【明日の教室セミナー】ChatGPTで人生が変わる!京都橘大学・池田修先生による生成AIセミナーレポート
文/糸井登(「明日の教室」代表、京都女子大学附属小学校副校長)、吉川裕子(立命館小学校教諭)
目次
「明日の教室」とは
みなさん、こんにちは。「明日の教室」代表の糸井登です。「明日の教室」は、池田修(京都橘大学教授)と私・糸井の2人が代表を務める教育研究会です。若手教員と教員志望の学生の学びの場として、2007年に立ち上げました 。会員制ではなく、誰でも自由に参加いただける緩い研究会です。
緩い会ではありますが、セミナーは「明日の授業や教室経営に悩む若手教師の手助けとなるよう、全国から一流の講師に登壇いただく。そして、その講師の先生の教育哲学を深く学び取る」という硬派な志のもとに計画、開催しています。
今後、そんな「明日の教室」のセミナーの様子を「みんなの教育技術」の場を借りて報告していきたいと思います。
さて、今回報告するのは、4月20日(土)の午後、京都橘大学を会場に行われた池田修先生による「教育における生成AIの可能性」と題するセミナーです。国語教育を専門にされている池田修先生ですが、今は文部科学省学校 DX 戦略アドバイザーも務められており、文部科学省主催の「生成AIの利用に関するオンライン研修会」にも登壇されています。オンライン研修会の様子は、以下のサイトで視聴することができます。 今や教育工学を専門とする先生のような活躍ぶりです。
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https://www.youtube.com/watch?v=Wu74X5NbAcM
また、国語教育の専門家としてのセミナーの様子は、以下の 「明日の教室DVD」シリーズで見ることができます。
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http://www.sogogakushu.gr.jp/asunokyoshitsu/dvd_058.htm
では、セミナーの様子を紹介します。報告を書いてくれたのは、吉川裕子先生(立命館小学校)です。
池田修先生セミナーレポート(報告者:吉川裕子先生)
ChatGPTの適切な使い方と教育者の役割
立命館小学校の吉川裕子です。今回の「明日の教室」セミナーは、京都橘大学の池田修先生によるChatGPT講座でした。池田先生は国語科と書道の先生ですが、「ChatGPTは言葉(日本語)を使って命令を書くから、言葉の問題だ!」という問題意識から、この1年半ほどChatGPTのいろいろな使い方を研究されてきたそうです。そのほんの一部を教えていただく、充実した3時間半の講座でした。
他の様々なツールと同じくChatGPTには良い面と悪い面があります。法的な面の整備が不十分な現状では慎重に行うべきでしょう。しかし、教育者としては禁止するのではなく適切な使い方を指導することが大切だと池田先生は言います。著作権や個人情報の保護に配慮しつつ、活用していくことが求められるでしょう。世界中の先生たちが「どうしよう」と言っている状態の今、先に進めば先行者利益がある、だから自分を幸せにし、仲間を幸せに、社会を豊かにする使い方をしているか確かめながら、どんどん使っていけばどうかと、池田先生はお話しされました。
ChatGPTを使う上での注意点
使う上での注意点も学びました。まず「アンカリング」という最初の情報を正しいと思い込む傾向への対策。生成AIは同じ指示を出しても違う答えを出すので、生成する際に複数の答えを出すように指示をすることである程度回避できるとのこと。
次に「アジャイル」という、プロジェクト初期に失敗を経験することの重要性。ICTには間違ったら何度でもやり直せるよさがありますが、「正解主義に陥っているとなかなかうまく使えない」という言葉が印象に残りました。社会全体の「少ない労力で価値を得る方がいい」というコスパ意識の蔓延が背景にあるようです。
そして3つ目が「5合目からの登山」という問題。登山に例えると、ChatGPTを使うというのはいきなり5合目に行ってしまうようなもので、「この先ぐんぐん険しくなる道を登るための術」を身に付けられていない状態だということを、倉本聡さんのエッセー「谷は眠っていた:富良野塾の記録」(理論社)を引用しながらお話しされました。この点も将来的には大きな問題になるかもしれません。ChatGPTに頼り切ることで基礎力が身につかない恐れがあるという、示唆に富む内容でした。
ChatGPTは学習者の「問い」や「指示」があって初めて機能します。言葉をデータとして入力し、質問を投げかけることで新たな言葉を生成できるのです。だからこそ問いを立てることが大切になります。まさに学習者主体の学びそのものであり、国語教育の重要性が増していくことでしょう。非連続型テキスト(図、写真、グラフなど)も国語の範囲なので、ますます国語の役割が大きくなりそうです。
「今日の講座で紹介する内容を自分ならどう使うかを常に考えながら講座を受けてください」「自分の仕事にどう生かしていくかを考えながら聞いてください」「途中で気になったことがあったら、どんどんChatGPTを操作してください」という池田先生の言葉で使ってみたくてわくわくしてきました。
ChatGPTを活用するための実践と体験
そして、いよいよ体験の時間です。まずは先生の指示に従って「京都観光する〇〇」「〇〇風の絵」などいろいろな絵を Microsoft Copilot で描きました。思った通りの絵でなければ、指示を出し直して書き直しです。「イラストレーターが世界中で仕事を失う」という話にもうなずけますし、的確な指示を出すことの難しさも分かりました。「やりなさい」と言われなくてもついつい時間を忘れて、いろいろ試してしまいます。著作権は十分には配慮されていないので、著作権についてある程度自分で理解しておく必要があります。このことも、実際にやってみて、体験的に理解できました。
