ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #19 「Goal 9 産業と技術革新の基盤をつくろう」その2|藤原友和 先生

連載
ウェルビーイングを学校でつくる! ~カリキュラム・マネジメントで進めるSDGsの授業プラン~

北海道公立小学校教諭

藤原友和
ウェルビーイングを学校でつくる! ~SDGsの授業プラン #19
タイトル

全国各地の気鋭の実践者たちが、SDGsの目標に沿った授業実践例を公開し、子どもたちの未来のウェルビーイングをつくるための提案を行うリレー連載。今回は北海道の藤原友和先生による、「産業と技術革新の基盤をつくろう」を学ぶ授業実践の報告です。

編集委員・執筆/北海道公立小学校教諭・藤原友和

1 はじめに

みなさん、こんにちは。北海道函館市で小学校の教員をしています、藤原友和と申します。
元々は中学校の国語科の教員として教職生活をスタートさせましたが、縁あって小学校に異動し20年が過ぎようとしています。
この間の社会の変化は凄まじく、昨今では「生成AI」が注目を集めているように次々と新しいテクノロジーが開発されては、それが普及し、いつの間にか当たり前になっていく様子を見てきました。
今回の報告は、そんな新しいテクノロジーとの向き合い方をテーマとしています。どうぞよろしくお願いします。

2 SDGsのGoal 9についての解説

Goal 9「産業と技術革新の基盤をつくろう」は、もう少し詳しく内容を確認すると、「レジリエントなインフラを構築し、誰もが参画できる持続可能な産業化を促進し、イノベーションを推進する*1」こととされています。
「レジリエントなインフラ」とは、災害などに強いインフラのことを指します。近年の酷暑、頻発する暴風雨、地震・津波などの自然災害などを鑑みるにつけても喫緊の課題であることが実感されます。
また、人口減少社会とされる現在の国内の産業においても「誰もが参画できる持続可能な産業化」は、今後の日本社会全体の課題であることは言をまたないでしょう。
「大量生産・大量消費」により経済を発展させてきたこの国の経済のあり方は見直されるべきという声が上がり始めて久しいです。少子化については、2016年に初めて出生数が100万人を下回った*2ことでいよいよ国民・政府の危機感が高まります。しかしながら効果的な対策を打てているとは言い難い状況です。
こういった問題意識を背景に、本稿では「ターゲット9.4、9.5*3」達成のポイントになるであろう「生成AI」とどう向き合うか考えることを扱った道徳科の授業について報告します。

3 SDGsのGoal 9を扱った授業の実際

・対象学年 小学6年

教科及び領域 特別の教科 道徳

ねらい 「生成AI」とどう向き合うか考えることを通して、真理を大切にし、物事を探究しようとする心情を養う。

・教材 生成AIが生成した画像、Microsoft Bing、ChatGPT

授業展開
授業の冒頭、次の画像をモニターに映し出します。

猫と花

発問 タイトルはなんでしょう。

かわいい猫
2匹の仲良し猫
猫と花

子どもたちは実に様々な「タイトル」を考えます。さすが6年生だけあって、「まっすぐな瞳」なんていう文学的なタイトルを考える子もいます。「あぁ、確かに!」「素敵なタイトルですね。元のものよりずっといいかも!」などと子どもの発言を受けながら話し合いを進めます。
「はい。『猫と花』です。正解です! では次の画像は何かな?」
と、このように、いくつかの画像についてタイトルを考えるというやり取りを続けます。
使用した画像は以下のものですが、勘のいい子はいち早く気が付きます。

画像例

「AIが描いたんじゃない?」
『そうです。これらの画像は生成AIが描きました。みなさんに考えてもらった“タイトル”は、じつは、生成AIへの指示(プロンプト)だったわけです。』

「やっぱり」「えーすごい!」
など、声が上がる中、普段から休み時間には絵を描いて過ごすことが多い子を指名して訊きます。

『どう、これ? すごく頑張って技術を習得しなくても、絵が描けてしまうよね。』
指名された子はなんだか余裕の表情です。
「いやいやいや。推しはこんなもんじゃない。」
指名された子はなんだか余裕の表情です。
『(笑)なるほど! 好きな絵師さんの魅力には敵わないか!』
「だって、AIの絵にはなんか変なところがあるよ。」別の子も発言しました。
『そうだよね。指示する絵の種類によっては満足な物ができ上がることがあれば、人間の絵は不得意なのか、どこか不自然な絵ができ上がることもあるよね。』

『じゃ、こんなことを聞いたらどうだろう』

こう言って、2020年に大ブレイクしたアーティストの名前をChatGPT(3.5) の検索ウインドウに入れます。そしてエンターキーを押す前に、『詳しく情報を教えてくれるかな? どう思う?』と挙手を求めると、「教えてくれるはずだ」と考える子が大半でした。

ところが…

申し訳ありませんが、私の知識は2021年9月までのものであり、その時点では「●●」というアーティストについて情報を持っていませんでした。
●●が2021年以降に活動を開始した場合、それについては私の中に含まれていない可能性が高いデータベースです。最新の情報を知りたい場合は、●●の公式ウェブサイトやソーシャルメディアアカウント、音楽ストリーミングプラットフォームなどをチェックしてみることをおすすめします。また、音楽関連のウェブサイトや情報サイトでも●●の情報を入手できることができないかもしれません。

