学芸会・学習発表会での劇指導のコツとポイント
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芸術の秋。この時期、学芸会を開く小学校も多いのではないでしょうか。はじめての学芸会・学習発表会での劇の準備や対策について、ポイントをおさえながら、わかりやすく指導するコツや方法を『台本選びから演技指導・演出法まで学芸会の指導~成功への道筋~』(小学館刊) の著者、清水弘美先生が伝えます。
執筆/東京都公立小学校校長・清水弘美
目次
全校児童にも地域にも、よい効果を生む学芸会
学校行事の中でも文化的行事は、常に保護者や地域から大きな期待が寄せられます。特に演劇は観客があって成立するものですから、子供たちはいつもと違う自分を演じる楽しさで夢中になります。
高学年の劇は全校児童の憧れの的です。学芸会の観劇をきっかけにして、どの学年でも演劇形式の発表がたくさん行われるようになります。学級活動、児童会やクラブ発表会でも表現の幅を広げることができると、さらに豊かな学校になっていくことでしょう。
子供たちの発想からスタートする
学芸会というと、多くの教師は何の劇をさせようかと考えます。学校行事は教師主導で行うものですから、子供たちの発達段階にあった台本を選ぶことも悪くはありません。しかし、高学年ならば、子供たちの発想を取り入れて、子供たちと力を合わせながら、教師自身が試行錯誤をして台本をつくっていくことも素晴らしい体験になります。学芸会ではなく、学習発表会でも同じことです。各教科等で学んだことを題材にして学習発表会を劇仕立てで行うことで、それまでの学びがさらに深まっていくのです。
カリキュラムマネジメントの最終段階としての学芸会
時数削減の折、学校行事がその矢面に立っている学校も少なくありません。特に学芸会は指導も大変で、教師の負担が大きいものです。しかし、学芸会をつくることは、他の教科では学ぶことのできない力をつけることができます。特に、いきいきと輝く特別支援の子供の姿が多くの場面で見られます。これだけでも、学芸会に特別な力があることの裏付けになるでしょう。ここでは、教科等の学習の発展としての学芸会のつくり方を紹介します。
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学芸会の具体的な取り組み方
1.何のために取り組むかを、確認する
「総合的な学習の時間で、地球環境についてのさまざまな学習を行ってきた。そのまとめとして、劇の形でおうちの人や地域の方たちに、自分たちができることを発信して、一緒に環境について考えてもらおう。そして、君たちがこれからの地球を守っていってほしい」。
このような教師の願いを子供たちに伝えると、「森里川海、未来からの夢メッセージ」という劇を行うことになりました。
大切なことは、何をするかではなく、どのようにするか、さらには何のためにするかなのです。目的と目標を明確に区別して取り組むことは、特別活動の基本です。
2.物語のあらすじをつくる
どのような物語をつくるかをグループで考えた結果、宇宙人が出てくるもの、昔にタイムスリップするもの、魔法を使うもの、ごみ怪獣と戦うものなどのアイディアが出ました。その中のどれを使うかは、指導する教師が決めます。
今回は、ひどい環境になっている30年後の未来から小学校5年生がやってきて、現在の5年生と一緒に30年後の地球を壊した原因を探り、解決して未来を守るというストーリーになりました。木を切る漁師たちに文句を言いに行くと、山は手入れが必要で間伐をしなければいけないことや、山と海がつながっている話をきいたり、服を切り刻む洋服屋に行って文句を言うと、リサイクルをしてごみを減らしていると聞いたりして、最終的には、自分たちの便利な生活と引き換えに地球を汚していることに気づくというものです。
3.台本のたたき台をつくる
台本は教師がつくります。ただ、どうしても思い入れから個性が強く出てしまうので、複数の教師で推敲します。台本は縦書きで、行間を広くとって印刷をします。後から書き足すことができるように、スペースをつくります。
4.台本を子供に渡して、オーディションをする
オーディションは、自分のやりたい役のセリフを用いて行います。そのときに視点をしっかり伝えておきます。
オーディションの視点
①声の大きさ・張り
②体の使い方・動き(手話にならないように)
③相手意識(誰に向かって言っているのかが、わかるように)
オーディションは第一希望のものを全員が受けて、最後に決定します。第一希望から落ちてしまった子は、まだ決まっていない役の中から選び、再度オーディションをします。
5.演技指導は、子供同士で
役が決まったら、子供は自分で担当したセリフを微調整します。アドリブOKです。最初の練習段階では、自分のセリフは暗記させます。台本をもって演技はできません。
演技指導で一番大切なのは、舞台上にいてセリフのないときの動きです。舞台上にいるときは、すべてのセリフに自分なりのリアクションをつけるように指示し、台本に書かせておきます。セリフの言い方などは、子供同士で振り返りの時間をとって声をかけ合ったり、家で家族に教えてもらっておくことで十分です。
難しいのが、立ち位置の決め方です。セリフはできるだけ前で言い、言い終わったら後ろに下がる理由をつくって移動し、必然性をもって堂々とその場所へ移動する演技をします。こつがわかれば、子供たちは自分でストーリーをつくって動き始めます。
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6.衣装や小道具は、できるだけ早く準備
衣装や小道具は、保護者に全面的に協力してもらいます。高学年の場合は、自分でこだわった小道具をつくることができます。保護者にも参画を仰ぎ、全員分の衣装や小道具を用意するための協力をお願いしておきましょう。1回目の練習から衣装を着ると、盛り上がります。
7.大道具はつくらない
大道具づくりはしないのがポイントです。背景はプロジェクターで投影したり、パネルに絵を貼ったりする程度でよいでしょう。ただ、ひな壇や脚立などの高さをつくれるものは、絶対に必要です。
8.教師の仕事
①プロの手を借りる
演劇に詳しい人が地域や知り合いにいたら、ゲスト・ティーチャーとして指導に来てもらいましょう。「森里川海、未来からの夢メッセージ」の場合も、劇団風の子の演出家に来てもらったときに、各自が意思決定した内容を紙に書いて、紙飛行機をつくり、フィナーレの音楽の最後に会場に飛ばすという形を演出してもらいました。プロのアイディアは一味違います。挿入歌には、「MOTHER EARTH」という歌を使い、作詞作曲した歌手のMINMIさんに、歌の指導に来てもらいました。地域の力を活用していきましょう。
②効果的な音を用意する
演技を支えるのに音は必要です。効果音やBGMによって、観客の創造力を誘導することができます。
③光を使う
ライトを使うだけでなく、ブラックライトやストロボ、ミラーボール、懐中電灯など、光を工夫するとよいでしょう。
まずは、できるところから
学芸会指導の経験がない教師もいます。そのときは、すでにある台本から選んだり、知り合いや先輩から台本を譲ってもらいます。音や衣装もあれば借りましょう。学芸会で大切なのは、子供たちが自分なりの表現を、友達との関係の中でつくり上げるという体験なのです。
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『教育技術 小五小六』2019年10月号より
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