ChatGPTは命令に応じた正解のデータベースを持っているわけではないので、人間から見ると嘘の回答をしてくることがあります。調べることは苦手なので、Google検索と同じようなイメージで使ってしまうと難しいようです。「聞き方によって回答は変わる」と池田先生。いろいろな聞き方を試してみました。「え? この一言を入れるだけで分かるの?」「だったら、こうしてみたらどうだろう?」と、またまた試行錯誤の時間です。
的確な指示の出し方、著作権への理解、嘘の回答への対策など、使いこなすには学ぶべきことが多いと実感しました。
池田先生の大学のゼミでは、卒業論文は一度生成AIを通すように指示した結果、誤字脱字が全くなかったそうです。これからは、生成AIがあることを前提とした論文指導、作文指導が必要になるという言葉に納得です。「子どもたちが作文を書くことを嫌がるのは、書き方が分からないからではないのか。試しに生成AIで書いてみて作文の書き方が分かるなら悪いことではないのではないか」という言葉に納得しつつ、実際に生成AIで書いた作文が出てきたらどう対応するだろう、と迷いも感じます。生成AIで作文の手本を示すことは一案ではありますが、生成された作文が提出されたらどう対応するか、慎重に検討する必要がありそうです。
読解の視点を変える、推敲や小説のプロット作り、作詞作曲など、生成AIの活用法は無限大です。池田先生いわく、「要望や願望が多い人ほどできることがたくさんある」とのこと。何に使えるかを考えると、いろいろな使い方ができそうです。発想力が問われる時代の到来を感じずにはいられません。
これからの時代を生き抜くためのヒント
セミナーの締めくくりに、池田先生はこう言いました。「ChatGPTは中央値でしかなく、誰かの心を鷲掴みにするには、自分の経験が必要になってくる」「外れ値に価値が出る時代が来た」「常識にとらわれない、わがままだと言われている人の発想が生きるようになっていくか」。ChatGPTという技術の本質を突いた言葉に、受講者一同が大きくうなずきました。
ChatGPTの登場以降、「これまで以上に文章を読む時間が増えた。作文指導ではなく、読む練習をしているという捉え方をした方がいいのかもしれない」という池田先生の言葉が印象に残っています。確かに、ただ文章を書くことよりも、読解力や批判的思考力を養うことが重要になるのかもしれません。
AIの発展によって、私たちの生活や仕事、学びのあり方は大きく変わろうとしています。ChatGPTを適切に活用しつつ、それに頼るのではなく自らの力を磨いていく。今回のセミナーを通して、これからの時代を生き抜くためのヒントを得られた気がします。
あっという間の3時間半。「え? こんなこともできるの?」と驚きの声を上げ、「だったら、こんなこともやってみたい!」と思いつき、最後にはこれからの人の生き方そのものについてまで考えさせられる時間でした。池田先生のお話に触発され、私も自分なりに生成AIと向き合っていきたいと思いました。皆さんも、ぜひChatGPTの可能性を探ってみてはいかがでしょうか。
以上、吉川先生によるレポートでした。毎日、忙しくて、楽しくて眠るのが惜しくなると嬉しそうに話す池田先生。その学びの姿こそ、若い先生に感じ取ってほしいところです。セミナーの後は、懇親会。焼き鳥を食べながら教育談義は続きました。「本当の学びは、セミナー後の懇親会!」が、「明日の教室」の合言葉です(笑)。ここ数年、コロナ禍で、懇親会を控えてきたのですが、やっと日常が戻ってきました。
次回予告:藤原友和先生「教職のターニングポイント」
さて次回の「明日の教室」セミナーは2024年6月1日(日)、『みんなの教育技術』でもお馴染みの藤原友和先生(北海道函館市小学校教員)に登壇いただきます。
藤原先生は、2011年に単著「教師が変わる 授業が変わる ファシリテーション・グラフィック入門」を出版された時に、「明日の教室・大阪分校」で講師としてお招きしています。今からもう13年前になります。ファシグラ(ファシリテーション・グラフィックの略)を引っ提げて登場してきた新進気鋭の実践家というのが、藤原先生の印象でした。あれから10年以上たちますが、この間、ずっと藤原先生の動向に着目してきました。
ここ数年、凄いなと思いながら見ていたのが、コーディネーターとしての藤原先生の姿でした。様々な実践家をうまく繋ぎながらセミナーを運営させている姿はなかなか真似ることのできないものでした。そんな姿を見てきましたから、今回のセミナーでは、藤原先生にセミナーの構成を委ねることにしました。
藤原先生がどんな内容でセミナーを構成するのか……楽しみに待っていると、驚きのプランが送られてきました。何と、セミナーの中に池田先生と私も組み込まれていたのです。というわけで、今回のセミナーでは、藤原先生と池田先生、私も加わり「教職のターニングポイント」について考えていくセミナーとなります。これは、もうここでしか聴けないセミナーになること間違いなし。私も藤原先生のコーディネートによって、新たな自分を発見できそうです。
そして、私だけでなく、参加者の一人ひとりが新たな自分を発見する場になると思います。
【詳細・お申込み】
明日の教室セミナー「教職のターニングポイント~観が変わるとき・実践が変わるとき~」
講師:藤原友和先生(北海道函館市小学校教員)
日時:令和6年6月1日(土)13:30~17:00
会場:新学社5F会議室(京都市山科区)
https://peatix.com/event/3901756/view