子供の対話 【わかる!教育ニュース#35】
先生だったら知っておきたい、様々な教育ニュースについて解説します。連載第35回のテーマは「子供の対話」です。
目次
子供たちによる「対話」を政策形成過程に反映する?
学校で学ぶ意義って、何だろう。子供が秘めている力を伸ばすには? 「いい学校」とは? その答えを探すとき、当の「子供」の目線は入っていますか。
子供たちによる「対話」を政策形成過程に反映する方法に関する調査研究。文部科学省がこのほど、そんな長い名称の研究結果を公表しました(参照データ)。要は、子供の視点を教育政策に反映する際、校内での対話を生かせないか、という試みです。
調査には小中学校1校ずつ計約130人が参加。子供たちだけで1つのテーマにつき、2回協議しました。小学生のテーマは委員会活動、宿泊学習、学園祭。1回目はそれぞれの問題点を協議し、2回目はどういう状態が理想か、実現の壁は何かを考えました。
宿泊学習では、まず困ったことを語ってもらいました。「温泉の場所や入る時間が分からない」「宿の部屋を間違えた」「ベッドより布団」などのほか、自分たちで宿の手配や部屋の選択をしたい、という声もありました。
理想の状態を考える際は、「下級生に残したい○○な宿泊学習」という切り口を設定。○○には、「自分たちでルールを決める」「嫌な思いをする人がいない」などが挙がりました。意見を深掘りすると、「自分たちで計画できる」「スマホを持参できる」「持ち物が指定されない」など、管理を考えがちな大人と違う視点が表れました。そこからスマホ、人間関係、お金など課題を細分化し、なぜ実現できないか、どう解決するかを探りました。
文科省も、大人だけで考える教育政策からの脱却を模索
学校生活に意義や当事者性を見いだせない子供がいる。文科省には、そんな問題意識がありました。昨年3月には「より良い学校生活」をテーマに、中高生や大学生など65人のオンライン会議も試みました。折しも、「こども真ん中社会」を掲げるこども家庭庁が、政策に子供の声を反映させようとしているとき。文科省も、大人だけで考える教育政策からの脱却を模索しています。ただ今回は、アンケートや個別ヒアリングの形にはしませんでした。いろんな子供が集まる学校での対話で、意見の熟成を期待したのです。
今回の研究でも、対話を重ね、様々な考えに触れることで、意見の変容や広がり、傾聴が見られました。参加者の意識調査でも、「質問自体の意味をじっくり考えたい」という小学生が、協議前は70.9%ですが、協議後は87.8%。中学生でも「他人の意見を自分の考えに取り入れられる」という子は、88.4%から95.2%に増えました。 一方で、個々の積極性によって、意見を言うのが楽しい子と、対話相手によっては緊張感を抱く子がいて、「対話」の運用には配慮が必要とも分かりました。ただ、この試みは、自分たちのことだからこそ、誰かに任せず、自分で考える意識が根付くきっかけにもなりそうです。それは、社会で起きていることについて考え、判断し、行動する「主権者」を育てることにもつながるのではないでしょうか。
【わかる! 教育ニュース】次回は、11月15日公開予定です。
執筆/東京新聞記者・中澤佳子