「学級開きで心理的な安全性を高める秘訣2選」対話型授業と自治的活動でつなぐ 深い絆の学級づくり #1
コロナ禍以降、コミュニケーションに苦労する子供や人間関係の希薄な学級が増えているといいます。子供たちが深い絆で結ばれた学級をつくるには、子供同士の関わりをふんだんに取り入れた対話型授業と、子供たちが主体的に取り組む自治的な活動が不可欠です。第1回は、「子供が間違いを恐れない授業をしよう」について解説します。
執筆/千葉県公立小学校校長・瀧澤真
目次
子供同士の関係性の視点から、学級経営を考えよう
学級経営と言えば、教師がいかに子供を統率し、まとめていくのかというイメージがあるのではないでしょうか。それは「経営」という言葉のせいかもしれません。「経営」という言葉には、「会社の経営」というニュアンスがありますよね。つまり、担任が社長で、子供たちは社員といったところですね。
ですので、学級経営という言葉をネットで検索してみると、「ルールづくり」「いじめを許さない学級づくり」といった、生徒指導的な内容が出てきます。子供たちをいかに管理し、統率するかということです。
もちろん、そうしたことも学級経営にとって大切な側面です。
一方で、これから求められる、多様な人々と協働しながら人生を切り拓くような子供を育てるには、子供同士の関係性も重要になってきます。
そこで本連載では、生徒指導的な側面ではなく、子供同士の関係性という視点から、学級経営を考えていきます。
心理的な安全性の高い学級をつくろう
心理的な安全性が高いとは、他の人の反応に対して怖さや恥ずかしさを感じることなく、自分を包み隠さないで自然体で活動していける状態を指します。
あなたの学級では、子供が間違っても堂々としていられるでしょうか。失敗が許される寛容さがあるでしょうか。そういう風土がなければ、子供同士の関係が深まるはずはありません。
では、どうしたらいいのでしょうか。担任が率先してそういう空気、風土をつくっていくことです。
学級開きで心理的な安全性を高めるための秘訣を2つ紹介します。
秘訣1:子供が間違いを恐れない授業をしよう
例えば、私が国語の授業開きでよくやるのが、「蝸牛」という字を書いて、なんと読むのか考えさせるというもの。
元気な子が適当に読んだら、「君はすごい。そういう間違いを恐れない姿勢がすばらしい」とほめます。「たくさん間違えるから、正解にたどり着く」とも伝えます。
すると、「なべぎゅう」などと読む子が現れます。なぜそういうふうに読んだのか聞くと、「鍋」に似ているから、「牛という字はぎゅうと読むから」と答えるでしょう。
そこで、「適当に答えてもいいのだが、似ている字から想像したり、知っていることを使ったりしているので、すばらしい。間違っているけどね」と伝えます。
こうなると、「間違ってもいいのだ」ということが、子供たちに浸透していきます。そこで、ヒントは「虫偏にもあるよ」と伝えます。すると、「カブトムシ」などと答える子も出てくるでしょう。
なぜかと問えば、「虫の中で牛のように角があるから」という子がいます。そういう子には「天才的な間違い」などと言ってほめます。こうなると、正解の「かたつむり」まではすぐにたどり着きます。
そこで正解した子をほめつつ、
間違った答えを言うことで、正解はそれではない読み方だと分かるよね。そうして、たくさんの間違いを積み重ねることで、正解が分かったのです。だから、正解した人も偉いけど、間違ったことを言った人も偉いのです。
と、こんなふうに話をします。
そして、仕上げに『教室はまちがうところだ』の絵本を読み聞かせます。
これは、蒔田晋治さんの有名な詩「教室はまちがうところだ」を絵本にしたもので、上述のような授業でやっていたことを再確認させてくれる内容です。著作権の関係で、少しだけですが、紹介させてもらいます。
教室はまちがうところだ
『教室はまちがうところだ』作/蒔田晋治 絵/長谷川知子(子どもの未来社)より
みんなどしどし手をあげて
まちがった意見を言おうじゃないか
まちがった答えを言おうじゃないか
ぜひ、全文を読んでいただきたいと思います。どの学年にも使えるので、この絵本を買うことをお勧めします。
また、「教室はまちがうところだ」は長い詩なので、いくつかの文を取り出した掲示物を作り教室に貼っておくのもよいでしょう。
もちろん、間違いを推奨するのは最初だけで、その後は正解主義になっては、口先だけとなり信用されません。
秘訣2:教師が上機嫌でいよう
また、教師がいつも笑顔で機嫌よく過ごすことも、心理的安全性には欠かせません。
子供同士の関係が大切だといっても、やはり教室における教師の影響は絶大です。逆の立場で考えてみましょう。
校長の話す内容が気になりませんか。校長が毎日不機嫌だったらどうですか。それだけで、職場が楽しくなくなりませんか。担任というのは、職場での校長以上に影響力がありますよ。子供たちと1日中一緒に過ごすのですからね。
ですから、そういう影響のある人が、上機嫌で笑ってくれていたら、それだけでも心理的な安全を感じるでしょう。
いや、自分はそんな笑顔などつくれない、性格的におとなしいのだ、という人もいるかもしれません。
では、有名テーマパークで働いている人は、みんな明るく楽しい人なのでしょうか。そんなことはありませんよね。プロとして、笑顔でお客さんをお迎えしているわけです。
我々教員も同じです。特に小学校教員を選んだならば、プロとしてニコニコとした笑顔くらいつくれなくてはなりません。日頃の人格とは関係なく、職業的な人格を演じてください。
特に朝、子供たちに声をかけるときに、とびきりの笑顔で、明るく元気に挨拶をしましょう。そして可能な限り、いつでも機嫌よくいましょう。
本連載は、子供同士の絆を深めることをテーマとしていますが、初回はあえて、教師が率先して行うべき学級の風土づくりについて述べました。そういう土台がなくては、学級経営は始まらないからです。ぜひとも4月の学級開きでは、心理的な安全を感じさせることに力を注ぎましょう。
瀧澤真(たきざわ・まこと)●千葉県公立小学校校長。1967年埼玉県生まれ。千葉県公立小学校教諭、教頭、袖ヶ浦市教育委員会学校教育課長などを経て現職。木更津技法研主宰。著書に『WHYでわかる!HOWでできる!国語の授業Q&A』(明治図書出版)、『道徳読み活用法』(さくら社)、『職員室がつらくなったら読む本。』(学陽書房)など、多数。
イラスト/イラストAC
【瀧澤真先生執筆 連載】
学級担任の時短術(全12回)
保護者を味方にする学級経営術(全13回)
【瀧澤真先生ご著書】
まわりの先生から「むむっ!授業の腕、プロ級になったね」と言われる本。(学陽書房)
まわりの先生から「おっ!クラスまとまったね」と言われる本。(学陽書房)