こんな回答が得られました。続けてデビュー35周年を迎えるロックバンドについて尋ねると、さすがにたくさんのことを回答してくれます。しかし…

ChatGPT(3.5) の回答

「それっぽい」回答ではあるものの、名前の読み方が間違っていたり、楽曲のタイトルが違っていたり、英語を直訳しただけのものだったりと、「不正確」である情報が目立ちます。

これまでも国語の授業や総合的な学習の時間の中で、担任が操作する生成AIを活用しながら学習を進めてきた子どもたちにとっては様々に思うことがあるのでしょう。生成AIの回答に対してツッコミを入れる子どもがいれば、何やら思案顔になっている子もいます。
そこで、次のように問いました。

発問 生成AIのメリットとデメリットについて考えましょう。

子どもたちは一斉にChromebookを開き、スプレッドシートに考えを書き込みます。

表 生成AIのよい点、悪い点

担任も同時にスプレッドシートを操作し、全体で意見を発表してもらう子の枠を黄色に変えておきます。全員の書き込みが終わったところで、黄色に変えた意見を発表してもらいました。
このとき、発表してもらう意見を選ぶ基準は、「メリット・デメリットをシンプルに指摘していること」「理由を聞いていったら深まりそうな書きぶりをしていること」でした。つまり、メリット・デメリット双方をさらに多面的に考えるきっかけを与えてくれそうな意見を意図的に指名しています。
『これがなきゃ生きていけないって、すごいね。生成AIはそんなにすごいんだ。』
「そう。なんていうか、絶対に要る。これがなきゃ、ダメ。」
一方で、懸念を表明する子もいます。
「AIに頼りすぎると、自分の頭で考えなくなる。」
『どうしてそうなっちゃうの?』
「やっぱり、楽だから。」
このように、メリット・デメリット両方の考えを聞いていきます。発言順は意図的な指名に基づきますので、「易から難へ」「具体から抽象へ」と子どもたちの思考がスムーズに流れるようになっています。
『いろんな意見があったね。どう? 今日の授業では深く考えることができた?』
無言で頷く子どもたち。
そして明かされる衝撃の事実。

説明 じつは、今日の授業は生成AIに作ってもらいました。

「えー。」
「こわいこわい。」

じつはこの日の授業は、MicrosoftのBingを使って、AIに指導案を生成させたものだったのです。続けて、次のように話しました。

『AIにつくらせた授業で、AIについて考えました。ところで私たちは今、“考えた”のでしょうか。それともAIに“考えさせられた”のでしょうか。』
『結局、使うのは人間ですし、どのような使い方をするのか判断して選ぶのも人間です。良い使い方を判断できる人間になっていきたいですね。もちろん、私も含めてね。』

そして、今日の授業の振り返りを先ほどのスプレッドシートに書き込みます。

表 振り返り

・評価について
AIのメリット、デメリットを比較して、「自分はどのような使い方をしていくか」ということについて考えを深められたかどうかを見取ります。この視点から考えると、上に引用した振り返りをみる限り、どの子も自分なりに考えを深めることができたのではないかと思われます。
ねらいとしていた「『生成AI』とどう向き合うか考えることを通して、真理を大切にし、物事を探究しようとする心情を養う」ことにある程度せまることができた、と判断してよさそうです。

4 授業の成果と課題、他教科・他領域とのつながり

この授業は、修学旅行に関連した総合的な学習の時間の単元「徹底比較! 青函ツインシティ比べ隊」の最終レポート「青函比較論」を作成する前の、生成AI活用のための授業という位置付けでもあります。「青函比較論」では、函館市と青森市の施設や歴史的建造物などについて、それぞれのものがまちにあることの価値について論じていくこととしています。
国語科でも「青函比較論」に関連するパネルディスカッションを行い、様々な角度から材料を集め、考えを深めてレポートの作成に取り組みました。
下の図は、校内研究の指導案に掲載した単元の構造図です。
「本時」が国語科になっているのは、教科横断的な大単元構想のうち、パネルディスカッションの準備を進めているところを公開したことによります。

校内研究テーマ「青函比較論」に基づく単元の構造図

なお、本稿で報告した道徳科の授業、並びにレポート「青函比較論」作成に当たって、NHKの取材が入りました。アーカイブ動画の公開は既に期間が終了していますが、取材に当たった記者の方のブログ*4は閲覧可能ですので、よかったら覗いてみてください。

【参考文献】
*1 蟹江憲史、2020年、『SDGs(持続可能な開発目標)』、中公新書,p.92
*2 河合雅司、2017年、『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』、講談社現代新書,p.7
*3 蟹江憲史、前掲著、p.273
*4 NHK,2023年9月20日、「道南Web」、「生成 AIを考える 人はどう向き合う」(2023/10/09取得)


この連載は、毎週木曜日のAM6:00に公開します。どうぞお楽しみに!

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