グローバル化する社会の中での学校教育とは?「教師という仕事が10倍楽しくなるヒント」きっとおもしろい発見がある! #11

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教師という仕事が10倍楽しくなるヒント~きっとおもしろい発見がある!~
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帝京平成大学教授

吉藤玲子
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教師という仕事が10倍楽しくなるヒントの11回目のテーマは、「グローバル化する社会の中での学校教育とは?」です。学校現場で確実に増える外国がルーツの子供や保護者との対応、異文化理解の実践の工夫、異文化を理解するためのヒントなどについてお話しします。

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執筆/吉藤玲子(よしふじれいこ)
帝京平成大学教授。1961年、東京都生まれ。日本女子大学卒業後、小学校教員・校長としての経歴を含め、38年間、東京都の教育活動に携わる。専門は社会科教育。学級経営の傍ら、文部科学省「中央教育審議会教育課程部社会科」審議員等、様々な委員を兼務。校長になってからは、女性初の全国小学校社会科研究協議会会長、東京都小学校社会科研究会会長職を担う。2022年から現職。現在、小学校の教員を目指す学生を教えている。学校経営、社会科に関わる文献等著書多数。

外国籍の子供たちとの関係に悩む

新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行され、海外から大勢の旅行客が日本を訪れています。私は、東京・浅草に近い所に住んでいますが、仲見世などの混雑は、毎日がお正月のようなにぎわいで驚いています。

学校現場にも今、多くの外国籍の子供が学んでいます。日本に来たばかりで日本語が話せない場合には、日本語指導の巡回講師が教える制度が各自治体にあります。また、日本在住の外国人に向けた行政のパンフレットやホームページも多言語化されています。

しかし、実際問題として、外国人の子供がクラスになじまない、保護者と話が通じないなどで困った経験はありませんか。また、教師自身もどのように外国籍の子供たちと関係をつくっていったらよいのかと悩むこともあるでしょう。今回は、確実に増える外国人への対応、その背景の異文化をどのように子供たちや教師が理解していったらよいかについて、私なりの経験を交えてお伝えしたいと思います。

伝えたいことを伝えるには

子供は言葉を覚えるのがとても早いです。外国から子供が転入してきた場合、1学期には日本語がほとんど話せなかったのに、2学期にはもうクラスの友達と楽しく会話をしている場面を見ることがあります。
しかし、教師としては、その子供の保護者に連絡したいことがたくさんあるのに、きちんと伝わったかどうか分からない、何度話しても提出物が揃わないなど、困ることが多くあります。私の経験でも校外学習に必要な持ち物が伝わっていなかった、雨で延期になった行事の日程が分かっていなかったなどの行き違いがありました。事前に学校で出会ったときや電話で、丁寧に口頭で伝えていたつもりでしたが、日本語がよく分からない保護者は、うなずいていたものの実際は理解できていなかったということがよくありました。

学校現場では、毎日たくさんのプリントを子供たちに配付します。昨今、メールでのお知らせが増えたものの、いろいろな団体からの宣伝広告も含めて、まだまだたくさんのプリントを子供たちは家に持ち帰っています。プリントを配付したり、メールで必要事項について配信したりすれば、保護者は分かってくれると教師は思いがちですが、両親が働いている家庭も増え、保護者がすべてのプリント類に目を通すのは大変な作業です。日本人の保護者でも膨大なプリント類をチェックするのが大変なわけですから、教師は、外国人の保護者が必要事項を理解するのは難しいことなのだということを分かっておく必要があります。

ではどうしたらよいかというと、子供に日本語指導をする、またはその国の言語に強い講師の先生の力を借りるとよいでしょう。日本語指導の先生に、重要事項を翻訳してもらい、メモしてもらえば、担任が保護者に伝えることができます。時間がうまく合えば、保護者面談なども日本語講師に通訳してもらうのもよいでしょう。時間的に無理なようであれば、翻訳アプリなどを活用して、やりとりすることも考えられますが、可能な限り、口頭で伝えることができる方法を考えたいものです。私の場合、日本在住が長く日本語が話せる中国人の保護者に、中国から来たばかりの家族への連絡をお願いしたことがありました。

日本語が分からない保護者に配付物を渡すときには、これだけは絶対に重要だという箇所、必要な持ち物などのところにラインマーカーで印を付けることを試してみてはどうでしょうか。私は、赤ペンでプリントの右端に二重丸を付け、「このプリントだけは絶対によく見てください」という合図にしていました。また、「分からなければ学校へ聞いてください」と事前に伝えておきました。

日本語がネイティブではない保護者に対しては、「どうしたら伝わるか」ということを考え、対応することが大切です。

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互いの国の相違点を認める

TOKYOオリンピック前に都内の各小学校では、「世界友だちプロジェクト」という事業がありました。各学校に5か国ずつ振り分けられ、その国について調べて関心をもつというプロジェクトでした。

