自殺予防教育とは?【知っておきたい教育用語】
厚生労働省の調査によると、2022年の児童・生徒の自殺者数が初めて500人を超えたということです。その内訳は、高校生が354人、中学生が143人でした。2006年(平成18年)に自殺対策基本法が成立し、国として総合的な取組を実施してきた結果、当時の自殺者総数約3万人から約2万人まで減少してきましたが、児童生徒の自殺は増加の一途を辿っています。関係省庁をはじめ教育委員会や学校が実施している「自殺予防教育」について解説していきます。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴

目次
自ら命を断つ児童生徒が増加
2023年7月に文部科学省が出した、「児童生徒の自殺予防に係る取組について(通知)」では、1月から5月までの児童生徒の自殺者数は暫定値として164人と示されています。前年度同時期の190人と比較してこの時点では下回っているものの、依然として自殺者数は高い水準にあります。
また、2023年9月8日には、厚生労働大臣と文部科学大臣、こども政策担当大臣が連名で「こどもの自殺対策の推進のために」という大臣メッセージを都道府県、区市町村等の自治体に向けて発出しました。特に、小中学校の設置者である区市町村等の教育委員会宛のメッセージには、「誠に忸怩たる思い」や「非常事態に対処するため」といった切実な言葉が記され、その上でこどもの自殺対策への地方自治体の果たす役割の大きさに言及しています。厚生労働省や文部科学省などの関係省庁が連携してこのようなメッセージを出す状況に、問題の深刻さが表れています。
自殺予防教育とは
日本の自殺者対策に関する法的な整備については、2006(平成18)年に「自殺対策基本法」が成立し、2017(平成29)年に「自殺総合対策大綱」が改正制定されています。これらの法整備に即して文部科学省は、2009(平成21)年に「教師が知っておきたい子どもの自殺予防」を作成し、全国の学校に配付し、加えてその概要リーフレットを全国の全教職員に配付しました。さらに、2021年に「子供に伝えたい自殺予防―学校における自殺予防教育導入の手引き―」を発出しました。これらが学校における自殺予防教育の根拠となっています。学校には、自殺の危機が迫った児童生徒への個別支援としての「危機介入」とともに、将来に渡って全ての児童生徒が心身ともに健康に人生を歩むことができるよう「自殺予防教育」に取り組むことが求められているのです。