ゲームで楽しく子どものコミュニケーション力を伸ばそう!
「今、一番会いたい人は?」「チョコレートとアイスクリーム、どっちが好き?」など、カードに書かれた質問に答えて、それをまわりの人は黙って聞くだけのコミュニケーションゲーム。今、特別支援学校や支援学級では大ブーム。授業に取り入れられています。一見すると遊びに見えるゲームでなぜコミュニケーション力が伸びるのでしょうか? コミュニケーションゲームの開発者でもある佐藤義竹先生にお話しいただきました。通常学級の授業やアイスブレイクなどでもぜひ取り入れてみてください。
お話を聞いた方/筑波大学附属大塚特別支援学校研究主任/教務主任・佐藤義竹
目次
コミュニケーションゲームってどんなゲーム?
私が巡回相談をしている特別支援学校や支援学級でおすすめしているコミュニケーションゲームには、2タイプあります。
1つは、質問がオープンな「トーキングゲーム」です。
①質問カードを引き、カードに書かれた質問に対して自分の考えや思いを話す。
②まわりの人は、それをだまってひたすら聞く。
もう1つは、「トーキングゲーム」が難しい子のために、選択肢のある「すきなのどっち?」です。
①カードに描かれた2つのうちから好きなほうを選んで、なぜ、それが好きなのかを答える。
②まわりの人は、それをだまってひたすら聞く。
どちらのゲームも、勝ち負けも、正解不正解もありません。お互いを理解するという点で、共通しています。
私が勤務する筑波大学附属大塚特別支援学校では、様々な場面でこれらのコミュニケーションゲームが活用されています。
コミュニケーションゲームが支援学校や支援学級で使われている理由
特別支援学校や特別支援学級にあって、通常学級にない学習の1つに「自立活動」があります。障害による学習や生活上の困難さを様々なアプローチで支援し、子どもの主体的な活動を目指していくのが自立活動です。
自立活動の内容は次の6つの区分に分かれています。
①健康保持
②心理的な安定
③人間関係の形成
④環境の把握
⑤身体の動き
⑥コミュニケーション
コミュニケーションゲームはこの6つの区分のうちの、③人間関係の形成と⑥コミュニケーションに関する学習活動に位置づけられます。
アイスブレイクや1分間スピーチにも
コミュニケーションゲームの開発に携わった者として、必ずしも自立活動にこだわる必要はないと考えています。
自立活動のための教材ではなく、
・相手との良好な関係を育むことにつながる手立て
・やりとりの楽しさを実感できる手立て
として、コミュニケーションゲームを位置づけたいと考えています。そうすれば、どのような時間でも活用することができるのです。
例えば、休み時間や授業のアイスブレイクとして活用すれば、数人のグループの話しやすい雰囲気が醸成されるはずです。また、1分間スピーチの代わりに、引いた質問カードについて自分の思いや考え、その理由を話してみれば、学級や学習集団の活動題材にもなります。
学級開きや学期のはじめなどで活用すれば、緊張感を和らげ、子供同士の関係性を深めるきっかけにもなるでしょう。
コミュニケーションゲームを盛り上げる「リアクションボード」
「いいね!」「そうなんだ」「なるほど」など聴き手の気持ちがかかれた「リアクションボード」を使うことを促すと、聴き手は最後まで人の話を聴くようになります。一方、話し手は最後まで話を聴いてもらえている安心感を得ることができます。
リアクションボードを使うことを、専門的には「傾聴」の「手立て」といいます。コミュニケーションを心地よいものにするための道具でもあります。
リアクションボードがあることで相手の話を最後まで聞こうとする子が多くなり、話し手も相手のリアクションを楽しむようになりました。
筑波大学附属大塚特別支援学校では、コミュニケーションゲームを使って、様々な検証がなされています。
参加メンバーを変えたり、質問カードの提示の仕方を変えたり、話者の話にリアクションボードを使って反応したり。他校との交流で活用することもあります。シチュエーションを変えながら、子どもたちの様子を観察していくのです。
コミュニケーションというと、会話することだけと捉えがちですが、話すだけがコミュニケーションではありません。
リアクションボードで相手に自分の気持ちを伝えることもコミュニケーションの1つです。質問に答えたくないと伝えることもコミュニケーションといえます。
トーキングゲームには、「PASS(パス)」カードがあります。答えたくない質問にパスできるカードです。最初は緊張してパスカードを出さなかった子どもも、慣れてくるとパスカードを出すようになります。遠慮せずに「パス」が言えるようになってくるということです。
一見遊びのように見えるコミュニケーションゲームですが、このような検証を経て指導にフィードバックされます。
取材・構成/tobiraco編集室
佐藤 義竹(さとう・よしたけ)
筑波大学附属特別支援学校 研究主任/教務主任
福島大学教育学部卒業後、筑波大学大学院修士課程修了。福島県立特別支援学校に5年間勤務後、筑波大学附属大塚特別支援学校中学部担任を経て、 地域支援部。東京都文京区教育センター専門家、文京区特別支援教育相談委員会委員、筑波大学支援専門家チーム。社会性や自尊感情を育む教育プログラムを実践。自己選択・自己決定、意思表明の力を育む教材として「すきなのどっち?」を、コミュニケーションにおける傾聴の手立てとして「きもち・つたえる・ボード」を開発。著書に『今すぐ使える! 特別支援アイデア教材50』『1日1歩 スモールステップ時計ワークシート』(ともに合同出版)がある。