説明ミッションとは【教科担任制 最前線!! 算数専科を楽しもう】⑥

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教科担任制 最前線!! 算数専科を楽しもう
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今回は、説明ミッションについて紹介します。説明ミッションは、協力ミッションの中に組み込んで授業をデザインしています。この説明ミッションを授業でデザインするときに大切なことは、子供たちが問題を解き終わったら、その後説明するということを初めから知っておくことです。つまり、説明する前提で問題を解くことが重要です。

執筆/奈良県公立小学校教諭・頃橋真也

学びの深さをデザインしよう

みなさんは、授業をデザインするときに、学びの深さについてどのように考えておられるでしょうか?

私は、石井英真先生が『授業づくりの深め方「よい授業」をデザインするための5つのツボ』(ミネルヴァ書房・2020年)にて紹介している「学力・学習の質的レベル」を参考にしています。

学力・学習の質的レベル図 

学力・学習の質的レベルとは、3つのレベルで捉えることができ、

  1. 「知っている・できる」レベルの課題
  2. 「わかる」レベルの課題
  3. 「使える」レベルの課題

があります。

「知っている・できる」レベルや「わかる」レベルの課題はイメージできるけれど、「使える」レベルって何だろう? と思った方はいないでしょうか?

「使える」レベルは、知識・技能の総合的な活用力を問うような問題です。

「使える」レベルの思考を試す課題は、高次さと深さを統合するような「真正の学習」となっているので、教科書の単元末に1問程度紹介されている程度のことが多いのです。単元によっては、載っていないこともあります。そのため私は、教科書以外の問題集から使えるレベルの『ジャンプの課題』を授業に取り入れるようにしています(ジャンプの課題に関しては、第4回の記事参照)。

「わかる」レベルの課題とは、概念の意味理解を問うような課題です。算数の学習でいえば、単に問題を解けるようになるということではなく、「問題で問われていることがわかり、その解き方を他者に説明する」ような課題のことを指しています。

今回は、この「わかる」レベルの課題(特に「他者に説明する」)を、授業でどのように取り扱えばよいのかを考えたいと思います。

私は、これまでは以下のような方法を取ってきました。

①子供が各自でノートに自分の解き方(考え方)を書く。
②ペアの子供で説明し合う。
③大型テレビに子供のノートを映して、数人の子供に説明させる。

しかし、この授業の進め方は、①や②を自分1人ですることが難しい子供にとっては、かなり高難易度になることになります。そのため、机間指導をして、自分1人では考えることが難しい子供に個別対応してきました。今になっての大きな反省ですが、個別対応をしているときは、全体ではなく、どうしても気になる子供、つまり個に目が行きがちでした。それゆえ、いつの間にか授業をしているときの私の目は課題のある子供ばかりを追うようになっていったのです。まさに、木を見て森を見ずという状態です。

では、どのようにすればよいのでしょうか?

私の答えは至ってシンプルです。教師の個別対応を減らし、子供が対話しやすい学習環境と場のデザインにすればよいだけです。

例えば、

①学習形態の選択(ペアやグループにする、もしくは自由に立ち歩ける)
②友達に気軽に「わからへん」と話しかけられる授業の雰囲気

つまり、どのように書けばよいかわからない子供が、「なぁなぁ、いっしょに考えよ」と言える距離と言える空気感のある授業の場を作ることがまずは必要だと思います。このようにすることで、教師は全体を見ながら、子供同士の対話を通して、気になる子供の学習の様子を見取ることができます。

では、「わかる」レベルの課題を授業の中でどのように取り入れることができるのか、私の実践例をもとに紹介します。

説明ミッションって?

私は、算数の授業で、「協力ミッション」という少人数で課題についていっしょに考えていく授業のデザインをよく使います。

この協力ミッションは、ステップ1・ステップ2のように順番に課題をこなしていくスモールステップ型の協働学習です。協力ミッションについては、第4回の記事で詳しく紹介しているのでそちらを見てください。

協力ミッションの板書例は次の通りです。

説明ミッション の板書例

私は、その課題(ステップ)の一部に“説明ミッション”というものを入れます。

この説明ミッションでは、答えに至るまでの考え方をノートや教科書を使って説明するというものです。

実際の授業では、教科書の例題や練習問題などの「知っている・できるレベル」の問題を説明するという活動に、教師が意図的に変化させることにより、「わかるレベル」の問題にするのです。

