『無気力・不安』が理由の不登校が全体の6割!? 管理職が率先して対処しよう! 教頭のおしごと歳時記 11月

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小学生の不登校対策とサポート記事まとめ

元山形県公立学校教頭

山田隆弘

10月4日、文部科学省は、22年度の問題行動・不登校調査の結果を発表しました。不登校の児童生徒の数は10年連続で増加しており、今回調査では約30万人となりました。せっかくご縁をいただいた学校と児童生徒たちですから、しっかり学校で多くの経験をし、学び合い、卒業してもらいたいと思います。どうすれば学校に来ることができるでしょうか。

【連載】がんばれ教頭クラブ

1 無気力と不安

わたしもよく耳にするのですが、一般的な社会の認識では、不登校の要因と言えば「いじめや児童生徒間の人間関係」が真っ先に想起されるものだと思います。
しかし、文部科学省の調査では、こうした人間関係による不登校は全体の約10%に過ぎませんでした。
最も多かった原因は、全体の約6割を占める「不登校児童生徒本人に係る状況」でした。その内訳は「無気力、不安」が51.8%、「生活リズムの乱れ、あそび、非行」が11.4%です。
最大の原因となっている、無気力と不安。なぜ並列して書かれているのか、ちょっと不思議に見えますが、実はこの2つは表裏一体ではないかと思います。わたしの経験上、次のような「不安」を抱えている児童が、そのせいで学校に来られない「無気力」の状態になっていました。

家族の不和により不安傾向が強い。何をどうしたらいいのか分からない、という不安がある。
育児放棄や虐待を受けており、自分は生きていてもいいのか、という不安がある。
学習についていけない不安。どうせできない、という不安。友達と一緒に学習したとき、自分が活躍できなかったり、置いてけぼりになったりするという不安をもっている。
感受性が非常に強く、友達が叱られているのを見て自分が叱られているように思ってしまうなど、集団活動に不安がある。
療養中の家族がおり、学校に行っている間にさらに悪化してしまうのではないかという不安がある。

びっくりするようなケースがあるかもしれませんが、これは実際にわたしが直面したものです。
そして、多くの「不登校児童生徒本人に係る状況」の背景には、家庭や家族関係の問題があるようです。
プライベートの問題に学校が干渉するな、という意見もあるかもしれません。
しかし、文部科学省も提唱している通り、「誰一人取り残されない学びの保障(COCOLOプラン)」こそ学校の使命です。
あらゆる児童生徒に対して学びの場を確保し、いつでも学びに来られるような環境を作ること。これは、管理職でなければ進められないことであり、最も行動力をもつ教頭が率先して行うべき責務でもあると言えます。

2 教頭(副校長)がリードするメリット

教頭が不登校対策において、不登校児童指導担当者に指導助言をするのはどこの学校でもやられていることです。しかし、これをさらに一歩進めて、教頭(副校長)が不登校対策をリードすると、様々なメリットが生まれます。以下の5点にまとめられます。

①学校としての対応の一律化と情報の集約化が図れる
②教職員の負担を軽減することができる
③児童の安心感を担保することができる
④保護者の信頼を得ることができる
⑤関連機関との渉外、連携活動において、より効果的な立ち回りができる

3 不登校対策の事例

不登校対策において、教頭(副校長)が主導したときのケースワークを2例ご紹介します。

①チームのコマンダーとしてメンバーをうまく動かす!~仮説からの出発~

他校から転入してきたAさんの事例です。
以前より時折登校しぶりがあったのですが、クラスの人間関係に問題があったわけではなく、担任との関係も悪いわけではありませんでした。そしてある時、ふっつりと学校に来なくなりました。
一体何が起きているのか、全く分かりませんでした。学校に来てもらわないと、手の打ちようがありません。そこで、教職員総出で情報を集めました。
そして判明したのは、転入先の新しい環境に慣れず、ワンオペの母親は生活にゆとりがなく、親子が顔を合わせられるのは深夜から朝方…という状況でした。Aさんの生活は昼夜逆転。朝食の時間には起きることさえ難しく、昼食は一人菓子パンなどを食べるような状況です。
母親はうるさいことを言わないため、学校にも行かず、ゲーム三昧の日々でした。
この状況をいかにして変えるか。
まずは、学校で「不登校対策会議」を開き、不登校対策チームを組成して検討し、仮説を立てました。

