教員の業務改善 【わかる!教育ニュース#32】
先生だったら知っておきたい、様々な教育ニュースについて解説します。連載第32回のテーマは「教員の業務改善」です。
目次
教員の業務や勤務環境に関し、すぐに取り組むべき方策10項目
事態が悪い方向に陥ると危ぶまれる状態によく使われる、「危機」という言葉。今や学校の現状を言い表すのにも、使われるようになってしまいました。
「我が国の未来を左右しかねない危機的状況」。教員人材の確保に向けた改善策を検討している中央教育審議会の特別部会がこのほど、教員を取り巻く環境をそう表現した上で、「緊急提言」をまとめました。業務や勤務環境に関し、すぐに取り組むべき方策を10項目挙げています(参照データ)。
まず、教員が背負っている仕事の見直し。中教審は2019年の答申で、教員の業務を「学校以外が担う」「必ずしも教師が担う必要はない」「教師が担うが、負担軽減できる」の3つに分け、外部委託や連携を促しました。提言はこの3部類に沿った、改善の徹底を説いています。
運動会や入学式などの行事も「学校の体裁を保つためのものや慣例的な部分」を省いて、必要なものに絞るよう勧めています。国の定めた授業時数の基準を大きく上回っているなら見直し、生成AIなどの活用で校務の効率化も促しました。
他にも、保護者や地域住民の「過剰な苦情や不当な要求」には、教育委員会などが行政の責任で担う体制づくりを要請。仕事を終えてから次の仕事を始めるまで一定時間の休息をとる「勤務間インターバル」の導入、プリント準備や電話応対などをサポートする「教員業務支援員」の配置拡大など、様々な方策を提案しました。
文科相は現状を「待ったなし」と表現
文科省の22年度の調査で、残業の上限を「月45時間」とする国の指針を超えた教員が小学校で64.5%、中学校は77.1%に上ります。特別部会の議論でも、依然多い長時間労働を問題視し、社会の課題として発信する必要性を指摘しました。それが、今回の緊急提言です。
とはいえ、目新しい内容ではありません。提言にも「これで終わりではない」とし、制度変更が必要な施策の検討を続けると書き添えてあります。議論は今後本格化し、来春にも方向性が示されます。焦点は、残業代を出さない代わりに基本給に4%上乗せする「教職調整額」など、給与の仕組みを含めた制度の見直し。一筋縄ではいかない問題です。
「緊急提言」を出したのは、時間のかかる予算付けや法改正を待たず、できることを進めねばならない事態だととらえたからです。提言が出た翌日、永岡桂子文科相は現状を「待ったなし」と表現し、24年度からの3年間を改革の集中期間と位置付けて臨む決意を、メッセージにしました。国が先頭に立って改革を進める一方、「このメッセージを業務改善の旗印として活用を」と学校や教委に改革への発破をかけ、保護者にも改革への理解を求めました。
教員採用倍率が低迷し、現役教員の離職や休職も増えています。教員離れを食い止め、教員が学習指導に打ち込める環境を整えるためには、社会ぐるみで改革に当たることが求められます。
【わかる! 教育ニュース】次回は、9月30日公開予定です。
執筆/東京新聞記者・中澤佳子