「学びを子供の手に返す」ということをめざす【都心の小学校校長にインタビュー! 「宿題、テスト、通知表廃止」の背景と経緯 #01】

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今年度、学期ごとに通知表を出すのをやめ、単元評価用の業者テストの実施もやめ、夏休みの宿題や学期中に教師が与える宿題もやめた学校があります。それは東京都庁から500メートルも離れていない都心部にある、新宿区立西新宿小学校です。では、なぜこのような改革を、今、スタートさせたのか、同校の長井満敏校長に話を聞き、4回にわたって紹介をしていきます。

西新宿小学校の長井満敏校長。

授業改善を図って付けた力と、その評価方法がつながっていない

長井校長に、まず、なぜこのような複数の改革を進めようと考えたのか、その経緯を聞きました。

「私自身の中で、最初に改善を図りたいと思っていたのは、単元ごとに行われているテスト、いわゆる業者テストをなくすということです。実は、以前からずっと心に引っかかっていたことなのですが、授業改善をしていろんな工夫をしても、最後は業者の単元テストを実施して点数を付けたら、それで単元の学習が終わります。授業改善を図って付けた力と、その力の評価方法がうまくつながっていないことにずっと違和感を感じていました。学級担任をしていた頃にはその思いは漠然としたものだったのですが、管理職になってから一段と強く思うようになっていったのです。

同時に先生方は、テストに縛られているところがあるように思います。授業をして単元を終えたら、テストを行って、採点して、場合によったら間違いの確認や修正に時間をとり、総括的評価につなげて…と、こなすだけで精一杯になっているところがあります。それで、いっそテストをなしにしたらどうかと考えました。

しかしテストをなくしたとしても、通知表があれば、学期ごとの評価を行うために別の点数化をするような作業をすることになってしまうでしょう。ですから、業者テストをやめるならば、同時に通知表もやめてしまおうと考えました。こうしたものをやめることで、先生方が本来の職務の中心である授業改善に注力できるような時間的、精神的余裕をつくりたいということなのです。

近年、教員志望者数は減り続けており、その理由で最も多いのが『長時間労働など過酷な労働環境』です。その状況を変えるための一助にもできれば、ということもあります」(こうした単元テストや通知表に替え、評価を行ったり、保護者へ通知したりする方法として実施している具体策については、次回以降で詳報)。

指導改善のため、そして教師の働き方を変えるため、テストと通知表をやめたと話す長井校長。

子供たちが自ら学びたいものを追究し、取り組んだものを提出させる

与える宿題の廃止(学期中、夏休みなど)も、実は通知表の廃止や単元テストの廃止と根幹は同じところにある、と長井校長は話します。

「日々先生が課している宿題を廃止した理由も、単元テストや通知表の廃止と根本はつながっています。端的に言えば、実現をめざしたいのは『学びを子供の手に返す』ということです。

現在、全国的に不登校の児童・生徒数が増えています。中学校ほどではないにせよ、小学校でも増えてきており、先の教員志望者の減少も合わせ、多少乱暴に言うならば、そのうち『学校は子供がいない、先生もいない場所』になってしまいかねません。その状況を変えていく必要があります。

もちろん不登校の理由には多様なものがあると思いますが、その一つに、学校での学習が教員主導のやらされるものになってしまっていることがあると思います。子供は『おもしろい!』『なぜそうなるの?』と思うものなら、やらされなくても自ら進んで取り組み、追究するものです。ですから、『学びを子供たちの手に返す』ために、まずは日々の授業改善が必要で、先のテストや通知表の廃止にはそのねらいがあります。

多種多様な内容で子供たちが自主的に学習した、ノートの実例(3年生)。

それと同時に、日々の家庭学習でも子供たちが『おもしろい!』と思ったものを、自ら追究していけるようにしたいと思ったのです。これまで教員は、子供の学習習慣や知識の定着を図るため、良かれと思って例えば、『新出漢字の書き取り10回』などの宿題を出していたと思います。すると、『早く終えたい子供が漢字をへんはへんだけ、つくりはつくりだけマス目ごとに分けて書いた』なんて話を聞いたこともあると思いますが、そんな宿題をこなすことが、本当に子供にとって意味のあることなのでしょうか。

それで本校では、そのために先生が課す宿題をやめ、子供たちが自ら学びたいものを追究し、取り組んだものを提出させることにしたのです。こうした自主学習を子供が自主的(取り組んだとき、見てもらいたいとき)に提出することにしています。この自主学習のノートについては、『自学ノート』と呼んでいる学級もありますし、そうでない学級もあります。『一律の宿題はやめよう』と始めたものなのに、もし全学年でノートの呼称や形式を統一すると、『他の学級(学年)では毎日出している』という話になったら、無言の同調圧力が働いて、結局はやらされるものになりかねません。ですから、呼称も学級ごとにしていますし、担任に提出する、しないは、あくまで子供自身の自主性に任せています」

今回は西新宿小学校の長井校長がなぜ多様な改革を行ったのか、その意図を中心に紹介していきました。次回は、その改革導入のために保護者・地域にどう周知を図ったかや評価と保護者への通知方法などについて紹介していきます。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之

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