1年生担任になったあなたへ 1年間の見通し&10の戦略!

連載
マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
関連タグ

元山形県公立学校教頭

山田隆弘

校長せんせいより1年生担任を命じられたあなたは、どんな担任になればいいでしょうか。
1年生になる児童は、そのほとんどが、学校に行きたくて行きたくて、仕方がないような期待感にあふれています。何もかもが新鮮で、楽しいなぁ! …でもその反面、経験したことがないことだらけで不安もいっぱいです。学校を楽しむ気持ちをより高めつつ、不安を取り除くにはどうすればいいでしょうか。こんな10のポイントを意識してみましょう。

【連載】マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~

学習指導・生徒指導編

1 発言の「共有テンプレート」で安心感をもたせる

学校は、大人数の中で、児童一人一人の学習の成果が求められる場です。
当然、児童全員の学習を保障していかなければなりません。そのためには個々人の意思疎通が大切です。全員まんべんなく、対話できるようになるのが理想ですよね。
最初から自発的にたくさん話をしてくれる児童なら良いのですが、恥ずかしがり屋だったり、引っ込み思案だったりする児童にも、教室でのびのび発言できるようになってほしい。
そんなときは、「話型」を示すことが大切です。
初めから担任が示すのではなく、児童の中から良い発言の「話型」を拾って共有すると、学習集団としての財産になっていきます。
「○○さんの~という話し方がすてきだったね。よし、この形を書いてみるからね」
と言いながら、画用紙に書いていきます。
その画用紙シートがたくさん集まれば、すばらしい「話型」集になります。

「ぼくは~とおもいます」
「そのわけは~だからです」
「○○さんのいけんにつけたしていうと~」
「ちょっとちがいます!」

自発的な発言が苦手な児童も、「お手本」に沿うことで、自分の考えを発言しやすくなってきます。

ぜひ、みなさんも、いろいろな話型を集めてみてください。

2 遊びから技へ、そして学びへと結びつける

1年生の体育は、「○○あそび」がたくさんでてきます。
こども園、幼稚園、保育園などで慣れ親しんだ「遊び」から発展して、運動やスポーツ種目へ導いていきます。
児童を思いっきり遊ばせて、その無意識の体の動きから、技や競技の型といったものを意識する体育の学習へとつなげていきましょう。

「○○さんは、~がとてもじょうずなんだけど、なぜなんだろうね?」
「○○さんは、とてもきれいに~ができるんだけど、どうしたらいいのかな?」
と問いかけ考えさせていきます。

児童からの発言に着目点を補足し、
「○○さんは、どこをみているんだろうね?」
「○○さんの手の位置はどうしているの?」
などスキル向上のポイントを示すようにすると、児童の動きが変わっていきます。
体を動かすという感覚的な楽しさをもとにして、「意識すること・言語化すること」に慣れていき、思考を伴う技の向上と、そして学びへと導いていきたいです。

3 児童からの引き出し方・問い方を工夫する

授業では、「問いかけ」「それに関する思考、そして発言」という、言葉のキャッチボールが大切です。
1年生は、まだ思考して発言することを始めたばかりだと言えます。そこで、確かめ系の「質問」を主にしながら、徐々に探究系の「発問」を増やすようにしましょう。
教室で児童に問いかける内容は
5W1H、つまり、When(いつ)、Where(どこで)、Who(だれが)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのようにして)
に分類することができると思います。
「質問」は、このうち「When(いつ)」「Where(どこ)」「Who(だれ)」
です。これらは「確かめ系」と言い換えられ、ちゃんと話を聞いていたり文を読んでいれば答えられる単純なものです。学級全員が答えられるので、これを多用してテンポよく、児童たちの発言を引き出していきましょう。
一方、「発問」とは、「What(なに)」「Why(なぜ)」「How(どのように)」といった、発言する際に思考を必要とする問いかけのことで、「探究系」と言い換えられます。
「質問」でみんなが発言できる空気を醸成しつつ、徐々に「発問」を増やしていきたいですね。

4 正答よりも考え方が大切であることを伝える

学習の基盤となる大切なこと。それは、問いに対して「正答」を出すことではなく、自分の中で答えが導かれるまでの理由や考え方を示し、それを説明できる、ということです。

そこで、児童には発言の際に
「〇〇○です。そのわけは□□□だからです」
「△△さんと同じ意見です。それは○○○だと思ったからです」
と、なるべく具体的に長く、自分の考えを話すことを奨励していきます。

「長く話せたね。せんせいはとてもうれしいです!」
「うわあ、その説明はていねいだね。よく考えたねえ!」
など、児童の思考の経緯に対して、賛辞を惜しまないようにしましょう。

例えばテレビのクイズ番組など、これまで見聞きしてきたものごとから、質問にはただ端的に正答を言えば良い、という感覚を持っている児童もいるかもしれません。
しかし学校では、自分がどう考え、それを言葉にして友だちにどう説明するか…という学力が大切だということを伝えていきたいです。