方法は至って簡単です。例題や練習問題を「練習問題●●の考え方について、(対象:友達・先生)に説明する」だけです。

このような課題にすることで、授業にヤマ場(ピーク)を作り、子供の追求心をじわじわと高め、子供たちが思わず攻略したくなる授業デザインとするのです。

実際の授業場面では、

①同じグループの友達に説明する
②自分のグループ以外の友達に説明する
③先生に説明する

という3つを使い分けています。説明ミッションの流れについては次の図の通りです。

説明ミッション図

1 目指すゴールは、全員が説明できること

誰かに問題の解き方を説明することは、普通に問題を解く以上に難しいことであるのは言うまでもありません。

そのため、私の授業では、「わかるレベル」の課題「~について説明しましょう」に対して、各々が問題を解き始める前に子供たちの対話があります。

例として、3年生の「三角形と角」の問題に取り組んでいるときの子供の話合いをもとに見ていきましょう。

2まいの三角じょうぎを使って、右のような三角形をつくりました。
右の三角形は、なんという三角形ですか。
わけもせつめいしましょう。


新版『たのしい算数3年』「三角形と角」(大日本図書)

三角定規を2枚並べた図

なぁなぁ、この問題どんなふうに考えたらいいんやろ?

まず、この図やけど、二等辺三角形っぽくない?

てことは、2つの辺の長さが等しい?

じゃあ、この三角形の長さを測ってみようか。

こことここが同じ長さっぽいよね。

待って、長さを測らへんくても、同じ形の三角定規ってことは、重ねたらぴったり重なるってことやろ。じゃあ、長さは同じやん!

そうか! こことここが同じ長さや!

よし、ノートに説明を書いていこう!

このような、対話が行われてからノートに考えを整理していきます。ノートに書く前の段階、つまり、問題を読むところからグループでいっしょに行うことで、対話が生まれやすくなります。

そして、子供たちは、各々がノートに考えを書き終わると、互いのノートを見合い確認します。次に、先生に説明するためのちょっとした説明のし合いっこを始めるのです。全員が説明できる自信が付いてから、子供たちは私(先生)のところに説明に来ます。

最終的に、全員が説明できることを目指して、この説明ミッションを行います。ノートに考えをまとめるときもあれば、教科書に直接書き込んで、より説明しやすいように工夫する子供も現れるようになります。考えを文章・図・イラストにすることが難しい子供は、繰り返し友達に説明したり、聞いたりして考えを整理することもあります。

自分の考えを説明するためのツールとして、ノートに考えを書き込み、活用する子供が圧倒的に多いですが、すべての子がそうではありません。書くことが苦手な子供もいます。自分の考えを言語化して表現できればどんな手段でもOK!というくらいの懐の深さで、子供たちの多様な学び方を許容できる姿勢も大事です。ノートは、自分の考えを表現するための手段に過ぎないのですから。

2 説明ミッションの裏のねらい

実は、私の行っている協力ミッションには弱点が1つあります。それは、子供たちが理解不十分のままステップを上ってしまっている可能性があるということです。

子供たちは友達といっしょに問題を解き、式と答えが正解していれば、すぐに次のステップに進もうとします。もちろん、間違えていた場合は、いっしょに解き直しをするのですが、わかっていなくても、わかったふりをしてごまかそうとする弱い気持ちが働くこともあるかもしれません。

そこで必要なのが、「説明ミッション」です。

説明ミッションは、ひたすら問題を解き進める協力ミッションとは違う学び方になります。45分間の授業の中で「一度立ち止まって考えを言語化する」ということが必要になります。私は、子供たちがどの程度学習内容を理解しているのかを見取るために、この「説明ミッション」を入れています。

この活動を入れることで、子供たちの対話量は、問題を解いているとき以上に活性化されます。なぜなら、このとき私は、ものわかりの悪い教師を演じるからです。だからこそ、子供たちは互いに、徹底的に説明をし合います。

説明ミッションに来たグループと私との対話の流れは、以下のようなものです。

①初めに学習の下位層~中流層の子供に説明をさせる。
②次に学習上位層の子供に付け足しをさせる。
③教師は説明を聞くだけでなく、質問もする。
④説明が不十分な場合は、もう一度グループで考える時間を与える。

もちろんすべてが、この通りではありません。しかし、学習の下位層~中流層の子供が説明できるようになっているということは、このグループには確かな「学び合い」が起きていたということがわかります。それを見取る1つの方法として、説明ミッションを行うのです。学習の下位層~中流層の子供が十分な説明ができるということは、上位層の子供もおそらくできると思います。

