アイデアが生まれる「環境づくり」で、子どもの苦手意識を変える

連載
学級担任のための図画工作授業のアイデア

愛知県公立小学校教諭

佐橋慶彦

図画工作科の授業づくりに苦労している学級担任の先生も多いのではないでしょうか。ここでは、みんなの教育技術でも連載を持つ佐橋慶彦先生による、学級担任だからこそ実践したい図画工作科の授業アイデアを紹介します。図画工作が苦手な理由に、一生懸命描いても思うように仕上がらないというのがあります。描きたい題材をイメージしやすい環境づくりで、子どもたちの意欲を引き上げましょう。

執筆/愛知県公立小学校教諭・佐橋慶彦

描き出しにつまずく子どもたち

「だって、何を描いていいか分からないんだもん」

新しく版画制作に取り組み始めて数分。なかなか手が動かないAさんに声をかけると、こんな声が返ってきました。もちろん、そうやって最初の描き出しが決まらないという問題を抱えているのはAさん以外にもたくさんいます。そして、そんな描き出せていない子どもたちに声をかけると、決まってこの言葉が返ってくるのです。

なかには何を描くかを決めるのに数時間かかってしまって、やっと下描きを始めたころにはもう色塗りを進めている子がたくさんいて……なんていうこともよくあります。そうやって周りとの差がついてしまった状況に、さらにやる気を失ってしまったり、焦って雑に描いてしまったりして図画工作が嫌いになってしまう子どもたちを何人も見てきました。この描き出しの時間は、図画工作が得意ではない子どもたちにとって大きなハードルなのです。

図画工作が苦手な原因は、上手くできない自分を自覚しているから

図画工作科の指導の難しいポイントとして、よく「図画工作が嫌だという子どもたちにやる気を出させるのが難しい」ことが挙げられます。特に、高学年になると図画工作が嫌いだという児童は増加するようです。

確かに、高学年の子どもたちが図工に取り組んでいる様子を見ていると、「好き嫌いがハッキリしている」という印象を受けます。図工が好きな子は、楽しそうな表情で、集中して取り組むことができるのですが、嫌いな子は、なかなか描き出そうとしなかったり、仲間とのおしゃべりに夢中になったりしてしまいます。

この図工嫌いな子の多くは、図工が苦手な子です。低学年からの、うまくできなかった経験が積み重なり、図工嫌いになってしまったのだと思います。

高学年の子どもたちの心理からすると、「一生懸命頑張って、上手に描けなかった」というよりも「テキトーにやって、上手にできなかった」方が、格好がつきます。そのため、あえてやる気のないそぶりを見せるような子どもたちもいることでしょう。

これが広まると、もともと意欲的に取り組んでいた子どもたちも、なかなか集中しづらくなってしまったり、一生懸命取り組むのが恥ずかしくなってしまったりして、次第に学級全体のやる気が低迷していってしまいます。

一方で、休み時間には、自由帳を取り出し、漫画のキャラクターなどを描いている子どもたちも数多く見られます。筆箱や下敷きについているイラストを写しているようです。もちろん好きなキャラクターだからというのもあるのでしょうが、きっと題材を見ながら描けるので、ある程度上手な絵が仕上がるのでしょう。

そう考えてみると、子どもたちがなかなか図画工作にやる気を出せない理由は、自分がうまく描けない(できない)と分かっているからではないかと思うのです。

本当に「分からない」ことが問題なのか

さて、冒頭のAさんとのやりとりに話を戻しましょう。このAさんは本当に「何を描いていいかが分からない」ということだけに困っているのでしょうか。試しに「じゃあAさんが好きな小さい子の絵にしたら?」と言うと「無理!だって小さい子なんてうまく描けないよ!」と言います。

「もうやりたくない」と言いながらも、適当に仕上げることは嫌なようで、花や風景を題材に提案しても首を横に振っています。「何を描いていいか分からないんだもん」という言葉の裏には「上手な絵を描きたいんだけど、それを実現できる題材が決まらない」という問題が隠れています。Aさんの困り感は、作品作りへのこだわりと捉えることもできるのです。

しかし、机に向き合い頭を抱えていてもアイデアは出てきません。また、タブレットを使って資料を集めようにも、ある程度のイメージがないと検索する言葉は出てきません。そんなときに役立つのが、ページをめくる度にたくさんの写真が出てくる図鑑や資料集です。誰かの話を聞いたり、本を読んでいたりしたときにパッとアイデアが浮かんだことが、みなさんにもあるのではないでしょうか。アイデアを出すためにはなんらかの触媒が必要なのです。

そこで、私は教室に題材となる動物や植物、魚や食品、風景などの図鑑や資料集を置き、描き方が分からなくなったらいつでも調べに行っていいように伝えています。

動物や昆虫の図鑑

「生き物がいい? それ以外がいい?」本棚の前まで行き、Aさんに尋ねてみました。「生き物はいやだなぁ」Aさんが答えます。

「じゃあ、風景がいい?それとも何か一つの物を描く?」

「うーん、風景は描くことが多そうだからやめとく」

質問のやりとりをもとに、身近なものが題材になっている写真付きの詩集を渡しました。他の子との相談を終え、再びAさんのもとを訪ねると、Aさんは水たまりのページを開いたまま考え込んでいました。

「先生、水ってきれいだよね。版画にしたらどうかなぁ」

「ああ、いいじゃん! 水は面白いよ~」

「しかもさ、なんか水がこう流れてるところとか」

「それなら、外の蛇口の写真を撮ってきたら?」

そしてAさんが撮ってきたのはこんな素敵な蛇口の写真。

個性が光る素敵な版画ができあがったのは言うまでもありません。この次の制作でも、すぐに取り組むことができるようになったわけではありませんが、「今日は生き物を描いてみようと思うんだけど、どうしたらいいか分かんない」と、少しずつ自分でアイデアを立てられるようになっていきました。

何もないところからいきなり「個性あふれる作品」を作り出すのはきっと図画工作が得意な子だけです。なんとなく周りと同じような作品が出来上がってしまうのも「子どもたちに個性が無いから」ではなくアイデアを出す環境がないだけなのかもしれません。しかし、写真を選んだり、質問に答えたりしながらにじみ出てくる「気分」や「好み」だって立派な個性です。そんな小さな“自分らしさ”を大切に引き出していくことが、個性あふれる教室につながるのだと思います。

もし、図画工作が苦手だという子どもたちが多くなかなか授業が機能しないようでしたら、一度「資料集め」の時間を設けてみることをお勧めします。


いかがでしたか? 描きたい作品のための第一歩は「資料集め」から。子どもの「やる気」を引き出し、「らしさ」を生み出す授業アイデア、ぜひ取り入れてくださいね!

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