指導ができるようにしておきましょう。

執筆/滋賀県公立小学校教諭・市川裕祐
監修/前文部科学省視学官 帝京大学教育学部教授・安部恭子
 滋賀県特別活動部会顧問 元滋賀県公立小学校長・鈴木靖彦

年間執筆計画

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4月 学級活動⑴ 5年〇組の係を決めよう
5月 学級活動⑴ 学級の歌をつくろう
6月 学級活動⑵ ウ 地震のときの正しい行動の仕方
7月 学級活動⑴ 一学期がんばった会をしよう
9月 学級活動⑵ イ 互いのよさや可能性の認識
10月 学級活動⑴ 5年〇組の運動会のめあてを決めよう
11月 学級活動⑶ ウ 目指す自分になるための自主学習
12月 学級活動⑴ 来年の1年生を学級に招待しよう
1月 学級活動⑶ ア 最高学年に向けて取り組むこと
2月 学級活動⑴ 6送会で感謝の気持ちを伝えよう
3月 学級活動⑴ 5年〇組の一年を振り返る会をしよう

1 学級活動⑵はどんな活動?

学級活動には⑴、⑵、⑶の3つの内容があり、4月、5月で紹介した学級会「5年〇組の係を決めよう」「学級の歌をつくろう」は学級活動⑴の内容になります。
学級活動⑴は子供たちが学校生活における共同の課題を見いだし、その解決に向けて主体的に話し合い、合意形成を図って協力して実践する活動ですが、学級活動⑵は、教師が年間指導計画にそって意図的・計画的に指導する内容であり、子供たち一人一人が日々の生活の向上のために、集団思考(話合い)を生かして自らの生活や学習の目標等を意思決定し、互いに協力して実践する活動です。今回は「地震のときの正しい行動の仕方」(学級活動「⑵ウ 心身ともに健康で安全な生活態度の形成」)の実践を紹介します。

2 学級活動⑵ 「地震のときの正しい行動の仕方」について

地震は全国どこにいても起こり得る災害ですが、子供たちが暮らす地域の地理的条件によって発生状況や被害の状況も異なります。本事例は、琵琶湖西岸断層帯に近い滋賀県大津市の学校をイメージしたものですが、海の近くや山間部など各地で想定される被害は様々です。まずは学校や地域防災で決められた避難経路などを確認し、自校の防災教育の年間指導計画を見て、学校行事の「避難訓練」やその事前・事後指導と学級活動との関連を確認する必要があります。
また、地震は社会科や理科などの教材として取り上げられています。例えば社会科では、地域や国の地形の特徴や過去の自然災害を通して、関係機関の人々による自然災害への対処や備えを理解し、自分にできることを考えます。理科では、自然災害につながる自然の働きや規則性などを学び、災害に対してどのように身を守ったらよいのかを考えます。学校によっては、総合的な学習の時間で、自然災害に対する対策を地域の人々に聞きながら、探究的な学びを追求することも考えられます。
学級活動⑵で紹介するこの指導は、上記の教科等における学習と関連を図り、既習の知識を活用するとともに、特別活動の特質が「実践的な活動」であることを中心にして指導します。さらに学校行事の「避難訓練」と関連付けることで、事前指導としての効果も期待でき、地震が起きた時の具体的な行動に生かすことができます。

3 本時のねらい

生活の様々な場面で地震が起こったときに、自分の命を守るためにどのような行動をとるのか(初期対応)、そして、揺れなどが収まった後に起こる様々な二次災害から身を守るために、どのように行動するか(二次対応)を考えて意思決定し、避難訓練に臨むことで、実践を通して地震から自らの命を守る意識を高めます。

