「授業づくりも学級づくりも別のものではない」【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」第6回】
前回は、岡本先生の授業づくりについての学びを中心に紹介しました。今回は、学級づくりという視点での考え方や、これまでの経験を通して若い先生方に伝えたいことを紹介していきます。
目次
学力をつける過程で、学級をつくる
連載のタイトルに、「授業づくり・学級づくり」とありますが、学級づくりという視点で言えば、私は若手の頃には、学力づくり・授業づくりと学級経営・学級づくりはそれぞれ別のものだと捉えていました。その中で、初任時に学力研との出合いもあり、最初は学力づくり・授業づくりに力を入れて取り組んでいったわけです。それが、3年目に赤坂真二先生との出会いを通して、「学級経営という考え方もあるんや」と新たな視点を得て、学級というものの見え方が変わってきたなと感じています。
そこからまた多様な実践の経験を通して、現在は、授業づくりも学級づくりも別のものではないと思っています。学力をつける(資質・能力を育む)という過程で学び合う集団が育っていくことが、結局は学級づくりになっていくのだし、学級というのは子供たちと担任が、その集団としての学び合う文化をつくっていく空間だと思います。ですから、担任の先生が学級を経営するとか、誰かが経営するというものではなく、子供も先生も一緒に学ぶ学力づくり(資質・能力の育成)の過程自体が、言い換えるなら、その学びの轍(わだち)こそが学級なのだと考えています。
ですから、学級づくりということだけを取り出して、特別に語ることはあまりしていないのです。
すてきだなと思う先生から学ぶ
最近は、他の先生方の授業を見る機会が多い立場でもあるので、若い先生がこんなことに気を付けて取り組んでみたらどうかな、と思うことを少しお話ししたいと思います。
1つめは自分のやりたいことを言語化していくということです。もし、私が学級開きをしていない4月前の時期に若い先生と話す機会があったら、「どんな学級になってほしいの?」「目の前の子供たちにどんな力をつけたいの?」「あなた自身はどんな先生になりたいの?」ということを聞いていきます。そしてそのために、「じゃあ、こんなことから始めてみない?」と、具体的な方法について声をかけていくと思います。そこにあらわれてくる「子供につけたい力」や「なりたい先生」は、その先生の価値観であり、教育観であり、教師観です。そこが明確でないまま、ただ「いい先生になりたい」と思っていても、確かな成長は望めないような気がします。ですから、まず言語化してみることから始めてみてほしいと思います。
ただ、「言語化してみても、それをどうやって実現すればいいか分からない」ということもあるでしょう。そうしたら、あなたがすてきだなと思う身近な先生から学ぶようにしていけばよいと思います。すてきだと思う先生は、まさにあなたの教師観を具現化した姿でしょう。ですから、「憧れている先生だったらどうするかな」と考えながら取り組んでみて、そこでうまくいったこと、いかなかったことを明確にして改善を図っていけばよいのではないかと思います。
2つめは、研究授業などでは大胆に自分なりの授業にチャレンジしてみてほしいということです。最近、よく聞かれることでもありますが、みんな上手に授業をしているのですが、誰でもできる無難な70点くらいの授業を見ることが少なくないのです。授業とは、一人一人の先生とその学級の子供たちの間でできあがるものだと思います。ですから、どの学級でも間違いなくできるような授業をしていても、学べることはあまり多くないような気がします。それよりも、自分自身と目の前の子供たちの間でしか成立しないような授業に、チャレンジしてみてください。そうしたら、100点の授業になるかもしれないし、場合によったら0点の授業になるかもしれません。でも、そこから学べることはとても多いはずだと思います。
3つめは、集団をまとめる力があるかどうか、自分自身を見つめ直すことです。個別最適化ということが言われ、個人個人にしっかり目が行っている先生は多くなっています。もちろん個人個人にどんな力がついたのかを見極める力は必須です。ただし、対話的に深く学んでいくためには、学級という学ぶ集団の在り方が重要ですし、その状態を見極める力もまた必須です。
もし、個にばかり目が行きがちであったら、個に目を配りつつ、集団を意識するということは簡単ではないかもしれません。しかし、「個に話す時も全体に伝えようと思って話そう」「集団を通して個を育てていこう」ということを意識しながら、自身の中にそういう目を育んでいってほしいと思います。
「どの子も伸ばす」という価値観を芯に置く
最後に…私は1年目で学力研に出合ったわけですが、その会の根底にある「どの子も伸ばす」という考え方がずっと自分の柱としてあります。イメージで、学力研は百ます計算の会だと思われることもありますが、実はそうした個別の方法の問題ではなく、「どの子も伸ばすためには」それぞれの先生が、それぞれの学級、それぞれの子供の実態に応じてどんなことをすればよいかということを、追究していく勉強会なのです。
つまり表層的な技術ではなく、「どの子も伸ばす」という公教育として誰も否定できない価値観を芯に置いて学んできたことが、私にとってとても大きいことだったなと思います。加えて「追実践」で、先生にとっての学校という形で学んできたことも大きいと思います。研究会と現場で、理論と実践を行き来することが絶えることなく続き、そこに自分の先を行く人、同輩、後輩がいて仲間として学んでくることができたこともとても大きいと思います。
若い先生方も、そんなふうに教師としての人生を通して学び続けられる価値や、共に学び続けられる仲間を探していくことができれば、子供たちの姿ももっと輝くだろうし、先生自身の教師人生ももっと楽しいものになるのではないでしょうか。
次回【授業づくり&学級づくり「若いころに学んだこと・得たこと」第7回】「やはり研究授業などを通して他者に見てもらうことも必要」は、こちらです。
執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之