「SAMRモデル」とは?【知っておきたい教育用語】
1人1台端末によるGIGAスクール構想が進み、多くの小中学校でICTを活用した実践が行われるなか、ICT端末の活用レベルを示した「SAMR(セイマー)モデル」が注目されています。
執筆/「みんなの教育技術」用語解説プロジェクトチーム
目次
「SAMRモデル」とは
SAMRモデルとはフィンランドのプエンテデューラ氏(2010)が考案した、学校現場でのICT活用の程度を示すモデルのことで、以下の英語の頭文字をとった言葉です。
Substitution:代替
Augmentation:拡大
Modification:変容
Redefinition:再定義
ICT環境のレベルによって、どのような学習が可能になるのかを上記4つのタイプにカテゴライズします。「S(代替)」は、従来のツールの代用を意味し、「M(拡大)」は、「代替」に加え、新たな機能が付加されることを指します。教育現場だと鉛筆とノートがICT端末に「代替」され、さらに端末による様々な機能が付加され「拡大」していきます。
2020年のGIGAスクール構想によってICT環境が整備され、全国の小中学校の9割で1人1台端末が実現した現在の日本は、「代替」のフェーズはクリアされているといわれ、現在は「拡大」のフェーズに突入し、強化を図っています。
SAMRモデルにおける「A(拡大)」の実践
国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの豊福晋平氏によると、「ICTをたくさん使って日常的な利用と習熟に至らないと、その先が見えてこないことを意味する」と解説し、文部科学省学校初等中等教育局デジタル化プロジェクトチームリーダーの武藤久慶氏もGIGAスクール構想の次のフェーズを「ICTの日常使い」と位置付けています。
ICTの日常使いとは、すなわち子どもたちによる文具的活用を意味し、学内での学習活動にとどまらず、帰宅後の家庭内学習でも活用できるような状態をつくることを指します。これによって教員の指示による端末の利活用ではなく、子どもたち自身でICT端末を使いこなせるようになり、学習の可能性が大幅に拡大していきます。
「作文」を例にすると、従来は原稿用紙に手書きで書いていたものを「代替」、つまりワープロソフトやアプリによってデジタルで打ち込めるようになりました。さらに「拡大」すれば、文章校正などの機能を活用して子どもたち自身で推敲することができたり、アナログでは不可能だった写真や動画なども挿入できたりし、より高度な制作物の創造も可能です。
「M(変容)」と「R(再定義)」が新たな教育モデルをもたらす
SAMRモデルにおける「M(変容)」とは実践の再設計を可能にすることで、今までだと自分1人で机上で完結していた作文の課題を端末上で共有することによって、クラスメイトはもちろん、多くの人からフィードバックをもらうことができるようになります。また、データ化することで校務の負担削減にもつながります。そして、「R(再定義)」は従来の教育とは全く異なるしくみや実践を可能にすることです。
今後、教育現場によるICT活用は「変容」と「再定義」によって、今まで以上に「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体化をめざしていくことになります。それと同時に、教員主導で行われてきた授業が子どもたち自身が自律的に行う学習へと転換され、子どもたちの学習の自立を実現します。
さらに、SAMRモデルは「再定義」に進むにつれて、持続利用を前提とした教育効果への転換を図ります。よって、現行の学習指導要領における「持続可能な社会の創り手」の育成および「持続可能な教育・学校づくり」を実現するための尺度にもなることでしょう。
▼参考資料
EdTechZine(ウェブサイト)「なぜ今、自律的にICTを活用する「デジタル・シティズンシップ」が重要なのか? 豊福晋平氏が語る」2022年2月7日
日本教育工学会(PDF)「SAMRモデルを用いた初等教育におけるICT活用実践の分類」三井一希
生き活きうぃーくる(ウェブサイト)「ICT活用のめざす姿~まだ見ぬ授業デザインを求めて~」2022年1月12日