4 意思決定に向けた学習過程

学級活動⑵は本時のねらいを達成するために、授業を【つかむ】【さぐる】【見つける】【決める】の4つに分けて学習します。

図表

5 事前の指導

事前指導として、学校行事の「避難訓練」の1週間前後に行うとよいでしょう。また、既習の知識を活用して「地震とはどのような災害なのか」「地震が起きたときにどのような被害があるのか」を想起しておくことも重要です。近年では、様々な自然災害が頻繁に起きています。特に、地震については、各地で地震予測も数多くされています。そのため、朝の会や帰りの会などで、事前に次の学級活動の題材を伝えて、子供たちが「もし教室で学習中、または休み時間などに大きな地震が起きたらどうなるか」「この場所にいる時に地震が起こったらどうするか」に目を向けて、意識して自分で考える期間を設けると、本時の導入がスムーズになります。教室だけではなく、運動場や体育館、特別教室などの場所の想定や、授業中や休み時間などの時間毎の想定も考えておくとよいでしょう。
※まったく予告をせず実施する避難訓練を、休み時間に合わせて行うことも考えられます。

<ICT端末活用例>
子供たちが危険な場所に目を向けて情報を集める時には、ICT機器を活用して画像を残しておき、授業で提示すると、より具体的な話合いになります。その際は、その場所がなぜ危険なのかをできるだけ詳しく皆に伝えられるように声をかけておくとよいでしょう。この場合は、校内を撮影するための時間を別に設定することが必要になります。

授業の様子

6 本時の指導

板書例

板書例

【つかむ】日常生活の中で地震が起きた時にどのようなことが起こるか考える。
地震が発生してから、その後に起きる災害や被害状況までが分かるイラストを見て、地震が様々な災害につながっていることを想起させます。実体験や報道やインターネットから得た経験や知識を発表し、話し合うことで、大きな地震が起こった時は場所や時間に関係なく、自分の安全は自分自身で守らなければならないことが理解できるようにします。

もし、みんなの生活するこの〇〇小学区で大きな地震が起きたらどんなことが起こると思いますか。

山が近くにあるから、山崩れがおきるかもしれません。

ニュースで見たことがあります。家が、崩れた土で埋まっていました……。

地面が割れて、道路から水がふき出ているところも見ました。

家が倒れたり、火事になってたくさんの人がケガをしたり、命の危険があったりすることが、ニュースになっていました。

4年生のときの社会科で、地震の後、揺れが収まっても火事が広がることが多いことを学習しました。

ここは琵琶湖の近くで津波は来ないらしいけど、大きな断層が近くにあるから地割れの起こる可能性が高いらしいです。

地震は、揺れることで災害が起こるだけではなく、揺れが収まっても火事になったり物が倒れたりするので、たくさんの危険なことが起こりますね。家の人と離れて学校にいるときも落ち着いて正しい行動をして、まず自分の命を自分で守ることが大切です。

【さぐる】地震が起こったときの校内での危険な場所について調べてきた事をもとに発表する。
1週間後の避難訓練に向けて、子供たちが事前に、教室や特別教室、休み時間に過ごす場所などに合わせて調べた「危険が想定されること」を出し合います。

では、学校内にいるときに地震が起きたら、どんな危険があるでしょう。調べてきたことや気付いたことを発表してください。

<ICT端末活用例>
このとき、ICT機器を使って校内の危険と思われる場所を撮影している子供は、モニターに同期させて映しながら説明すると、画面から他の気付きも生まれて効果的です。

