「日本版DBS」とは?【知っておきたい教育用語】

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近年、学校や保育所、塾といった教育現場での性犯罪が問題となっています。そのような状況のなか、こども家庭庁は有識者会議によって議論を重ね、2023年9月に「日本版DBS」制度創設のための報告書をまとめました。そもそもDBSとはどのような制度なのか、その概要と日本版DBSの課題について解説します。

執筆/「みんなの教育技術」用語解説プロジェクトチーム

DBSとは

「DBS」とは、Disclosure and Barring Serviceの頭文字をとったもので、日本語で「前歴開示・前歴者就業制限機構」を意味します。イギリスで2012年に確立された制度で、学校や保育所などの子どもに関わる職業および活動を行う使用者側が就業希望者の犯罪歴の照会を行うことを義務付けます。また、子どもに対する性的虐待などの犯罪歴がある者を雇うことは犯罪にあたるとされています。

使用者は、就業希望者の了承を得たうえで、DBSに犯罪歴などの確認を依頼します。DBSは、裁判所による有罪判決はもちろん、有罪にならなかった事案でも警察官が記載すべきと判断した情報や、DBSへの通報などを基に作成した子どもと接する仕事に就業できない人のリストを照会。その後、証明書を就業希望者本人に郵送すると同時に、犯罪歴がなかった場合は使用者にも通知が届きます。

DBSによる犯罪歴の照会は、子どもの教育や世話をする人だけでなく、通学・通園といった子どものために車を運転する人なども含んでおり、一定の期間以上、子どもと関わる職業が対象となっています。

日本版DBS導入の動き

日本において子どもに対する性犯罪や性暴力の対策は、教員や保育士、それぞれを所管する省庁ごとに対策が進められてきました。

教員は2022年の児童福祉法の改正によって、採用する際の児童・生徒へのわいせつ行為による懲戒免職や教員免許の失効などの経歴がないことを確認することが義務付けられ、今年4月からはデータベースでの運用が開始されています。また、同様に保育士も2022年に児童福祉法が改正され、子どもへのわいせつ行為などで保育士登録を取り消された場合、再登録ができないよう厳しく取り締まられています。

しかし、教員や保育士への対策だけでは、学童や部活動の指導員、塾の講師、ベビーシッターといった資格を必要としない職種には適用されず、省庁ごとの対策では不十分であるとの課題がありました。

こうした状況を受けて、こども家庭庁はイギリスのDBS制度を参考とした「日本版DBS」制度の導入に動き始めたのです。

日本版DBSの導入における課題

日本版DBSでは、こども家庭庁所管のシステムによって就業希望者の性犯罪歴を確認し、前歴があった場合は就職できないようにし、なかった場合は照会を受けた公的機関が「無犯罪証明書」を発行するよう検討しています。

しかし、制度の対象となる事業者については学校や保育所、児童養護施設などは義務化されるものの、学習塾や学童クラブなどは職務を定める法律がないことから義務化は困難とされ、任意による認証制度となります。また、日本版DBSは憲法が保障する「職業選択の自由」や「プライバシー権」などの権利を事実上制限することにもつながるため、そういった権利を守る観点においては懸念の声もあります。

教育現場での性犯罪の事例が相次いでいる昨今、日本版DBSの検討も含めて、子どもたちを性犯罪被害から守るための制度およびシステムの早急な整備が求められています。

▼参考資料
NHK(ウェブサイト)「性犯罪から子どもを守る「DBS」 有識者会議 報告書とりまとめ」2023年9月5日
NHK(ウェブサイト)「『日本版DBS』ってなに?~子どもを性被害からどう守るか」2023年9月19日
NHK(ウェブサイト)「どうなる?日本版DBS--子どもたちを守る制度にできるのか」2023年11月2日

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