待ち時間も有意義に!子供も教師もノンストレスな「新体力テスト」にするポイント
1学期は、「新体力テスト」を実施する学校が多いかと思います。
「新体力テスト」とは、文部科学省が国民の体力・運動能力の現状を明らかにするとともに、体育・スポーツの指導と行政上の基礎資料を得ることを目的に、毎年実施している調査です。
6歳~11歳のテスト項目は、握力・上体起こし・長座体前屈・反復横とび・20mシャトルラン・50m走・立ち幅とび・ソフトボール投げです。
それら8種目一つひとつを、体育の授業で十分に事前練習をする時間はとれません。測定方法を説明し、ぶっつけ本番で測定することも多いかと思います。
そこで今回は、時間がない中でもできる、新体力テストの楽しい工夫を紹介します!
執筆/大阪府公立小学校教諭・松下隼司
劇団俳優を経て、公立小学校の教壇へ。得意のダンス指導で日本一になったり、絵本作家にチャレンジしたりと、精力的な毎日を過ごす松下隼司先生。その教育観の底には、子どもも指導者も毎日楽しく、笑顔でありたいという願いがあるそうです。そんな松下先生から、笑顔のおすそわけをしてもらうコーナーです。
新体力テスト実施要項(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/sports/stamina/03040901.htm
事前に教室で映像を見せる
20mシャトルランや反復横跳び、長座体前屈の測定方法を説明して、イライラしたことはありませんか?
「さっき、説明したやん!」
「今、やって見せたやん!」
「毎年、やってるやん!」
と、自分の指導の拙さを子どものせいにして、イライラしてしまったことが、私はあります……。
新任のころ、ソフトボール投げの説明を運動場で行った時は大変でした。
投げるときは円から出ないというルール、ボール拾いの子どもを決める、ボールの拾い方、ボールの回収の仕方、次の人へのボールの渡し方。これらを広い運動場で説明するのは大変で、測定を始める前から疲れてしまいました。事前に教室で、黒板を使って説明すればよかったと後悔しました。
今は、講堂で手本を見せる前に、教室で新体力テストの測定方法やコツに関する映像を見せるようにしています。
講堂や運動場よりも、教室の座席で説明を聞く方が、集中する子どもが多いと実感しています。砂遊びなどの誘惑もないし、安心感があるからだと思います。
子どもに見せる映像のポイントは、次の3つです。
- 2~3分程度の短い時間にまとめられていること。
(短い時間だと集中できる) - 大切なところには字幕が入っていること。
(聴覚情報だけでなく、視覚情報の補助もあった方が分かりやすい) - 学校で視聴させる映像として適切な映像発信元であること。
おすすめの動画やサイト
- 20mシャトルラン
■https://www.youtube.com/watch?v=ao3Xn_wjRtk
■https://www.youtube.com/watch?v=iePMfoYtmo8 - 反復横跳び
■https://www.youtube.com/watch?v=GS989uMWuw0
■https://www.youtube.com/watch?v=S3oSWxE0ksQ - 上体起こし
■https://www.youtube.com/watch?v=gEojKQ-Jci8
■https://www.youtube.com/watch?v=7WtCJTlHCb0 - 長座体前屈
■https://www.youtube.com/watch?v=dNSvrOn73kU
■https://www.youtube.com/watch?v=3b1KMsI8Qso - ソフトボール投げ
■https://www.youtube.com/watch?v=-0Q2K2R26f8
■https://www.youtube.com/watch?v=CSAS96k3mbk - 立ち幅跳び
■https://www.youtube.com/watch?v=vonO4wyYqck
■https://www.youtube.com/watch?v=sMCoGTqZ9C4 - 握力
■https://www.youtube.com/watch?v=EXbvsAoTaUY
■https://www.youtube.com/watch?v=JUFuuTxh9vs - 50m走
■https://www.youtube.com/watch?v=7O0qF63Gfoo
■https://www.youtube.com/watch?v=EmnRG3Dcj2A
- 岡山県教育庁保健体育課が作成した新体力テストの動画サイト
(新体力テストの実施種目を測定するときのコツを紹介)
■https://www.youtube.com/@user-rr1ff6oe5y
- 大阪府教育庁が作成した新体力テストの動画サイト
(新体力テストの実施種目を測定するときのコツを紹介)