「昼食を学校でみんなと食べることで、学校に目を向けることができるのではないか」

朝昼の食事が満足にとれないということは、お腹を空かせていることが多いでしょう。空腹では気力が出ませんし、栄養が足りていないのは成長期の子どもにとって深刻な問題です。
そして何より、みんなで食べるという行為を通して、人と人の触れ合いが図れます。給食を通して、学校への帰属意識をもってもらいたい…という思いでした。
時系列で振り返ってみると、次のような段階で進めました。

対策1 担任が毎日、家庭訪問をする。本人に会えなくても続ける
対策2 母親の信頼を得る。まず世間話や雑談ができるようになる
対策3 母親が打ち解け、相談をしてくるようになれば真摯に対応する。必要であれば福祉にも繋ぐ
対策4 児童本人に会わせてもらう。勉強のことではなく、給食の話をする
対策5 給食に行ってみたいという気持ちが生まれたら、まずは給食時に迎えに行く
対策6 別室で担任あるいは学級外職員と一緒に給食を食べて世間話をする
対策7 給食を食べた後、少し学校にいさせるようにする
対策8 学校でどんな学習をしているか等、学校での活動について話していく
対策9 出てみたいと思う授業や行事について考えさせる
対策10 相性のいい職員に同伴してもらいながら、少しずつ学校活動に参加させる

この対策の中で、教頭は次のような役割を担いました。

役割1 不登校対策会議の開催(日程調整、参加者の調整)をすること
役割2 不登校対策会議の議事進行を行い、対策担当者の役割を決めること
役割3 福祉サービスへの橋渡しを行い、学校と福祉サイドと保護者との関係を構築すること
役割4 担当者のフォローをし、労うこと。代替可能な業務は進んで肩代わりすること
役割5 登校してきた児童のための環境整備(居場所、空間、学校リソースの確保)をすること

Aさんの状態は行きつ戻りつで、小学校在学中に完全には解決しなかったものの、進学した中学校では、かなり登校できるようになったということです。このケースは給食を基軸にしましたが、「けん玉」や「イラスト」など、当該児童の興味のあるものを探し出して「きっかけ」を作ることが、突破口となった事例も多いです。

②時には最前線へ 最短最速で動く! ~初期の機動力が好結果を生む~

Bさんの事例です。Bさんはストレスを感じやすく、特に大きな行事やイベントなど、何か新しいことがある際に逃げてしまう傾向がありました。
教職員たちによる情報収集の結果、Bさんがストレスに弱い原因は、自己肯定感の低さではないか、との仮説が立ちました。家庭のあり方がとても不安定であり、自分自身の存在や行動に自信がもてないのではなかろうか、ということです。
Bさんは常に不登校というわけではなく、例えば運動会のような、担任が最も多忙となる時期に限って登校できなくなります。自己肯定感を高めるには、児童としっかり向き合い、丁寧に対応する必要があるため、多忙な担任が対応に関わるのは困難だと考えられました。
そこでこのケースでは、担任に代わって教頭が最優先の対応者となりました。

役割1 イベント時に学校に来ていないことが判明すると、迎えに行き、付き添って登校した
役割2 母親の相談相手になった。他に話しやすい職員がいれば、積極的に参加してもらった
役割3 家庭と密に連絡をとり、少しでもしぶり傾向が見られれば、家に迎えに行った
役割4 教室に入ることができなくても、別室登校を容認し、担任以外の相性の良い職員が応対した

担任と当該児童との関係性や、担任の業務の状況などを鑑みつつ、必要とあれば教頭(副校長)が動き、最短最速で不登校の芽を摘むことが重要です。こうした機動的な対応により、Bさんは「わたしのことを心配し、気にかけてくれる人がいる」という意識をもち、「とにかく学校には行こう」と思うようになりました。

