「40分授業午前5時間制」とは?【知っておきたい教育用語】

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東京都の目黒区では、文部科学省の「研究開発学校」の指定を受け、「40分授業午前5時間制」の特色ある教育課程の開発に取り組んできました。新たな教育課程の在り方を提案する「40分授業午前5時間制」とはどんなものなのかを解説します。

執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴

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子どもの学び方の改善と教員の負担を軽減する「40分授業午前5時間制」

【40分授業午前5時間制】
午前中に40分間の授業を5コマ集中して行うこと。東京都目黒区や神奈川県横浜市の学校などで積極的に実践され、導入例は全国的に広がっている。学校の授業時間数や教科増加に伴う負担感の低減と、子どもの学び方の改善を目指した取組として注目されている。

学校週5日制完全実施の2002年度の当初、それまでの週6日制から授業日数と授業時間数が減少することに伴い、学校で扱う指導内容を少なくし、子どもが主体的に学ぶ力を重視する方向に教育改革が進められていました。

しかし、その後の、いわゆる「学力低下」への対応や小学校外国語などの教科の増加、ICT活用教育や防災教育など現代的な課題対応のための「○○教育」の導入により、指導教科や内容と授業時間数が増加しました。

例えば、小学校高学年の時間割では、週29~30コマ(1コマを45分、1単位時間とする)確保しなければならない状況となりました。水曜日は5時間授業で、あとは6時間授業といった具合です。6時間目終了の場合、子どもの下校が完了したら教員の職務時間はすでに60分も残っていないという状態になります。教員が子どもと向き合う時間、授業準備の時間、校内組織で会議を行う時間などが不足し、勤務時間を大幅に超えて職務するという状態の恒常化を招きました。

目黒区教育委員会は、文部科学省の指定を受け、1単位時間を40分として、午前中に5時間(コマ)を実施し、午後の時間にゆとりのある教育課程を実施することにしたということです。

午前中に25時間(5コマ×5日)確保できるので、午後は1時間(コマ)組みこめばよいということになり、子どもの下校時間が早くなります。曜日によっては午後に総合的な学習の時間を2単位時間連続で行い、結果的に7時間目まで実施すると、他の曜日は午前中で終業し、子どもは下校ということも可能になります。

40分授業午前5時間制の生活時程の例

下図は、目黒区が公開している「本区の特色を生かした教育課程『40分授業午前5時間制』の推進」の一部です。この生活時程例を基にして、各校の実態に応じた週時程を創意工夫しているということです。

また、下表は目黒区の公立小学校における生活時程の一例です。

目黒区公立小学校における生活時程の一例

この小学校の場合でしたら、7時間で終了する曜日でも15時10分には終業となり、個別な指導が必要な子どもへの対応や、教員の教材研究および研修などの時間を確保しています。

40分授業午前5時間制の成果と課題

2019年度~2023年度の文部科学省研究開発校として、目黒区内の小学校の実践をまとめた「40分授業午前5時間制を生かした創意工夫ある教育課程の開発」には、下図のように1単位時間を40分として教育課程を編成するメリットや、これからの課題などが報告されています。

1単位時間を40分とすることで、年間100コマを超える時間を生み出すことができ、その時間を大きく二つの内容で有効に活用しているということです。

一つめは、学校の実態に基づく特色ある教育活動の実践です。探究的な活動や体験活動、発展的な活動など、教科・領域などで学習したことを活用して、自ら学習する力の育成を目指したもの。また、基礎的・基本的な内容の定着を図るための活動など、子どもの学習の状態に応じた指導・支援に充てるものです。

二つめは、OJTや学年会、また、教材研究や児童理解を深めるなど教員一人一人の裁量で使える時間とするものです。「限られた時間で、学校独自のカリキュラム開発ができる」としています。

なお、最も心配の声が多い子どもの学びの状況については、全国学力・学習状況調査結果を分析して説明しています。どの教科も全国の平均を上回っており、「40分1コマの時数カウントしていなかった令和元年とも数値の変動はほとんどない」こと、「学びに向かう意識の肯定的評価」や「学校の充実感や満足感、自己肯定感」が全国よりも高いことを記しています。

一方、今後の課題としては専科などの2コマ続きの授業の時間割設定の難しさや、1コマ40分と授業時間自体が短くなったことにより、教員の指導の工夫が必要となることが挙げられています。教科書は、1単位時間を45分として編集されていることから、指導計画の立案や調整が必要です。つまり、これまで教科書に頼っていた部分を改善し、自主的かつ合理的に授業づくりをする力がますます求められるということです。加えて、探究的な活動を重視していますので、カリキュラム・マネジメントの力を高める必要もあります。

1時間単位を5分減らして、生まれた時間を学校裁量とする動き

学習指導要領では、小学校高学年の場合、1単位時間を45分として、年間の総授業時間数は1015時間、つまり、45分×1015コマ=45675分を標準の総授業時間と決めています。

目黒区の取組は、文部科学省の研究開発としての指定を受けた、特別な取組であると言えます。しかし、文部科学省は次期学習指導要領改訂の動きのなかで、小学校と中学校の1単位の授業時間を5分減らすことを検討しています。

小学校を例にすると、40分×1015コマ=40600分となり、5分×1015コマ=5075分(約85時間)を各学校の裁量で特色のある教育活動を計画できるというものです。

学校が活用できる時間や、そこにかけられる教職員の労力は決まっています。それを超えると、学校教育が「カリキュラム・オーバーロード(教育課程の過積載)」となり、学校組織全体が疲弊し、当初掲げていた目標の実現は難しくなり、負担に耐えられない教職員の出現も避けられないといった状況が生まれています。

この改善の一策としても、1単位時間5分縮減のアイデアは、「40分授業午前5時間制」の特色ある教育課程の研究開発の成果に通ずるものがあり、国レベルの今後の議論と自治体レベルの具体化に期待したいところです。

▼参考資料
目黒区(PDF)「本区の特色を生かした教育課程『40分授業午前5時間制』の推進
目黒区教育委員会(PDF)「40分授業午前5時間制を生かした創意工夫ある教育課程の開発
讀賣新聞オンライン(ウェブサイト)「小中学校の授業を5分短縮、年間で計85時間を弾力的に運用へ…各学校の裁量で自由に」2024年2月10日

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