この説明ミッションは、グループの数にもよりますが、1グループおおよそ2分以内で行っています。数学的な見方・考え方を働かせ、数学的な表現を用いて説明できていた場合は、1グループ30秒程度で終わることもあります。ただ、数学的な見方ができておらず、着目すべき点が定まっていない場合などは、もう一度考えてくるように指示を出し、じっくりと考える時間を与えます。学級の人数にもよりますが、必要以上に待ち時間を作らないようにすることも大切です。

では実際に、どのような会話の流れになるのか、先ほどの【3年生の「三角形と角」の単元の「2枚の同じ形の三角定規を図のように並べると、どんな三角形ができるのか説明しましょう」】の説明ミッションを行っているグループを例に見ていきましょう。

はじめに、Aさんに聞きます。どんな三角形ができましたか?

二等辺三角形です!

なるほど。では次にBさんに聞きます。なぜ二等辺三角形と思いましたか?

同じ形の三角形ってことは、重ねたらぴったり重なって、この辺とこの辺の長さは同じになります。ってことは、2つの辺の長さが同じだから、二等辺三角形です!

なるほど。ちなみに、Cさん。二等辺三角形って、「2つの辺の長さが等しい」以外に何か特徴はなかったっけ?

2つの角の大きさも等しくなっています!

では、Aさん・Cさん。Bさんの説明に付け足しはありませんか?

児童A:ありません!

3人とも……(少し間をとって)……、お見事です!!!

このような形で行います。正解したグループは、喜んで「やった~!」と言ったり、ハイタッチをしたりして、次のステップに進んでいきます。

もし、先ほどの会話で、児童Bさんが途中で言葉がつまるようなことがあった場合は、もう一度グループで考えて説明し合うように促します。

学級の人数にもよりますが、この説明ミッションは、45分の授業で1回か2回入れると効果的です。それも授業の中盤から後半あたりに入れるのがオススメです。

3回以上入れると、協力ミッション中のグループでの対話の様子や答え合わせが正しくできているかなどを見取ることが難しくなるので、あまりオススメしません。

友達同士で説明してサインをもらうという方法を使うときもありますが、友達同士の場合は、甘えが出たり、説明が不十分であったり、互いにサインをしてしまう可能性もあるかもしれません。この場合、子供たちが数学的な見方・考え方を働かせて考えることができていたのかを教師が見取ることは難しくなります。そのため、「〇〇(数学的な表現)という言葉を使って、説明する」のように、着目点を与えた課題にすることで、数学的な見方を使って自分の考えを表現しやすいようにしておくとよいかもしれません。

学級の人数が多くて、教師1人で全グループの説明を聞くことが難しいクラスもあるはずです。学級の実態やその日の授業デザインに応じて、説明対象を自由に選択しましょう。

3 説明する前提で問題を解く

私は、説明ミッションを協力ミッションの中に組み込んで授業をデザインしています。

この説明ミッションを授業でデザインするときに大切なことは、子供たちが、問題を解き終わったら、その後説明するということを、はじめから知っておくことです。つまり、説明する前提で、問題を解くのです。

『アウトプット大全』(サンクチュアリ出版)の著者の樺沢紫苑氏は、「ロンドン大学の興味深い研究があります。――人に教えることを前提に勉強するだけで、記憶力がアップして学びの効果が上がるということです。」と学習効果をさらに高める方法について述べています。

実際に、「学び合い」の授業デザインでは、1時間のめあてとして、「●●についてノートに自分の考えをまとめ、3人以上の友達に説明をしてサインをもらおう」のように示すことがあります。

私たち教師も、研修などでグループ討論があるときは、「話合いの後、どんなことを話し合ったのか、各グループに1分間で発表してもらいます」と講師から事前に指示があることがありますよね。後で説明することを前提にして話合いをするほうが、よりしっかり話を聞こうとしたりメモをしたりすると思います。それと同じです。

1時間の授業の中に、問題を解くだけではなく、自分の考えを言語化して他者に説明する「説明ミッション」は授業にピーク(山場)を作る上でも大切です。ぜひ取り入れてみてください。

頃橋真也(ころはし・しんや)
教員歴14年。県の道徳研究会に13年間所属し、道徳の授業作りについて研究を深める。2021年度「第27回日教弘教育賞奨励賞、2022年度「第21回ちゅうでん教育大賞」教育奨励賞、授賞。X(旧Twitter)でも、情報発信中(ro5ro5先生@小学校の先生 @ro5r_o5)。

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