■https://www.pref.osaka.lg.jp/hokentaiku/kyougisupo-tutop/sintairyokutestdouga.html - 大阪府教育庁が作成した新体力テストのポスターサイト
(種目ごとのポスター。ポスターには、コツや平均記録についての動画のリンク先のQRコードがある)
■https://www.pref.osaka.lg.jp/hokentaiku/kyougisupo-tutop/tairyokuposuta.html
教師が口頭で説明したり演示して見せたりするよりも、これらの映像を見せる方が分かりやすいのは、言うまでもありません。
測定前に目標をもたせる
新体力テストの測定方法やコツを教えてすぐに、
「さあ、やるよ~!」
と言って測定するのは、少し淡泊かもしれません。
測定方法やコツを知った子どものやる気をさらに引き出すと、子どもは楽しく取り組むことができます。
私は以前、機械的に次々と測定していたのですが、ある時から、子ども一人ひとりに「目標」をもたせるようにしてみました。すると、子ども一人ひとりが意欲的に取り組むようになったのです。
淡々としていた新体力テストが、歓声や喜びや悔しさが溢れるドラマチックな時間になりました。体育の時間が終わったあとに、
「楽しかった~」
と感想を言う子どもが増えました。
子ども1人ひとりに目標をもたせるための楽しい工夫
①事前に各種目、男女別の全国平均を知らせる。
「新体力テスト 平均」で、キーワード検索すると、昨年度の結果が出ます。
②事前に各種目、都道府県別、男女別の平均を知らせる。
「新体力テスト 〇〇(都道府県名) 平均」で、キーワード検索すると、昨年度の結果が出ます。
自分の都道府県平均と全国平均を比べて一喜一憂する子どもたちの姿はかわいらしいものです。
「やったー! 勝った~!!」「うわ~! 負けた~!!」
と、まるで自分1人が出した結果かのように盛り上がります。
③昨年度の自分の結果を知らせる。
2年生以上の子どもは、昨年度も測定しています。昨年度のデータを見せられるようでしたら、見せてあげるのをおすすめします。
もし、昨年度のデータが取り出しにくい場合は、
「去年の記録、覚えている?」
と聞いてみましょう。予想以上に、覚えている子どもは多いものです。子どもの記憶力はすごいです♪
そして教師は、
「去年より、ほんの少しでも記録が伸びるようにがんばってね!」
と励ましましょう。
⑤各種目のすごい記録を知らせる。
「握力 ギネス記録」「長座体前屈 日本記録」「ソフトボール投げ 世界記録」など、「〇〇(種目名) 〇〇(日本・世界・ギネス) 記録」でキーワード検索をします。
新体力テストは日本独自の調査なので、「新体力テスト」で検索するよりも具体的な種目名で検索する方が、検索結果がたくさん出ます。
子どもたちに予想させてから結果を教えると、別次元の記録に歓声が起きます。子どものすごいところは、別次元の結果を聞いても臆することなく、
「早くやりたい♪」
と意欲的になるところです。
以下、“別次元の記録”の一部を紹介します。
【50m走】
5秒47(屋外) ウサイン・ボルト
【握力】
192kg マグナス・サミュエルソン
【20mシャトルラン】
165回 海外のフットボール選手
非公式で375回 長友佑都
【立ち幅跳び】
3m73cm バイロン・ジョーンズ
【ソフトボール投げ】
89m 根尾あきら(中3、陸上大会での記録)
67m 田中将大投手(小6、スポーツテストでの記録)
女子から先に測定する
新体力テストは項目ごとに得点化されますが、得点化の基準は男女で違います。
例えば、上体起こし(30秒間)を18~19回すると、男子は7点で、女子は8点です。
項目別得点表・総合評価基準表(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/prev_sports/comp/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2018/02/13/1401299_13_1_1.pdf
男女で得点基準が違うのを活用して、女子から先に測定します。
すると、女子の測定を見た男子は、「女子には負けないぞ」と燃えます。男子のハートに火がつきます! 特に、20mシャトルランは、燃えまくります!
20mシャトルランは男子を後にした方がいい理由は、もう一つあります。測定が終わった次の授業で、「しんどいです」「疲れた~」と言う子どもが減るからです。
一概には言えませんが、20mシャトルランの測定後に疲労を訴え保健室に行くのは、男子より女子の方が多いです。女子を先に測定すれば、男子が走っている間に女子は休憩できます。
さらに、男子が走り終わったら、ボール運動(バレーボールやバスケットボール、ドッジボール、キャッチボールなど)を短い時間でも取り入れます。走り終わったばかりの男子も疲れを忘れて、楽しくボール運動をします(フラフープなどでも構いません。子どもの実態に合わせてください)。
そして教師は、
「20mシャトルランをがんばった後なのに、ボール運動をがんばってすごいね~!」
と、ほめましょう!
