通知表に替わるものとして、年2回の個人面談を実施【都心の小学校校長にインタビュー! 「宿題、テスト、通知表廃止」の背景と経緯 #03】
前回、どんなふうに保護者や地域、教員に対して改革の導入を周知し、理解を図ってきたか、長井満敏校長に聞きました。今回はそうした準備の後、2023年度、どのように実施を図り、保護者や教員などからどのような反響があるのかなどについて紹介をしていきます。
目次
肌感として戸惑いを感じているのは保護者よりも教員
与える家庭学習やテスト、通知表の廃止についてどのように実施され、どのような反応があったのでしょうか。長井校長は次のように話します。
「宿題について私から教員に話したのは、『教師が与える家庭宿題はやめて、子供が主体的に学ぶものにしましょう』ということだけです。そのため、特に学校として統一した呼称も設けてはいませんし、学級によって呼称はバラバラですし、それを確認もしていません。ただ、自主学習用のノートを揃えて買っている学年もあり、それは足並みを揃える方向への無言の圧力になる可能性もあるので、出す出さないは子供に任せるようにという話はしています。自主学習といっても量や時間、内容を示されると、めざす本質とは異なるものになってしまいますから。ただ現時点で、あまり細かいことをうるさく言わないようにして任せています。ちなみに保護者から、与えられる家庭学習を再開してほしいという声は特に聞いていません。
単元テストや通知表などの評価の部分に関しても、『それがないから困った』という声は今のところないのです。ただ1学期の学校評価のアンケートを見ると、反対意見として、『学校での学習の様子が分からない』というような声はありましたが、それについては、CDTの実施や年末、年度末の2回の個人面談を通して細やかに伝えていきますし、強い反対は現時点ではありません。
私自身が実践を進めながら十分に説明を尽くしきれていない部分もあると思いますが、肌感として戸惑いを感じているのは保護者よりも教員のほうだと思います。おそらく、本来の意味の『指導と評価の一体化』ではなく、評価と指導が一緒になってしまっていたところがあったのではないでしょうか。宿題を出すとかテストするということによって、子供を学習に向かわせている、つまり宿題やテストを学習への動機付けにしてしまっていた部分があったのではないかと思います。実際に職員と話す中で、『もっと準備してから始めるほうがよかったのでは?』といった声もありましたが、もしそのような評価と指導への意識があるとすれば、おそらく準備に時間をかけていたら、実施できなかったのではないかと感じています。
通知表に関しては、それに替わるものとして、年2回の個人面談を実施し、この12月中に1回目を終えたところですが、今のところ特に問題なく終わりました。CDTを活用しながら面談を行ったわけですが、保護者からは何らかの問題点を指摘する声は聞いていません。教員からは、最終的な指導要録を付けるときに何らかのむずかしさがないか、2023年度が終わったときにはっきりすることもあるので、年度の総括で、改めて課題や改善点について評価していきたいと思っています。ただし、CDTを活用すれば、それほどむずかしくないのではないかと現時点では考えています」
特に問題は生じていないと言いますが、では逆に何らかの良い変化はなかったのでしょうか。長井校長は次のように話します。
「小さな変化ではありますが、テストやテスト直しの時間がなくなったので、先生方の時間的な余裕も生まれましたし、帰宅時刻は早くなってきています。つい先日、副校長と話をしたときに、『通知表を付ける時期(2期制なので、以前は9~10月)に、先生方がどこかカリカリしていた感じは今年はなかった』という話は出ました」
子供たちだけで、主体的に判断して避難する訓練
こうした大きな改革を進める一方で、2023年度から「学びを子供の手に返す」「授業改善を進める」ための、いくつかの新たな取組も始めた、と長井校長は話します。
「現在、小学校にはまだまだ解決しきれていない多様な課題があると思います。例えば、以前言われていた学級王国というほどではないにせよ、まだ一人の先生が『自分の学級について責任をもってやります』という意識が強いのは事実でしょう。それを変えるために、3年と4年に若手が2人いるので、若手育成も兼ねて、私と副校長が入って教科担任制を試行し始めました。たまたま私は理科が専門で、副校長は社会が専門だったもので、それぞれが専門の教科で入り、特に理科などは経験のない初任者が行うのはむずかしいので、私がT1でリードをしながらTTで授業を行っています。
ちなみに教科担任制は外国語活動と体育でも導入してみたのですが、理科・社会のように時間数が同じではなく、体育のほうが時間数が多いため負担に差が出てしまい、長く続けるのはむずかしいと判断し、現在は理科と社会だけでの実施に戻しています。
また、テストや通知表評価がなくなり、負担が減った分を生かして、2023年度は体験学習を充実させることができるだろうと考え、取り組んできています。例えば、最近も時計メーカーの方が出前授業に来てくれていましたが、多種多様な体験学習の取組を行っています。今はまだ、多様に取り組む時期と考えており、それを積み重ねることによって淘汰され、2024年度はさらに良くなるだろうと思います。
加えて、12月中にも行ったのですが、年4回、プロジェクト学習を組んでおり、平日の午後、地域の企業や大学などに協力していただいて、4、5、6年生を対象にした講座を開設しています。子供たちは純粋に『学んでみたい』と思う講座に行って学ぶというものです。講座の1週間ほど前までに子供たちは希望を出すのですが、万が一、事前に希望者がいない講座がある場合は、お詫びを申し上げて講座は開設していません。もちろん学びたいことを自ら選んで学ぶわけで、子供たちの表情がとても良いのです。
その他、避難訓練一つをとっても、昔から子供たちがやらされるものになってしまっていて、事前に想定が地震だ、火事だと決まっていて、放送がかかると廊下に並び、先生に指示されるまま整列して避難していました。それでは万が一、災害が起こったときに力にならないと思い、『子供たちだけでやらせてみて、終わった後にどこに問題があったか、ふり返るやり方にしたらどう?』と提案し、11月に子供たちだけで、主体的に判断して避難する訓練を行いました。1年生は先生が先導して避難したのですが、他の学年は先生が先に校庭に出て待っていたのです。それでも問題なく避難できていましたし、いつも注意されるような子供がクラスをリードして避難していたなど、普段には見られない子供の様子が見られました」
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今回は、実際に改革を実施した2023年度の様子や、並行して進めてきた授業改善や学校改善について紹介しました。次回は、さらにその他の改善や来年度に向けて計画していることなどを紹介します。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之