「情報科」とは?【知っておきたい教育用語】
2022年4月から完全実施された高等学校学習指導要領では、「情報Ⅰ」が共通必履修科目となり、共通テストにおいても2025年1月よりプログラミングを含む「情報」が新教科として出題される予定になっています。時代の要請に応じて新設された教科の背景や内容、学校の指導体制とそのために必要な教員の専門性などについて見ていきましょう。
執筆/創価大学大学院教職研究科教授・渡辺秀貴
目次
情報科新設の経緯と目的
高等学校において「情報」が教科として必修化されたのは2003年度です。プログラミングを含む「情報の科学」と、情報リテラシーを扱う「社会と情報」のどちらかを選択するようになっていました。その後、Society 5.0に向けて大きく変化する社会で、子どもたちが生きていくための資質・能力の一つとして「情報活用能力」が重視されてきました。2022年度から、従来の「情報の科学」と「社会と情報」の2科目を統合して「情報Ⅰ」が必修科目として新設され、全国の高校生がプログラミングやデータ分析について学ぶことができるようになりました。また、その発展として情報システム、ビッグデータや、より多様なコンテンツを扱う「情報Ⅱ」も選択科目として設置されました。
情報科では、情報に関する科学的な見方・考え方を重視し、問題の発見・解決に向けて情報と情報技術を適切かつ効果的に活用するための知識及び技能を身に付け、実際に活用する力を養うとともに、情報社会に主体的に参画する態度を養うことを目的としています。
具体的な指導内容
「情報Ⅰ」で扱う内容については、文部科学省が作成した『高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材』にわかりやすく紹介されています。
主な内容としては次の事項が示されています。
- 情報社会の問題解決(情報やメディアの特性と問題の発見・解決、情報セキュリティ、情報に関する法規、情報モラルなど)
- コミュニケーションと情報デザイン(デジタルにするということ、コミュニケーションを成立させるもの、メディアとコミュニケーション、そのツールなど)
- コンピュータとプログラミング(コンピュータの仕組み、外部装置との接続、基本的プログラム、応用的プログラムなど)
- 通信情報ネットワークとデータの活用(通信情報ネットワークの仕組み、通信情報ネットワークの構築、量的データの分析、質的データの分析など)
また、共通必修科目「情報Ⅰ」と選択科目「情報Ⅱ」の内容項目の関係は次のようになっています。
教育課程と指導体制
情報科で扱う内容を見ると、実際の授業では、生徒が社会の問題に関心を高め自ら解決すべきことを見いだして情報活用能力を発揮しながら解決し、その過程で情報活用に関する知識や技能を獲得して、思考力や表現力など高めていくべきものであることがわかります。教育課程の編成や指導計画の作成、1単位時間の授業設計において、「主体的・対話的で深い学び」の実現が求められています。
同時に、例えば情報社会の問題解決では公民科で扱う内容との関連、また、コンピュータとプログラミングの学習では数学科の内容との関連を図るなど、カリキュラム・マネジメントの視点から指導計画を作成することが望ましいとされています。
これらを実現するには、情報科の学習内容が全ての教科等と関連があることを全教員が理解し、学校全体で生徒の情報活用力を育成していくことが重要です。
教員の専門性と今後の課題
生徒が将来どのような道に進むにしても、情報社会を生き抜く、あるいは情報社会を築いていくことになるので、情報の科学的な見方・考え方を理解し、情報を適切に活用できる力をつけておくことは不可欠と言えます。学校では、これまで見てきたように、プログラミングやデータサイエンスといった情報の科学的側面が強くなった内容を指導する、専門性と指導力のある教員が求められています。
文部科学省は、高等学校学習指導要領が完全実施された2022年11月に、「高等学校情報科担当教員の配置状況及び指導体制の充実に向けて」を公表しました。ここでは、全国の情報科を担当する4,756人の教員の内、情報免許をもたないものが796人(16.3%)いることを踏まえ、次の内容を示しています。
- 情報科担当教員の専科教員としての計画的・着実な作用
- 免許状をもつ教員による複数校指導の抜本的な増加
- 普通免許状を保有している教員のうち、情報に関する優れた知識経験又は技能をもつ者に対する特別免許の交付
など
つまり、将来の社会を見据えたときに重要とされる教科である情報科の指導体制が脆弱であることへの危機感と、その改善の方針を打ち出しているのです。2023年6月に発出された文部科学省の通知「高等学校情報科教員の専門性の向上について(依頼)」には、「情報科の指導体制の抜本的強化」を各自治体に要請してきたこと、その関連で実施する研修会の案内、さらに今後、「免許外教科担任の解消に向けた取組状況」の調査・公表を行うことなどが記されています。教科の新設の理念とその効果的実施の体制との間にある大きなギャップの解消が、今後の課題であることは言うまでもありません。
▼参考資料
文部科学省(PDF)「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 情報編」平成30年7月
文部科学省(ウェブサイト)「高等学校情報科「情報Ⅰ」教員研修用教材」
文部科学省(PDF)「高等学校情報科担当教員の配置状況及び指導体制の充実に向けて」令和4年11月
文部科学省(PDF)「高等学校情報科教員の専門性の向上について(依頼)」令和5年6月