楽しい気分で授業を終えることで、次の授業に疲れが後をひきません。
待ち時間の過ごし方
友達を応援しながら待つ
種目やクラスの人数によって、待ち時間は違います。
それぞれ測定時間も20秒・30秒と短い、反復横跳び・上体起こしは、2人1組で一度に大人数を測定できるので、短い待ち時間で済みます。
友達ががんばっているのを見たり応援したりと、待ち時間を楽しく過ごせるのは、50m走・20mシャトルラン・ソフトボール投げです。
50m走は、ゴールライン近くで待機するのがおすすめです。友達の様子は、ゴール近くで見る方が応援しがいがあります。スタート近くで見ると、走る友達は遠ざかって行きますが、ゴール近くで見ると、走り迫って来る友達を見ることになるので、迫力があります♪
50m走では、ゴールテープを用意するのもおすすめです。
ゴール手前で失速しないで走り抜けることを指導しますが、なかなか伝わらない子どもがいます。
そこで、ゴールラインの3~5m先にゴールテープを用意します。ゴールテープの両端は、子どもに軽く握らせておきます。ゴールテープは、視覚的にとても分かりやすいです。
「ゴールの向こう側まで」とか「ゴールの先のコーンまで」とか言わなくても、子どもたちはゴールテープ目がけて全力疾走で走るようになります。
ちょっとした運動会気分も味わえて、走る子どもも、ゴールテープを持つ子どもも楽しくなります。子どもたちの応援にも自然と熱がこもりますよ。
ゴールテープは、スズランテープで代用することもできます。
待ち時間の長い種目では
握力測定は、教室でもできます。図書の時間などに個別に測定できます。
一方、待ち時間が他より長く感じるのが、長座体前屈と立幅跳びです。
長座体前屈は測定器具の種類にもよるのですが、基本、先生が子ども1人ずつ測定することが多いかと思います。立幅跳びも、1~2人ずつ測定していくことが多いでしょう。そのため、時間がかかります。クラスの人数によるのですが、私の場合、45分近くかかることが多いです。
初任のころは、自分の順番が来るのを、ただ待たせるだけでした。結果、1人あたりの45分間での運動量は、とても少ないものでした。
準備運動を除くと、45分間の中で、長座体前屈を2回、立幅跳びを2回して終わりです。
子どもたちには、
「見学、応援も勉強のうち!」
と言っていましたが、子ども目線では楽しくなかったと思います。もっと運動したかったはずです。
そこで、長座体前屈と立幅跳びは、5人ずつ呼んで(出席番号順)、測定するようにしています。
呼ばれるまでの時間は、各自で運動をするようにしています。ソフトバレーボールでキャッチボールやバレーボール、バスケットボール、ドッジボールをしたり、フラフープや縄跳び、大縄をしたりしています。これが、子どもに大好評でした。待ち時間の間に、運動量も確保できます。
記録の仕方
測定結果の記録の仕方は、種目によって変えています。
- 自分で名簿に記録を書かせる。
→ 50m走、20mシャトルラン、立幅跳び、反復横跳び、上体起こし
(測定が終わったら書きに行かせます。混雑するようなら、名簿と鉛筆を2~3セット用意しておくことをおすすめします) - 記録係の子どもをつくって書かせる。
→ 50m走、ソフトボール投げ - 教師が名簿に書く
→ 握力
(握力の測定は教師の負担が少ないので、私が自分で記録を書いています)
以前は、測定後、出席番号順に子どもに自分の記録を言ってもらって、それを私が記録用紙に書いたこともありました。しかし、そのことのデメリットが3つありました。
- 時間がかかる。
(待っている子どもはつまらない。測定後の体育の時間が短くなる) - みんなの前で自分の記録を言うのが恥ずかしい子どもがいる。
(特に、測定結果が良くなかった子どもにとっては苦痛です) - 自分の記録を忘れる子どもがいる。
記録は、できる限り、測定直後に子どもに自分で書きこんでもらうことをおすすめします。
20mシャトルランは、音声で、今何回めかを知らせてくれます。しかし、一生懸命に走っていると、音が聞こえにくいことがあります。また、応援する子どもの声で聞こえないこともあります。
そこで、得点板を用意し、回数ごとに得点板をめくっていくようにします。聴覚だけでなく視覚でも、回数が分かるようにするのです。得点板は、走る子どもに向かって正面になるように置きます。横に置くと横目で見ながら走ることになるので、正面に置いた方が確認しやすくなります。
体力テストもどうせなら、無駄なく、そして楽しく盛り上がるものにしちゃいましょう! ぜひ、参考にしてみてくださいね。
松下隼司(まつした じゅんじ)
大阪府公立小学校教諭。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクールで文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門で優秀賞を受賞。さらに、日本最古の神社である大神神社短歌祭で額田王賞、プレゼンアワード2020で優秀賞を受賞するなど、様々なジャンルでの受賞歴がある。小劇場を中心に10年間の演劇活動をしていた経験も。著書に、『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』(東洋館出版社)、絵本『ぼく、わたしのトリセツ』(アメージング出版)、絵本『せんせいって』(みらいパブリッシング)がある。
イラスト/したらみ