ひっぱり逆立ちの次のステップは? 【使える知恵満載! ブラッシュアップ 体育授業 #50】
#49では、「ひっぱり逆立ち」について紹介しました。腕を伸ばしたひっぱり逆立ちの姿勢を10秒保持できるようになったら、次のステップの「かべ逆立ち」に進むことができます。
執筆/学校法人 明星学苑 明星小学校教諭
東京私立初等学校協会 体育研究部主任・風間啓介
監修/筑波大学附属小学校教諭
体育授業研鑽会代表
筑波学校体育研究会理事・平川 譲
目次
1.手を着いた姿勢からの「かべ逆立ち」
立った姿勢からのかべ逆立ちは、急激な姿勢変化により体の操作を難しいと感じる子がいます。この難しさの軽減には、手を着いた姿勢からかべ逆立ちを始めるという方法がおすすめです。手を着いた姿勢から始めることで、急激に真っ逆さまになる怖さや眩(くら)みを軽減し、立った姿勢からでは難しいと感じる子もかべ逆立ちができるようになる可能性が高まります。手を着いた姿勢からのかべ逆立ちは、以下の手順で行います。
①手を置く位置と目線
壁から手の平1つ分ほど離して両手を置きます。目玉の目印を両手の間に置き、目線をマットに向けさせるようにします。また、子ども同士で「目玉を見て!」と声をかけるように指導します。
②足の位置
両手を着いた姿勢から足を振り上げるため、上半身を振り下げる勢いを利用することはできません。イラストのように腰を上げ、足を前後にずらす姿勢をつくり、強く足を振り上げるように指導します。
<図1>
2.仲間同士のお手伝い
1人で逆立ちになれない子には、教師や仲間がお手伝いをします。仲間がお手伝いをする場合は、2人で行うのが適当です。
お手伝いの子は、かべ逆立ちをする子の両側に立ち、準備します。構えた時に後ろになる足が最初に上がってくるので、タイミングを合わせて捕まえます。お手伝いする子が捕まえることに夢中になって、振り上げる足に顔を近づけすぎると、振り上げた足にぶつかってしまうので、図2のように構えます。
<図2>
次に、足を捕まえたら壁まで持ち上げて押し付けます。両足とも壁につけたら、ゆっくりと手を離します。
<図3>
3.立った姿勢からの「かべ逆立ち」
手を着いた姿勢からかべ逆立ち(お手伝いありでも可)を行い、10秒保持できるようになったら立った姿勢からのかべ逆立ちを行います。
①着手の位置と目線
1の①「手を置く位置と目線」で紹介したように、壁から手の平1つ分のところに着手します。目玉の目印もマットに置き、目線を意識させます。立った姿勢から勢いをつけて着手をすると、目線を意識せず顎を引いてしまう子が出てきます。顎を引くと、体を丸めて肘を曲げる動きにつながるので、子ども同士で「目玉を見て!」と、必ず声をかけるように指導します。教師もマットを回りながら「目玉目玉!」と声をかけるとよいでしょう。
②足の位置、バンザイの姿勢
足の位置は、前後に広げた姿勢をとります。手を着いた姿勢からのかべ逆立ちの時よりは少し広めです。
前の足は着手する場所から1足長くらい離れた位置に置き、腕はバンザイの姿勢をとり、高い位置から腕を振り下ろし、これを足の振り上げにつなげます。
<図4>
4.仲間同士のお手伝い
2で紹介した手順に従って2人で行い、構えたときに後ろになる足を早く捕まえるように指導します。ただし、着手した時よりも勢いがついているため、振り上がってくる足に十分注意させます。
<図5>
5.よく見られるつまずきと指導のポイント
①足が上がらない
足の振り上げがうまくいかない場合、構えた時に後ろになる足を先に振り上げることを理解させます。そして、先に振り上がる足のかかとを壁につけることができれば、もう片方の足も、これについてきて上がりやすくなることを伝えます。その後、教師の補助で、先に振り上げる足を壁まで押し上げてやります。この補助を数回繰り返して、どこまで足を上げてよいかの感覚をつかませていきます。
<図6>
②体が弓なりになり真っ逆さまの姿勢(図7)が保持できない
体が弓なりになるのは、体幹の締めが弱いことが原因です。おなかを触りながら「おなかを引っ込めてごらん」と声をかけて意識させます。また、お腹を引っ込めたよじのぼり逆立ちを行い、体幹を締める感覚を思い出させるのも有効な手立てです。
<図7>
6.クラスの半分以上の子ができるようになったら
#30で紹介があったように、技能の高い子に新しい技を課題として提示し、課題を個別化すると、子ども同士の価値ある関わりが少なくなり、技能の二極化が進みます。同じ運動課題に取り組ませることは、かべ逆立ちでも同様です。例えば、「お手伝いの人数を少なくして成功」「逆立ちの姿勢で○秒できた」といった奥行きをもたせた課題で、同じ技でその質を高める方向に学習を進めていきます。これにより、グループ内の関わりが増え、自分と仲間ができるようになった、上手になったという喜びを共有しながら授業を進めることができます。
<図8>
【参考文献】
筑波大学附属小学校体育研究部(2020)『できる子が圧倒的に増える!「お手伝い・補助」で一緒に伸びる筑波の体育授業』明治図書出版
イラスト/佐藤雅枝
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執筆
風間 啓介
学校法人明星学苑明星小学校 教諭
東京私立初等学校協会 体育研究部主任
1982年新潟県上越市生まれ。体育授業を通して「できた」を味わい、「できた」ことをみんなで共感し合える授業づくりを目指し研鑽中。また、実践を広げるためにオンラインで研修会を行っている。「『資質・能力』を育成する体育科授業モデル」(共著)(学事出版)
監修
平川 譲
筑波大学附属小学校 教諭
体育授業研鑽会 代表
筑波学校体育研究会 理事
1966年千葉県南房総市生まれ。楽しく力がつく、簡単・手軽な体育授業を研究。日本中の教師が簡単・手軽で成果が上がる授業を実践して、日本中の子どもが基礎的な運動技能を獲得して運動好きになるように研究を継続中。『体育授業に大切な3つの力』(東洋館出版社)等、著書多数。