しぶり傾向の児童がいる場合、可能な限りすぐに、家に迎えに行くという対応はとても効果的です。当該児童が玄関まで出てくることができなくても、保護者や家族と話をし、遅刻しても学校に連れて行きたいと、玄関口に現れるのを待ちます。管理職が対応することで、児童本人も家族も、学校は本気で心配しており、児童の居場所になることを保証しているのだ、という意識が強くなることが多かったようです。

4 社会で生きる力のために

不登校傾向にある児童は、学校に来ない、つまり集団生活から離れることで、社会生活に必要な経験を積む機会を失ってしまいます。学校に来れば、様々な人と関わり、協力しながら課題を解決する経験を積むことができるし、ルールや規律を守ることや、自分の意見を主張することなどの経験も積むことができます。これらの経験は、社会生活を送る上で欠かせないものになってきます。

だからこそ学校は、失敗を許容する環境であるべきです。失敗をしても、せんせいや友達が自分を支えてくれるという安心感をもたせたいです。その信頼感が自己肯定感へと繋がり、社会で生きていくための底力になるのではないでしょうか。 

そんな環境を担保するため、不登校児に向き合う時には、以下のような点を心がけましょう。

①不登校傾向にある児童本人を参加させて個別支援計画を作成し、本人の希望を軸に家庭の希望や状況に応じた支援を行う

自分の意見が聞かれ、約束が取り交わされ、それが守られる、ということです。こういう自己決定の場では、管理職が対応する、または同席するということが重要です。取り交わされた約束が学校全体に及ぶオフィシャルなものであると示せます。

<例>
 どこから学校に入りますか? 誰に登校のあいさつをしますか? その人がいない時はどうしますか?
 校内のどこに行きますか?(教室/自分の教室のあるフロア/決められた場所/校内一巡)
 教室が嫌なら、別室(相談室/学習室/保健室…)に登校しますか? 何をしますか?
 給食はどうしますか? 給食をどのように配膳してもらいますか? 片付けはどうしますか?
 教室に行けるようになったら、どんなときに行きますか? 誰かと一緒に行きますか?
 教室にはどのくらいの時間いますか? どんな教科を受けてみますか?

児童を追い詰めることがないように気をつけながら、児童の状況に合わせて、これらを少しずつ、根気よく決めていきます。
これは児童が、自分自身の今の状況を認識し、理解することが目的です。そして、少しずつ学校での行動が増えるようにしていきましょう。

②どうしても登校できない場合、フリースクールなど民間事業者との連携を学校が協力しながら行い、長期的な支援を提供する

この際も、児童本人に決めさせていきたいです。

 毎日通所しますか? 決まった曜日に通所しますか?
 何時に通所して、何時に帰りますか?(滞在時間はどのくらいにしますか?)
 どうやって通いますか?
 通所先では、どんなことをしますか?

フリースクールでの様子を情報共有し、登校ができるようになるタイミングが訪れたら、それを見逃さないようにしていきたいです。

③行政、福祉サービスとの連携を強化するとともに、地区の児童委員、民生委員などの協力を得ながら多様な支援を検討する。場合によっては医療機関も活用する

例えば貧困など、不登校解決のために家庭環境の改善が必要な場合、どうしたら助けを求められるのか知らない保護者も多くいます。適切な助け舟が出せるよう、行政機関や専門家など、外部との連携ができるようにしましょう。

④不登校の理解を深めるための研修や講演会を教員向けだけでなく、保護者向けにも実施する

昨今は子どもが一人だけの家庭も大変増えており、核家族が多いこともあって、子育ての経験が豊かな親は少ないです。まだ露見していないだけで、子育て上の問題を抱えている家庭も多いと考えられます。
学校と家庭が一丸となり、児童を支えていくという空気を醸成していきたいですね。

児童が学校に戻ることで、新たなスタートを切ることができます。そこには、新たな出会いや、新たな発見が待っているかもしれません。
児童の可能性を広げるのも、狭めてしまうのも、管理職をはじめとした教職員の頑張りにかかっています!

イラスト/坂齊諒一


山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。


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