教師の授業観を変え、実のある校内研修にするためには 【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #32】
教師と子供、子供同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第32回「コミュニケーション科」の授業は、<教師の授業観を変え、実のある校内研修にするためには>です。
目次
スタイルだけを変えても、充実した校内研修にはならない
今年度のゴールが目前に迫ってきました。訪問先の学校で、この1年間を振り返り、達成できたこと、課題に残ったことを尋ねると、子供主体の学びに変えていくための校内研修のあり方について、悩みを抱えている管理職が少なくありません。授業改革のために校内研修を見直し、従来とは異なるやり方に変えたものの、遅々として進まないという声をよく聞きます。
どの学校でも、年齢やポジションに合った学びや、みんなが参画できる学びをめざした校内研修のあり方を探っていることがわかります。
授業者の授業について、何人かが質疑応答をしたり意見を述べた後、指導主事が講話を述べる従来のやり方から、全教員が参加して授業についての意見や感想を付箋に書き出す形に変えた学校も多いようです。しかし、「授業の中で、A子の発言を拾い上げていたのがよかった」と断片的に取り上げる程度で、子供主体の授業改革が進んでいると勘違いしているように見受けられる場面が少なくありません。
また、従来の一斉授業を変えようと、唐突に異学年交流や個別学習を取り入れ、“専門家” から意見をもらうものの、それが一部の教師のやりとりだけで終始する研修もあるようです。
こうした校内研修が、単に “研修のスタイル” を変えただけにとどまってしまっているのは、目指すべき教育の姿を理解しないまま、進めているからではないでしょうか。
この連載で何度も触れてきましたが、従来の教師主導の一斉指導の授業観のままでは、いくら校内研修のスタイルを変えても、授業が改革できるはずがありません。
主体的・対話的で深い学びを目指すのであれば、子供主体の学びに重点を置き、教師と子供の関係性、子供同士の関係性を重視した授業観に変えていかなければ、何を研究しても付け焼き刃のままです。
授業観を変えないまま、異学年で交流をしたり、教室の机の配置を換えたり、といった小手先を変えても、授業そのものが膠着状態では何も変わりません。
校内研修も同じです。子供主体の学びに授業観を変えるのであれば、せめて1つの単元全てを貫く研修が必要なはずです。指導案を元に1時間の授業を検討する程度の浅い研修では、得るものはありません。
指導案ではなく、子供たちの姿から話し合うことが大切
1980年代にストップモーション方式による授業検討を考案した教育学者の藤岡信勝氏は、かつて授業を構成する4つの要素を挙げていました。
①教育(学習)内容……何を教えるか
②教材……どういう素材を使うか
③教授行為……子供にどう働きかけるか
④学習者……その授業によって、子供の状態はどうなるか
70年代の授業は、主に教師による問答で進められる①②の授業構成でしたが、教育技術の法則化運動を中心とした流れで③が注目されるようになり、授業研究の1つとして、ストップモーション方式が生まれました。教室にビデオを設置し、教師の教授行為(教育技術)を検討したのです。このときの授業検討の主役は授業者である教師でした。
そして今なお、多くの学校で教師の教授行為中心の研修が続いています。
教育コンクールの審査員として送られてきた論文を読む機会が度々あります。最近は、ICT教育やESD教育など新しい教育に取り組む若手教師が応募したりと意気込みを感じます。しかしながら、指導方法や教材など手法については詳細に説明しているものの、協働的な学びが感じられない論文も少なくありません。個別最適化の視点はあっても、学び合う視点=全体最適化の視点が弱いのです。
その一番の要因は、一見新しいことに取り組んでいるように見えても、教師の授業観が変わらないからではないでしょうか。
教師の授業観を変え、実のある校内研修をどう行えばいいのか──それは、ひとえに管理職の “覚悟” にかかっています。
これまでの連載でも触れてきましたが、指導案を元に検討するのではなく、実際の授業の動画を見ながら、ストップモーション方式で進めていく形が効果的です。
子供主体の学びにしていくのであれば、もちろん主役は子供たちです。授業記録の動画は、教室後方だけでなく、子供たちの表情や仕草が見える前方からも撮影しましょう。
初めて取り組む教師のために、初回は自由に質問や意見を出し合ってもいいですが、2回目からはテーマに沿って話し合うようにしていきましょう。
テーマは研究主題に即して、「子供たちの対話が成立しているか」など1~2点提示します。そのテーマに照らし合わせながら、動画を見ていくのです。テーマ設定で大切なのは「子供主体」であること。さらには、教師対一人の子だけでなく、周りの子供たちのかかわりも見ていくことが重要です。
テーマによっては、山場の5分間だけ見ることもあるでしょう。テーマを設けることで、かみ合った意見を交換することができるし、時間短縮も図れます。
校内研修会に限らず、日常的にお互いの授業をストップモーションで見合えるような環境を作っていくことがより望ましいでしょう。
そのためには、教師自身が対話・議論力を身につけなければなりません。「うちの学級は、雑談はできるのに話し合いになると静まりかえる」と子供たちのせいにしたり、「話し合いの指導だけに時間をかけられない」とカリキュラムのせいにしたりして、避けている教師は少なくありません。それはひとえに教師自身が話し合いを経験していないことから来る単なる逃げや不安です。管理職は、教師自身が話し合いを経験できる校内研修を積み重ねていくことを促す必要があります。
構成/関原美和子
菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。