地震はいつ起こるか分かりません。休み時間に遊びに行っているときや、1人で図書室にいるときかもしれない。トイレにいるときかもしれません。

教室にある本棚から本が落ちてくるかもしれません。

教室では、この蛍光灯の下が危ないと思います。揺れたときはすぐに頭を守らないといけませんね。

窓の近くは、ガラスが割れたらケガをするかもしれません。

教室以外はどうですか。

休み時間や体育の時間で運動場にいたら安全だと思います。

運動場の木が倒れるかもしれないよ。これまでの避難訓練でも、できるだけ校庭の真ん中に集まりました。

体育館なら広いし天井も高いので安心です。

他の地域の地震で、体育館の天井が落ちている写真を見たことがあります。

理科室なら、ビーカーやアルコールランプが棚や机から落ちるとケガをするかもしれません。もしも実験中だったらすぐに火を消さないといけないね。

家庭科室で火を使っていると、火事になるかもしれません。

そうですね。最初の大きな揺れが収まるまでの行動を初期対応、そして揺れが収まった後に、安全に倒れた建物や木を避けたり、火事から逃れたりすることを二次対応と言います。4年生までの避難訓練でも学習したように、自分自身を守るためにできることを考えてみましょう。

初期対応、二次対応

【見つける】様々な場面で、地震が起こったときの具体的な行動の仕方を話し合う。
教室、体育館や廊下、運動場、図書室、保健室など、学校内にいるときの初期対応、ニ次対応を考え、どのような行動をとることが安全なのか意見を出し合います。

では、地震が起こった時に命を守り、ケガをしないように避難するためにはどのようにしたらよいでしょう。

地震で揺れたら頭を守って机の下に入るということを、4年生のときまでの避難訓練でやってきました。

教室ではこれまでの学年で訓練したように、揺れが収まるまで机の下に入って頭を守って待ちます。その後は放送を聞いて、運動場に避難します。

体育館では、頭を守るための机はないし、周りから崩れるものが何もないから、真ん中あたりでしゃがんで頭を抱えるのがいいのかな。

これまでの避難訓練で、押さない、走らない、しゃべらない、戻らない、低学年優先の「おはしもて」を守ってみんなで教室から運動場に避難しました。

そうですね。〇〇小学校では皆さんが1年生のときから「おはしもて」が避難の時の合言葉になっていますね。

自分のことは大切だけど、合言葉にあるように、周りに低学年の人がいたら助けたいです。

1人で行動している人がいたら声をかけていっしょに行動します。

友達といっしょにいるときは、お互いに助け合うことも大切だと思います。

避難時の約束
避難の様子

【決める】避難訓練の時に、自分にできる正しい行動を意思決定する。
【見つける】で話し合った様々な場面で、地震が起こったときに、自分はどのような行動をとるべきなのかを意思決定します。本事例は「午前中に予告なしで行う避難訓練」の事前指導でもあります。実施日の予定時間割を提示して、登校してから午前の日課が終了するまでに学習する教科、使用する教室や特別教室、その日の天候によって休み時間を過ごす場所などに分けて、それぞれの時間で自分自身の安全を確保するための行動の仕方や心構えを考えます。

学級や子共の実態によっては「自然災害が起きたとき」をイメージできないこともあります。訓練と分かっていても怖さを感じる子供もいるため、十分な配慮が必要です。事前に声をかけたり、保護者の協力を得たりして、一人一人の気持ちに寄りそって指導することが必要です。

避難訓練のある〇月〇日の午前中の時間割は、1時間目算数、2時間目体育、3時間目音楽、4時間目は理科です。これまでの意見を参考にして、自分はどの時間にどのように行動するか、初期対応と二次対応に分けて考えてください。

場所も教室、音楽室、理科室といろいろだけど、体育は雨の日は体育館で晴れたら運動場だし、両方考えておかないといけないね。

どの時間どこにいるかで避難の仕方も違うけど、「おはしもて」はどこにいても同じだと思います。

それでは、これまでのみんなの意見を参考にして、その時間に避難するならどんなことに注意して行動するか、自分の考えをプリントに書き込んでください。

<ICT端末活用例>
意思決定の記入はプリントでもできますが、事前にタブレット端末などで記入フォームを作成しておくと、それぞれがどのような行動を決めたのかが共有できて、参考にすることができます。

ワークシート 地しん(ひなん訓練)のときに自分が気を付けること

プリントに記入後(またはICT端末に入力後)