私が校長をしていた学校では、5か国の中に、日本に最も近い国、韓国が含まれていました。その事業がきっかけで、知人から新宿にある東京韓国学校を紹介してもらい、交流をすることになりました。韓国料理やコスメ、K-POPは日本でも流行していて、韓国は多くの日本人が出かける人気の国です。しかし、韓国に対してあまりよくないイメージをもっている人がいること、韓国を問題視した報道があることも事実です。そのため、交流を始める前にはいろいろと不安がありました。

しかし、実際に交流を行うと、学ぶことが多くありました。身近な隣国について知らないことがたくさんあることも分かりました。同じアジア人であるので、日本人と韓国人は、見た目はとても似ています。西洋の人から見たら、日本人か韓国人か、区別がつかないかもしれません。しかし、似ているようなところもあれば違いもあるのです。

東京韓国学校の先生たちは、相手のことを考えたり場の雰囲気を大切にしたりする日本人に比べ、韓国人は自己主張をする文化だと言います。東京韓国学校の子供たちは日本語も上手なので、交流はしやすいはずですが、初めは交流することにしり込みをする日本人の子供たちの姿を見ることがありました。東京韓国学校の子供のパワーに、日本人の子供たちは押され気味でした。でも、何回か交流を重ねるなかで子供たちも教師も交流の仕方に慣れてきて、楽しく学び合えるようになりました。

いっしょにお昼ご飯を食べるとき、韓国の女の子たちは床にあぐらをかいて座ります。これは、韓国の風習なのですが日本とは違います。日本はお弁当に「おにぎり」が多いですが、韓国の子供たちのお弁当は「キンパ」(韓国風海苔巻き)が多いです。そのような違いにも子供たちは自然に気付くようになりました。

もちろん、両国は似ているところもあります。例えば、両国の年中行事を比較する授業を学校で行ったときに、「先祖を大切にするのは日本も韓国も同じだ」とか「子供の成長を祝う行事で子供の将来の幸せを願う気持ちはどちらの国の親も同じだ」などの感想を日本の子供たちから聞くことができました。

外国人との交流では、「違う国の人なのだ」という認識のもと、互いの国の相違点に気付き、受け入れていくことが大切だと思います。

外国人との交流実践の工夫

羽田空港での実践

空港に近い小学校に勤務していたときは、子供たちと空港へ出かけ、搭乗を待っている外国の人たちに、英語の学習も兼ね、日本を紹介する活動を行いました。子供たちは、4~5人のグループに分かれ、自分たちが調べた日本の文化などについて簡単な絵カードを持参し、片言の英語でがんばって外国人に話しかけました。外国人の人たちも可愛らしい子供たちの話を一生懸命聞いてくれました。

羽田空港の国際線ターミナルの表示は、日本語、英語、韓国語、中国語の4か国語で示されています。また、ムスリムの人たちへの配慮がいろいろとなされていて、礼拝室の設置やハラルフードの販売など、多様な外国人のことを考えてできている空港という施設についても学びました。

上野公園での実践

上野公園が近い小学校に勤務していたときには、総合的な学習の時間に「上野へGO!」という授業を組み立て、子供たちがまとめたパンフレットを持って、上野公園の観光客に上野公園のよさをいろいろと紹介する活動を行いました。この活動はグループで行い、保護者、教師がそれぞれのグループに支援に入り、広い上野公園の中をいろいろと回り、外国人と交流しました。

お化け灯籠や上野大仏、上野東照宮の紹介などは人気でした。しかし実際に関わってみると英語を話さない外国人も多いことが分かりました。そこで作成したのが、ICTを活用して、翻訳ソフトを取り入れた「上野」紹介マップです。他にも、今はスマートフォンでの翻訳ソフトを使っての活動も考えられるかもしれません。

留学生との交流

すぐそばに大学があったので、留学生との交流を活発に行いました。小学校で七夕や茶道、箏の演奏などの行事があるときには、日本語と英語でそのイベントのチラシを作成し、大学の国際交流センターに送りました。それを受けて、センターの方が留学生のメールマガジンに掲載してくれました。興味のある学生はメールで学校に返信して、具体的に打ち合わせを行い、そのイベントに参加してもらいました。

子供たちと給食などをいっしょに食べながら、留学生に自分の国や国の文化について紹介してもらいました。低学年では「七夕」などの行事で交流を行いました。いっしょに七夕の飾りを作ったり、笹に飾りを付けたりしました。中国、韓国、台湾の留学生が参加してくれたときのことです。織姫と彦星の話はどこの国でも同じでしたが、短冊に願いごとは書かないということで、今回初めて短冊に願いごとを書いたと言われました。また、日本では、七夕の日に晴れて織姫と彦星が出会えることを願いますが、韓国では、雨を会えた2人のうれし涙だと考えるという話も聞きました。同じ年中行事でも国によって違うことが分かり、興味深い交流でした。

