「文部科学省」は何をするところ?教育行政における国・都道府県・市町村の関係~シリーズ「実践教育法規」~

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横浜市立大学国際教養学部准教授

阿内春生

田中博之

『規範意識』という言葉があります。それは単に法律や制度に則って行動する、というだけでなく、法律を支える道徳的原理に基づいて行動する、ということです。国の法のもとで運営されている学校機関に勤めるすべての先生にとって、規範意識は教育活動の下支えとなる大切な素養。もちろん、管理職の職務遂行時にはもちろん、昇進試験で問われる大切な知識でもあります。
本連載は、教育に関する法令や制度に詳しい早稲田大学教職大学院・田中博之教授監修のもと、そんな「教育法規」をわかりやすく解説していきます。
第3回は「教育行政における国・都道府県・市町村の関係」について。それぞれが義務を負う範囲を整理していきましょう。

教育行政のイラスト

執筆/阿内 春生(横浜市立大学国際教養学部准教授)
監修/田中 博之(早稲田大学教職大学院教授)

【連載】実践教育法規#3

国と地方の関係とは

国(中央政府)と都道府県・市町村(地方政府)の関係は政府間関係、あるいは中央地方関係といいます。教育行政に関しては、中央省庁である文部科学省・都道府県教育委員会・市町村教育委員会の関係がメインルートではありますが、他省庁や地方政府内の他の部局など教育行政以外の行政機関、政治家、利益団体など多様な利害関係者を含む政府間関係が存在しており、文部科学行政のみが教育行政の政府間関係を構成するわけではありません。ただし、とりわけ学校教育に関しては、文部科学省、教育委員会など教育行政機関の連携が政府間関係の中心であることも間違いないため、ここでは文部科学省・都道府県教育委員会・市町村教育委員会を扱うことにします。

文部科学省は中央政府の教育行政機関であり、学校教育にとどまらず、生涯教育行政、科学技術行政などを広く担います。都道府県教育委員会も同じく幅広い教育関連の行政を扱っていますが、高等学校や特別支援学校の大部分を設置し、特別支援学校については設置義務も負っています。市町村教育委員会の扱う行政の範囲も、文部科学省や都道府県教育委員会に準じますが、公立の義務教育諸学校のうち、小学校や中学校などの国民の多くが通う学校の設置義務を負っている点が重要です。市町村は義務教育機会を確保する責任を負っており、義務教育という行政サービスの提供者であることの責任を果たす必要があります。

教育行政の関係図
文部科学省、都道府県教育委員会、市町村教育委員会の関係(筆者作成)。

教育行政に関する政府間の関係

文部科学省は中央省庁として、全国的な教育関連政策を立案実施しています。文部科学省や国が直接に設置したり管理したりする学校は、大学などの高等教育機関(とその附属学校)にほぼ限られますが、初等・中等教育段階でも公立の義務教育諸学校の教員給与や諸国庫支出金等を通じた財政面、初等・中等教育段階の教育課程や学校設置に関する諸規定など法令およびその運用面で大きな役割を担います。こうした、財政や諸規定を通じた関わりは時に、都道府県や市町村の教育政策・行政を拘束することもあり、地方政府に与える影響力という意味でも文部科学省の権限は大きくなっています。また、就学前教育についても厚生労働省や内閣府と連携しつつ、中央省庁としての役割を果たしています。

都道府県教育委員会は、高等学校や特別支援学校の設置と管理、公立義務教育諸学校の人事権と給与負担を担うため、これらを通じて小中学校や市町村教育委員会との関係を持っています。なお、政令指定都市教育委員会は人事や給与負担については都道府県教育委員会と同様の権限を持ちます。

教員としての経験を持つ職員が(多くは教員としてのキャリアの途中にある職員)、指導主事として都道府県教育委員会に在籍し、教員の指導助言に当たります。多くの都道府県では域内をいくつかに分けた範囲の指導や人事、社会教育などを担う「教育事務所」を設置しています。市町村教育委員会は公立小中学校の設置、管理監督を担いますが、前述の通り公立義務教育諸学校の人事権・給与負担権は原則として都道府県教育委員会が保持しているため、学校の管理監督、教員の日常的な業務の管理が中心業務となります。指導主事は市町村教育委員会に在籍する場合もあります。

教育行政に関する政府間関係図
出典:阿内(2021:20)より一部抜粋。 阿内春生(2021)『教育政策決定における地方議会の役割ー市町村の教員任用を中心として』早稲田大学出版部

このように、学校に関する行政を見ても、教育行政に関する政府間関係は分担と協力の体制が敷かれており、学校現場に近い市町村、中間的な都道府県、政策的な誘導等を行う文部科学省、それぞれが自らの業務の範囲内でかつ、連携しながら行政の活動に当たっています。ただし、こうした重層的な教育行政機関の構造の中で、市町村や都道府県教育委員会が完全に自律的な政策形成・決定が可能とは言い切れないため、分担と協力の関係には一定の留保が必要です。

『実践教育法規 2023年度版』に加筆・修正

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