では、どのようなことに気を付けて行動しますか? 発表してください。まず、授業中から考えてみましょう。

地震が起きたときの初期対応では、頭を守り、その場で動かずにいます。

どんな場面を考えていますか。

教室です。ぼくの席は窓側なので、ガラスが飛んできてケガをしないようにすぐに机の下に入って、その場で頭を守ることを大切にしたいです。

音楽室でもまず机の下に入って揺れが収まって避難が始まるまで黙って待ちます。そのあと3階の音楽室は運動場から遠い場所にあるので、階段を降りるときに「おはしもて」の押さないと走らないを特に気を付けます。

私も同じですが、音楽室や理科室は教科書やノート、筆箱を持って行っていますが、避難するときは何も持たずに行動し、訓練が終わるまで取りに戻りません。

休み時間に体育館で遊んでいるときに訓練が始まったら、近くにいる低学年の人にも声をかけて、フロアーの中央によって頭を守ってかがむように言います。

ぼくは直ぐに大きな声を出して誰かに話しかけてしまうので、どこに居ても近くの先生の話や放送が聞こえるように黙って避難します。

地震が起こったときは、まず初期対応として、自分の身の安全を確保することが大事です。揺れが収まったら、二次対応として、周りの大人の言うことを聞いて、落ち着いて協力して行動しましょう。来週の避難訓練では、今日みんなで考えたことやそれぞれが決めた目標を意識して行動できるようにしましょう。

この事例は学校行事の避難訓練の事前指導として位置付けています。学校によって、地震対応の避難訓練の時期や形態は異なります。例えば、実施時間が何時間目か決まっている場合は、校内の危険個所を調べて命を守るための方法を考える中で、実施時間帯の教科等や場所に合わせた意思決定を行って振り返りにつなげるとよいでしょう。

7 事後の指導

避難訓練の様子 写真1
避難訓練の様子 写真2

その後、避難訓練の時に、自分が考えた目標が達成できたかどうかを学級で振り返りましょう。

自分で決めた目標どおりに落ち着いて行動できましたか。

初期対応の頭を守って机の下に入ることはできましたが、慌てていたので少ししゃべってしまいました。

理科室で学習しているときだったので、実験用具の入っている棚から離れて机の下に隠れることができました。どこにいるときも、今、地震が起こったらどうするかを考えておくことが必要ですが、本当に地震が起こったときにできるかは少し不安です。

地震は学校にいるときに起こるとは限らないので、学校に来る途中や帰るときに危ない場所はないか、これからも注意して見ておこうと思いました。

4年生の社会科で学習したときに考えた防災宣言のように、避難所の場所ももう一度確認しておくといいと思います。

それは大切ですね。皆さんが家庭や地域で過ごしている時間は学校にいる時間より長いので、登下校の途中や家の周りについても、どのように対応したらよいか考えておきましょう。

授業の様子2

地震は学校にいるときに起こるとは限りません。避難訓練を自分の目標達成に照らして振り返ると同時に、登下校時や家庭、地域で過ごしているときに地震が起きたらどのように行動するかにまで広げて考えるように指導しましょう。例えば、登下校でブロック塀のある道を歩くときは、倒れてきても被害を受けない距離をとって歩くとか、学校の近くを歩いていたら、〇〇の角までなら無理に帰宅せずに学校に戻って安全を確保するなどです。学習内容を学年だよりや懇談会などで保護者にも伝えて、家庭や地域と連携した取組にしていくことが必要です。

ワークシート 地しんが起きたときの正しい行動(学校外)

構成/浅原孝子 イラスト/高橋正輝


安部恭子

監修
安部 恭子
前文部科学省視学官 帝京大学教育学部教授
埼玉県さいたま市の小学校に勤務後、さいたま市教育委員会、さいたま市立小学校教頭勤務を経て、2015年より文部科学省初等中等教育局教育課程教科調査官・国立教育研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官、2022年より文部科学省初等中等教育局視学官を務める。


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