金融教育とは?【知っておきたい教育用語】
金融教育の推進が学校現場で求められるようになりました。その背景には何があるのでしょうか。また、金融教育の目的や内容はどのようになっているのでしょうか。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・宮崎猛
目次
金融自由化
金融教育が求められるようになった背景には金融自由化の流れがあります。欧米では1970年代より金融の自由化がはじまり、様々な規制が撤廃されるようになりました。銀行や証券会社など、各金融機関の垣根が低くなり、金融機関同士の競争が促されることになりました。日本の金融機関や利用者は以前から欧米諸国以上に政府による様々な規制によって守られていました。どこの金融機関に行っても商品やサービスは同じという状況です。護送船団方式などとも言われていました。
欧米での加速する金融自由化の波は程なくして日本にも押し寄せ、金融自由化による経営の効率化が求められるようになりました。1990年代初頭におきたバブル景気崩壊も契機となり、1996年より金融ビッグバン(金融・証券市場制度の大改革)が始まります。銀行や証券会社の統廃合が加速化し、金融自由化が一気に進みました。金利や各種手数料などで競争が行われたり、消費者にとってより魅力のある金融新商品が開発されたりするようになりました。消費者にとっては選択の幅が増えることになりましたが、元本保証のない商品も増えることになり、運用結果については自己責任が問われるようになりました。
金融教育の定義
こうした金融自由化の流れを受けて、金融教育の重要性が指摘されるようになります。金融教育を推進し、そのプログラムや事例集を作成している機関に金融広報中央委員会があります。日本銀行の全面的な支援を受けて運営されています。同委員会は金融教育を次のように定義しています。
金融教育は、お金や金融の様々な働きを理解し、それを通じて自分の暮らしや社会の在り方について深く考え、自分の生き方や価値観を磨きながら、より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に判断し行動できる態度を養う教育である。
金融広報中央委員会「知るぽると」
金融自由化は金融教育推進の一つの契機となりましたが、より根本的にはよりよく生きていくためにお金に関する正しい知識やスキル、判断力といった金融リテラシーが必要不可欠と捉えられるようになったのです。その意味で金融教育は広くキャリア教育の一環として位置づけることもできます。
金融教育の方法
2005年は「金融教育元年」と呼ばれ、以降の学習指導要領に金融教育の内容が盛り込まれるようになりました。2022年4月からは、高校において資産形成に関する授業が必須とされました。
金融広報中央委員会によれば、金融教育は新しい教育分野として新たな教育領域を必要とするものではなく、既存の教科等における学習内容を基盤として展開されるものであり、その目標は「生活設計・家計管理に関する分野」、「金融や経済の仕組みに関する分野」、「消費生活・金融トラブル防止に関する分野」、「キャリア教育に関する分野」の4つに大別されるものとされています。以下にその内容を示します。
A.生活設計・家計管理に関する分野
<資金管理と意思決定>
ものやお金には限りがあること(希少性)を理解し、大切にする態度を身に付けるとともに、限られた予算の下で、よりよい生活を築く意義を理解し、実践する技能と態度を身に付ける。この際、資金管理に関する意思決定について、基本的な視点や概念(トレード・オフ、機会費用、効率、公正、価値観等)を理解し、実践する態度を身に付ける。
<貯蓄の意義と資産運用>
貯蓄の意義を理解し、貯蓄の習慣を身に付けるとともに、期間と金利の関係を理解し、長期的、継続的に貯蓄・運用に取り組む態度を身に付ける。併せて、金融商品の基本的な特徴を理解し、運用に当たっては、リスクとリターンの関係などを踏まえ、自己責任の下で判断する態度を身に付ける。
<生活設計>
生活設計の必要性を理解した上で、計画的にお金を使う態度を身に付けるとともに、将来を展望し、職業選択とも関係付けながら、自分の価値観に基づいて生活設計を立てることができる。また、生活設計に必要な様々な知識を身に付け、それを活用して自分の暮らしを考える。
<事故・災害・病気などへの備え>
事故や災害、病気など、日常生活において様々なリスクが存在することを理解し、身の安全を確保する方法を理解し、実践するとともに、他人に損害を与える可能性を認識し、安全な行動を心掛ける。併せて、不測の事態に備える必要性と、備える方法としての貯蓄と保険の機能について理解する。
B.金融や経済の仕組みに関する分野
<お金や金融の働き>
お金の働きや役割、金融機関や中央銀行の機能・役割を理解するとともに、金利の働きと変動の理由について理解する。
<経済把握>
ものやお金の流れと家計、企業、政府等の役割について理解するとともに、市場の働きや機能を知り、市場経済の意義や海外経済との関係について理解する。
<経済変動と経済政策>
景気の変動と物価、金利、株価等との関係や、政府の経済政策、中央銀行の金融政策について理解し、景気変動や経済政策と自分の暮らしや社会との関係を理解する。
<経済社会の諸課題>
経済社会が抱える問題について幅広く関心をもち、情報収集の技能を身に付けるとともに、経済社会の課題解決に向けて合理的、主体的に考える態度を身に付ける。
C.消費生活・金融トラブル防止に関する分野
<自立した消費者>
消費者の権利と責任を理解し、自立した消費者として行動するための基礎知識と態度を身に付ける。情報通信技術を含め、消費生活に関する情報を収集し適切に活用できる技能を身に付ける。
<金融トラブル・多重債務>
消費者問題の発生する背景について理解し、お金との望ましい付き合い方について日頃から考える態度を身に付けるとともに、金融トラブルや多重債務の実態を知り、巻き込まれない態度を身に付ける。また、法律や制度を知り、それらを活用したり、専門機関に相談したりして事態に対処できる知識と技能を身に付ける。
D.キャリア教育に関する分野
<働く意義と職業選択>
勤労の意義と働くことで得られるお金の価値を理解し、自分の職業選択について主体的に考える。また、労働者の権利と義務について理解し、それを生かす態度を身に付ける。
<生きる意欲と活力>
付加価値の創造が経済社会発展の原動力であり、付加価値を生み出すために、人々の様々な努力と創意工夫が必要であることを理解するとともに、自らの夢を描き実現の方法を考える力や、実現に向けて努力する態度を身に付ける。
<社会への感謝と貢献>
社会との様々なつながりを理解し、ルールを守り、 コンプライアンスの精神とともに、自分を支える他者に感謝する心を養う。また、よりよい社会を築くためにみんなで協力することの意味を理解し、何ができるかを考え実行できる態度を養う。
これらを「知識を得る(知る)」「考える」「関心をもつ」「働きかける(行動できる)」の4つの視点をもって実践を展開するものとされています。
人々の貯蓄を間接金融(銀行などへの預金など)から直接金融(株式投資など)にシフトさせようとする政府の施策もあり、これまで以上に金融教育の実体化が求められる状況にあります。また、2022年4月からは成年年齢が18歳に引き下げられ、お金にまつわる契約トラブルの発生なども懸念され、より早期からの金融教育も必要とされるようになりました。
▼参考資料
金融広報中央委員会(ウェブサイト)「知るぽると」