高学年では、茶道や華道の交流、合気道、剣道、箏、習字などを紹介し、それぞれのプロフェッショナルな方々と子供たち、留学生が交流する活動を実施しました。子供たち自身も、留学生に日本の文化を紹介するには、自分たちがまず日本の文化を学ばなくてはいけないことを知りました。地域の町探険なども留学生といっしょに行ったことがあります。

今は、多くの外国人が日本にいます。それぞれの地域でどのような交流活動ができるかを考え、実施してみることをすすめます。そうすると子供たちも教師も外国人に接することに慣れ、海外から外国人の親子が学校に来ても、戸惑うことがなくなります。

異文化理解をするヒント

世界には実に多くの民族がいます。私が最後に校長として勤務した学校では、ブラジル、エジプト、韓国、中国、ベトナム、ミャンマー、バングラデシュなどがルーツの子供たちがいました。またどちらかの保護者が外国人という家庭も複数ありました。そのような家族と付き合いながら感じたことは、異文化理解のスタートは、国と国の間に優劣を付けるのではなく、違いを認めることが大切だということです。そこから出発して、歩み寄れること、いっしょに学べることを探していけば、自ずと互いに理解し合え、よい関係がつくれます。

例えば、動物園のパンダの誕生行事に参加したときのことです。たまたま数か月前に中国から来たばかりで、子供も保護者も日本語がまったく話せない家族がいました。しかし、このイベントに合わせ、日本人の子供たちは中国語のあいさつを練習して覚え、来日したばかりの子供には中国語でお祝いのスピーチをしてもらいました。指導は、巡回の日本語教師に頼みました。都知事や韓国大使館の方々の前で堂々とスピーチができた中国人の子供は自分に自信をもつことができ、それからは積極的にクラスの友達と交流するようになりました。日本人の子供たちもこの行事を通して、中国や中国語について学ぶことができました。

教師がその国の言語で簡単な挨拶が言えると、子供とも保護者とも距離が縮まると思います。他にも春節に合わせて、中国人の保護者を招いて餃子づくりをしたり、いろいろな国の保護者からその国に昔から伝わる伝統遊びを教えてもらったりしてみてはどうでしょうか。外国人の子供の受け入れを大変だと思わず、異文化理解のチャンスと考えると、教育活動も楽しくなると思います。

令和2年度から外国語活動、外国語の授業が必須になり、どこの小学校でも英語の教科書を使って授業が進められています。一昔前に比べ、英語学習が本当に盛んになりました。私が若いときにはあまりなかった英語の研修も、今では外国に滞在して学べるものも増えてきています。ぜひ、そのようなチャンスを生かして、多くのことを学んでほしいと思います。

ニュージーランドでの体験

私は、若いときに学術休職を取り、ニュージーランドで生活して学んでいたことがあります。ホームステイをし、現地の小学校や中学校で日本語や日本の文化を英語で教えていました。ニュージーランドは、ラグビーのワールドカップでオールブラックスが行うマオリ族のハカが有名です。私は、ニュージーランドの先住民族であるマオリ族に興味があり、マオリの集会などによく参加していました。そのときに知り合いの白人のニュージーランド人から、「なぜマオリに興味があるのか、私たちは彼らとは仲良くできないのに」と言われ、驚いた経験があります。

ニュージーランドは、日本と同じくらいの広さの国に静岡県ぐらいの人口しかいないので、とても牧歌的で平和的なイメージがあります。しかし、先住民族と白人の間には、いろいろな溝があることをそのとき知りました。もちろん、仲良くしたいと思う人も多いでしょうが、いろいろな人がいるということです。何軒かホームステイをして、その会話の中から、人種は違っても人と人との相性や好き嫌いはあり、人間はどこの国でも同じだということを実感した日々でした。

外国語に関わる研修を受けよう

特に若い先生には、物おじせずに外国語に関わる研修をどんどん受けてみて、いろいろな国の人と実際に関わってみてほしいと思うのです。そうすることで、自分の視野も広がり、教育活動に幅も出てくると思います。まずは、世界を知ることです。

ただ忘れてほしくないことは、異文化理解=英語ではないということです。実際に学校現場を見渡せば、英語圏ではない国から来ている子供たちが多く在学していませんか。もちろん英語は話せたほうがよいのですが、ぜひ、アジアの国々や日本と関わりのある英語圏以外の国々にも目を向け、異文化理解の学習を楽しんでほしいと思います。

構成/浅原孝子 イラスト/有田リリコ

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