音楽会を成功させる3つのポイント

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コロナウイルス感染症が5類に移行し、音楽会をまた開催する学校が増えています。そこで、音楽会の開催にあたり、3つの視点から音楽会を成功させるポイントを埼玉県所沢市公立小学校音楽専科・松長誠先生に教えていただきました。

執筆/埼玉県所沢市公立小学校教諭・松長誠

 

音楽会 イラスト



松長 誠(まつなが まこと)
東京学芸大学教育学部G類音楽科作曲専攻卒業。小学校学級担任および音楽専科、教育委員会指導主事を経て、現職教諭。平成28年度埼玉県はつらつ優秀教職員表彰。平成30年度、文部科学省国立教育政策研究所実践研究協力者委嘱。令和2年度文部科学省優秀教員表彰。音楽科の授業づくりにおいては、「楽しい常時活動・子どもの感性を引き出す授業づくり・ICT機器を活用した授業づくり」を研究の軸としている。主な著書に『「教える」から「学びを深める」うた授業へ』(YAMAHA株式会社)共著『音楽授業の「見方・考え方」成功の指導スキル&題材アイデア』(明治図書出版)共著、月刊誌「教育音楽」での連載執筆がある。教職の傍ら、合唱曲の作詞作曲も手がけ、主な作品に『今、卒業の時!』『未来につなげ~記念日に歌う歌』(音楽之友社)『#みんなで歌おう』『心のキャッチボール』(教育芸術社)、信州大学歌、宮城県登米市市民歌などがある。

 

音楽会までのスケジュール

本校では、今秋、4年振りに歌唱と器楽、両方に取り組む校内音楽会の開催を予定しています。開催にあたっては、コロナ前の音楽会にそっくり戻すのがよいのか、コロナ禍で工夫しながら実施した音楽会を引き継ぐのがよいのか、その折衷か、様々な検討を行いました。

音楽会スケジュール

視点1 教材選び・教材づくり

まず、音楽会の成功の可否を握るのは、教材選び=選曲と教材づくりです(表A)。私が、選曲で重視しているのは、下記の5点です。

①児童の技能や心情に寄り添った教材を選曲する。

②学校全体のプログラムを見渡し、異学年で曲調の似たような教材を選曲しない。例えば、2年生で速い曲を選曲したら3年生では遅い曲を選んだり、4拍子以外にも、3拍子・6拍子の曲を1学年は入れたりするなど。

③16分音符が多用されたリズムの細かいフレーズの楽曲は避ける。

④なるべく黒鍵の少ない教材を選ぶ。場合によっては移調して、黒鍵を回避する。

⑤学年が上がっていくにつれて、だんだん使用楽器が増えていくような教材を選曲する。特に、低学年では、使用楽器を広げすぎないようにし、鍵盤ハーモニカと学校に多数ある打楽器(カスタネットやタンバリン)を中心とした楽器編成となるようにする。

※④⑤は器楽曲の選曲の視点

 

選曲が決まったら、教材づくりに取りかかります(表B)。紙媒体で配る教材(楽譜)には、音名と演奏上の指導事項(前奏は8拍、Bは易しい音でなど)を事前に記して配付します。1~3年生は、五線を省き、音名だけ記した教材を用意します。

紙媒体の教材を作成し終えたら、次に動画教材を作成します。合唱曲に取り組む場合は、カラオケのように歌詞に伴奏が追従する動画教材やパート別音源教材をつくります。器楽曲に取り組む場合は、範奏動画をつくります。楽器ごとの範奏動画の撮影・編集は労力を要しますが、字幕などの特段の工夫がない無編集の動画でも、十分効果があります。撮影は、俯瞰三脚やスマホ自在ホルダー(写真①②)を用いながら撮ると便利です。

撮影機材
左:写真①、右:写真②

動画編集に不慣れな方は敷居が高いとは思いますが、カットしたり、タイトルを付けたりする程度の編集ならばプレゼンテーションソフトのみで作成できるので活用をおすすめします。複数の動画を合成したり字幕で指導事項を入れたりする場合は、動画編集アプリ(私はVideo Studio©corel)を使って編集します。GIGAスクール構想で配付された児童1人1台端末を生かし、音楽の授業時間以外でも見られるように動画教材を準備しておけば、「この部分をもう一度見たい」「ゆっくり見たい」「家でも見て、予習や復習をしたい」といった児童の学習意欲に寄り添うことができ、学習の個性化や反転学習につながります。

