「チーム担任制」で教員の負担を軽減 持続可能な教育基盤づくりをめざす【連続企画 「持続可能な学校」「持続可能な教育」をどう実現するか? #05】

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「持続可能な学校」「持続可能な教育」をどう実現するか?
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持続可能な学校の運営体制構築の必要性が叫ばれる中、富山県南砺(なんと)市では、「持続可能な教育基盤をつくること」をめざして「チーム担任制」を導入。一人一人の子どもを複数の教員で指導・支援する体制を整え、「教員の働き方改革」にもつなげている。「チーム担任制」をはじめとする南砺市の教育改革について、南砺市教育委員会教育総務課副参事の山本佳和氏に話を伺った。

富山県南砺市教育委員会

富山県南砺市は、平成16年に8つの町村が合併し誕生。富山県南西部に位置する自然豊かな市。市内の人口は、約4万7千人。市内には小学校8校、中学校7校、義務教育学校1校が設置されている。

この記事は、連続企画「『持続可能な学校』『持続可能な教育』をどう実現するか?」の5回目です。記事一覧はこちら

若手教員の学びの場にもなる「チーム担任制」の導入

富山県南砺市では、2020年度からすべての小中学校でこれまでの「1学級1担任制」を見直し、複数の教員が学年全体または、複数の学年を指導する「チーム担任制」を導入した。この「チーム担任制」をはじめ、「地域を基盤とした小中一貫教育」「部活動の拠点校化と地域移行」を教育改革の3本柱とする「南砺 令和の教育改革」に取り組んでいる。

「チーム担任制」は、2019年に南砺市教育委員会教育長に就任した松本謙一氏が南砺市の各学校現場を回り、「教員の若返りによる教育力の低下」や「子ども減少によるひずみ」などの問題を把握した中で生まれた方針の一つだ。

「その発端は、あるベテラン教員からの相談でした。小学3年生の学年が36人となり、2クラスに分けることになったのですが、その際に1クラスをベテラン教員、もう1クラスを若手教員が担任することになりました。そうなると、バランス的に学年運営に不安が残ります。この問題の解決策として、教室には40人入るのだから、ベテラン教員が2クラスの朝の会や帰りの会、学級活動などを合同で行い、その間若手教員はティームティーチングのような形でその場にいて、ベテラン教員のやり方を学んでもらえばいいのではないかとなった。この案が『チーム担任制』を考えるきっかけとなりました」

以前の学級編制基準は40人であったため、ベテラン教員にとってはたとえ36人への指導でも当たり前の人数に感じられる。しかし、新任や若手教員にとっては、不慣れな面も多く、チームで担任することによって、若手教員には日常的な研修(OJT)になるという。また、子どもたちも大人数の集団の中で、様々な考え方に触れることができ、小規模校では学級集団の固定化を防ぐことができる。

「このほかにも、『教員の大量退職と大量採用による教育の質の低下と教員の多忙感』をチーム担任制によって補うことができるという期待もありました」

政策実施に向け、関係機関と共通理解を図る

チーム担任制の実施に向け、まずは教育委員会職員の中で意見を聞き、政策の方向などを話し合ったという。それから校長会、市PTA連合役員会、教頭会・教務主任会など各所で説明する機会を設けた。しかし、校長や教員から「本当にできるのか」「実施してもよいのか」などと最初は反対の意見もあった。そうした不安が残る学校には各校に出かけ、個別に話す機会を設けた。

その後、各学校への研修会と各家庭への案内により共通理解を得ると、2020年度4月から各学校で、まずはできることから実践を開始した。

「2020年3月に、新年度から『チーム担任制』を実施していくという案内を保護者に配りました。その内容は、小学校では複数学級や2学年合同での授業の実施、教科担任制の実施。中学校では、学年の教員が交代で朝の会や帰りの会を実施することについてというものでした。様々な方向性をこちらから示してはいますが、各学校によって、その規模や教員の年齢配置、学年によっても運営のやり方は違ってくるため、具体的な方法は各学校、各チームに任せます。各校主体の創意工夫が欠かせません」という。

入学説明会で配布された「チーム担任制」リーフレット(南砺市教育委員会提供)
入学説明会で配布された「チーム担任制」リーフレット(南砺市教育委員会提供)

小中学校の取組例

小学校3・4年生の単級・複式学級を例に挙げると、生活科や音楽科、図画工作科、体育科、学級活動などは、学習指導要領でも1・2年生、3・4年生、5・6年生での目標が示されているため、A・B年度のカリキュラムを組むことによって複数学年合同で取り組める。

「国語・算数・理科・社会の4教科は、人数が少ないほうが学習の効果が上がりますが、それ以外の人数が多くても学習効果が見込める教科の授業は、学年・学級全体で授業を行います」

たとえば、AとBの2人の教員がいたとして、A教員が体育の得意な方であれば、お手本を見せるなどしてその授業を主導してもらい、B教員にはその補助を担ってもらう。B教員が音楽の得意な方であればピアノを弾いてもらうなどして、A教員には補助を担ってもらい、積極的なティームティーチングを行う。

「チームでの教科担任制にすることによって、A教員の場合、授業研究も全教科する必要がなくなり、得意な体育をしっかり授業研究すればよい状況になります。もし、教科で苦手な子どもがいる場合には、B教員が補助にまわることができたり、グループで分かれて授業ができたりするなど、様々な形態をとりやすいというメリットがあります」

中学校の場合、単級・複式学級では、朝の会や帰りの会を一人の教員が合同で行ったり、道徳科や学級活動を合同で行うことで主担当をローテーションすることができたりと、教員の負担軽減につながる。

学年複数学級では学年主任・副担任がいるため、学年教員がチームとなってローテーションで道徳や学級活動に入ってもらうことが可能だ。たとえば、道徳を3人のローテーションで進めることができれば、題材をチームで共有することによって教材研究の負担を減らすこともできる。

「ローテーションでシフト制のように回していくと、教員にフリーの時間をつくることができるため、時差出勤が可能となります。2限目から時差出勤して退勤を18時にすると、授業後の部活動も勤務時間内で見ることができ、時間外勤務時間の解消にもつながります」

チーム担任制の成果

小学校の単級・複式学級でみられた成果としては、下の学年は上の学年を手本にして学ぶことができ、上の学年は下の学年の手本になろうと努力する姿が見られた。

学年複数学級での成果としては、担任以外の教員と触れ合う時間ができ、様々な教員、友だちからの意見に触れることができたという。音楽の合奏や体育の授業においても人数が増えた分、より充実した授業を実施できた。

もともと教科担任制の中学校では、様々な教員と触れ合う機会が多いが、朝の会や帰りの会などをローテーションで回ることによって、より公平にどの教室でもルールが保たれるようになった。

「2020年度から実施されたチーム担任制についてアンケートをとったところ、約9割の教員から『授業以外でも、子供にとって効果的な場面があった』の項目に『はい』または『どちらかといえば はい』の回答がありました」

南砺令和の教育改革(南砺市教育委員会提供)
南砺令和の教育改革(南砺市教育委員会提供)

中学校の学年主任にとっては、ローテーションに入って学級に入ったり、道徳の授業を行ったりすることによって負担が増えたという意見もあった。また、「朝、子どもを保育園にゆっくり送ることができた」などの肯定的な意見もあったが「時差出勤を取ることができてよかった」の回答が3割程度だった。教員によっては「帰る時間が遅くなる」「朝のほうが仕事は捗る」などの意見もあり、1年目には課題も残った。

しかし、5年目を迎えた現在は「チームで担任していく」という意識が教員にしっかりと根付き、各学校全体に定着しているという。

また、教育現場を熟知している教員と一緒になり、日常的に研修ができる新採教員にとってはプラスとなることも多いためか、新規採用教員の1年目での退職者は、今日現在5年連続で0名を記録している。

小中一貫教育で地域の基盤をつくる

また、南砺市では小学校1校、中学校1校の地域が多いため、必然的に小中一貫教育の形となるので、これを利用して各地域のよさを生かした教育活動を行っていく方針だという。

「たとえば、南砺市唯一の義務教育学校である南砺つばき学舎では、夏休みを20日間に短縮する代わりに年間を通じて6限が廃止され、1日の在校時間を約8時間にする取組が行われています」

教員の長時間勤務の解消にもつながり、子どもたちにとっても下校後はゆとりが生まれ、家庭の教育力や地域の教育力を生かすことで、自分の生活スタイルを確立できるという。

また、外国語教育にも力を入れていて、創意の時間を利用することで400時間増加している。こうした取組が各学校で促進されていく中で、それぞれの学校が特色をもつようになる。基本的には小中一貫教育を推進しているため多くの子どもは地元の学校に進学するが、子どもに合った学校や行きたい学校がほかの地区にあれば、入学時に学校を選択できる「特認校制度」も2023年度からすべての学校で実施されている。

南砺令和の教育改革(南砺市教育委員会提供)
南砺令和の教育改革(南砺市教育委員会提供)

さらなる改革をめざし、部活動の拠点校化へ

2020年度からはじまった「チーム担任制」とその後の「小中一貫教育」の導入から、ようやく2つの政策が定着してきたという。南砺市では3つめの教育改革である「部活動の拠点校化と地域移行」の方針が具体化し、2024年~2026年にかけて、部活動の新たな形として拠点校型クラブや地域型クラブを設立していき、小学校段階も含めて改革していく。まずは今年、部活動の拠点化からスタートし、部活動の地域移行も順次実施していく予定だ。南砺市では、文部科学省が部活動の地域移行をうたう前からこの取組に着手していたという。

人口減少傾向にある南砺市だが、これらの教育改革などから教員にとって働きやすい教育環境となっており、保育園が充実していることなどから保護者にとっても子育てに適した環境だ。喫緊の課題は、これから学校統合を進めていくかどうかということだという。学校の在り方については、教育委員会主体ではなく、あくまでも地域の方々の意見をもとに、さらなる対策を進めていく。

「部活動の改革はまだスタートを切ったばかりです。これから運用をはじめていき、来年にむけてどんなステップを踏んでいくかを考えていくことも必要になってきます。教育振興基本計画も来年度で一区切りとなるので、ここまでの結果を受けて、来年度中に次の5年間に向けた計画を考えていきたいと思っています。中学校まで地域の方々に育ててもらった子どもたちが、最終的にこの南砺市に帰ってきて、また地域の子どもたちを育てていくような循環が生まれていくことを願っています」

山本佳和さんのお写真
山本氏は、南砺市立井波中学校で教諭を13年間、南砺市立吉江中学校で2年間教頭を務めた後、南砺市教育委員会に今年度から異動。

取材・文/三井悠貴(カラビナ)

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