視点2 環境づくり

環境づくりで優先して整えたいのが掲示物です。掲示物によって、児童に見通しをもたせることができます。また、児童が自分で掲示物を確認する習慣ができれば、教師の手も空き、支援の必要な児童に時間を費やすことができます。

合奏曲に取り組む場合には、どの楽器を希望するのかを記載できる「楽器エントリー表」を音楽室前に取組当初から掲示しておきます(表C)。エントリー表の提示と合わせて、楽器オリエンテーションを行います(表D)。楽器オリエンテーションでは、使う楽器紹介や人数の上限、演奏上のポイントを提示します。

楽器エントリー表

上の表を活用しながら、教師が各楽器の人数の調整をして人選の必要が極力少なくなるような働きかけに努めます。やむを得ず、人選する場合には、音楽担当と担任の先生の立ち会いのもと、パフォーマンステスト(クラスの児童の前で演奏)を行い、演奏の技能や完成度、これまでのがんばりなどを勘案しながら総合的に判断して人選します。希望楽器になれなかった児童には、クラス全員の前でこれまでのがんばりを称賛するとともに、代替楽器を用意するなどのフォローを丁寧に行うようにします(表E)。

掲示物は、指導時間の短縮にもつながります。例えば、体育館練習に入る前に足元の番号掲示を床に、合奏隊形を壁に貼っておけば、毎回立ち位置や準備に迷う児童がいなくなります(写真③、図④)。足元の番号表示は、ソーシャルディスタンスを確保するねらいでコロナ禍の中の音楽会で講じた対策でしたが、コロナ禍に関係なく足元表示を活用する利点は大きいと考えます(表F)。

足元番号掲示を体育館の床に貼っておけば児童に分かりやすい(写真③)
校内音楽会
合奏隊形図を掲示しておこう(図④)

視点3 授業づくり

私が音楽行事にかかる授業づくりで一番大切にしていることは、主体的、対話的な授業づくりです。

そのためには、教師の発問が肝要です。例えば、

①「もう1回合奏したい人は、いますか?」と問うようにして、「もう1回合奏します」という教師からの指示は避けるようにします。

②「もう1回合奏しなければいけないのは、どの部分でしたか?」と問うようにして、なぜもう1回するのか必要感をもたせるようにします。

③「どんな練習方法がよいですか? 1人で? 半分ずつ? 全員で? 他には?」練習方法を自分たちで選んだり、考えたりできるように働きかけます。

④「授業前後で上達したこと、まだ課題のあったところはどこですか?」と問うようにして、上達したことと課題を整理させます。出た意見は記録に残して次の授業のはじめに思い返せるようにします。

以上のような発問を取り入れた授業づくりを進めることで、練習は教師主導から児童主体へと変わります。時には、教師が「教え導く」場面も必要だと思いますが、音楽会にかかる授業がすべて「練習に終始する授業、教え込みの授業」に陥らないようにすることを意識しながら授業を進めることが肝要であると考えます。

音楽会の2週間前になったら体育館での練習に移ります(表G)。各学年4時間程度を目安としています。リハーサル(前日)には、低・中・高学年の各ブロックで聴き合いをします(表H)。少しの緊張感の中、児童同士で感想を交換したり、称賛し合ったりすることで、自信を付けさせて本番の日を迎えられるようにします。

本番後には、これまでのがんばりに対する称賛、うまくいかなかった児童へのフォロー、他学年の演奏を鑑賞した際は感想交換、次年度への意欲付けなどの視点で振り返りを行います(表I)。

音楽会の経験を通して

本記事は、選曲や教材づくりがうまくいかず、練習や教え込みに終始していたり、たくさんの時数を使わざるを得ない状況をつくっていたりした私自身の過去の反省や他校の取組例を踏まえてまとめたものです。行事の縮小化や授業改善が叫ばれている今日ですが、それでも音楽会の経験を通して味わえる一体感や達成感は、「音楽科特有の魅力」でもあります。コロナ禍からの音楽会の復興を願いつつ、本記事が子供たちの音楽活動の充実の一助となれば幸いです。

 

構成/浅原孝子 イラスト/有田リリコ、畠山きょうこ、やひろきよみ 

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