5 ノート指導…1マス1字を徹底させる

学力がつかない児童は、ノートをきちんと書くことができていないことが多いです。
ノートを上手に書くことができるかどうかは、1年生のときの指導に大きく左右されます。
重要なポイントは、5つです。「あいうえお」でキーワード化してみます。

「あ」 あけて書く…文字と文字の間や、行頭・行末などは、適宜空白を作りながら書くように意識させます。児童のノートと同じように板書し、スペースを空けるべきところは、🟥など、わざと記号を使ったりして示します。余白のある方が格段に読みやすいということを感じ取らせます。

「い」 いっしょに書く…担任が板書したことを児童が書き写すとき、担任もさらにもう一度書くようにして、運筆の意識をさせましょう。書画カメラがあれば、担任もノートを用意して、児童と同じようにノートに書いているさまを投影して見せるのも良いですね。

「う」 うつくしい字(数字)で書く…ゆっくりでいいから、精一杯美しい字で書かせるようにします。
気持ちを落ち着けて物事にあたるという習慣づけに加え、正しく道具を扱う、ということにも意識が向くようになってきます。同じように、定規をしっかり手で支え、きれいな線を引くことも指導していきたいです。

「え」えんぴつを整えて書く…当然ですが、鉛筆で書かせます。芯が減って、ほぼなくなっているのに書き続けている児童もいますが、ノートの途中で芯がなくなり、書けなくなったが代わりがない…というような事態を避けるためにも、「削ってある鉛筆で書かないと気持ちが悪い」という感覚をもたせたいです。

「お」おおきくマス目の中に書く…1つのマス目の中に、精一杯大きな一字だけを書かせます。これはなかなか難しく、徹底が必要ですが、大きさの整った文字を書くためにも、かならず身に着けさせたいですね。

いずれにしてもノートを整然ときちんと書くことを1年生で身につけさせたいです。

メンタル編

6 成長を実感できるしかけをつくる

4月に入学したとき、自力で書いた自分の名前、絵などをとっておきます。
3学期の最後に、それと同じものを書かせます。
その差異は一目瞭然です。自分が成長したことを実感できます。
また、1年間の行事をカレンダーにまとめておき、イラストなどとともに1年を振り返るようにしておきます。
この時どんなことをしたか、学年末に振り返りをさせるといいですね。
1年生はものすごいスピードで作文力向上が向上します。
1語だったのが1文に、1文だったのが2文、3文に…。
そして原稿ノート1枚、2枚…と増えていきます。
長く書くことができるようになったのを実感させるためにも、作文をノートに書かせておくのも良いですね。
「こんなにできるようになった!」と実感できる仕掛けを作りたいです。

7 横のつながりを作り、仲間意識をもたせる

1年生にはまだ、「○組所属」という所属意識が少ないです。そして集団で生活しているという意識が低いと、生活規律を守るという意識も芽生えにくいです。集団で行う行動を増やしていき、ふれ合えるゲームをしたり、集団で一つの作品を作ったり、学級全体で歌を歌ったり演奏したり、集団でのスポーツを楽しんだりして、クラスメイトとの繋がりや、集団の中での自分という意識を、年間を通じて意図的計画的に醸成していきましょう。
複数学級のある学年では、クラスマッチ、合同的な学習、交流学習などで、さらに集団の意識を育む施策が取れます。学級の枠を超えてのダイナミックな学習や活動の展開例を示し、つながりと仲間意識をもたせていきたいです。

8 小1プロブレム回避のために、保幼小連携を軸に生活を構想

1年生といえば、「小1プロブレム」。対策が不十分だと、学級が荒れてしまいます。
わたしたちがまずすべきことは、それぞれの児童が就学前にどんな環境で育ってきたか、ということを把握することです。児童をまっさらな状態で、色眼鏡をかけずに見るべきと主張する向きもありますが、それはちょっと次元が違います。全員を平等に扱うためにも、配慮すべき点は予め、押さえておくべきです。
重要なポイントは、5つです。「かきくけこ」でキーワード化してみます。

「か」家庭事情
家族のことや保護者の養育姿勢などを把握

「き」気をつけること
発達障がい、学習環境への不適合など学校生活における課題は何かを把握

「く」苦しいアレルギー
生命に関わるアレルギーの原因物質と対応策を正確に把握

「け」健康状態
児童の病歴のうち、特に心疾患、腎疾患などの内臓系、四肢系、感覚器系など、特に教育活動の中で配慮すべき事項を把握

「こ」交友関係・交通事情
どうしてもこの児童と一緒でなければならない、どうしてもこの児童とは相性が悪いなど、人間関係のの事情。そして、学区外通学や区域外通学をしている児童の、登下校の交通事情を把握

これらを意識すればいいでしょう。
就学前に伝えてもらった情報に加え、出身の幼稚園、保育園、こども園などの前担任や主任教諭にアクセスして、児童の歩んできた道を把握し、対応していきたいです。
そして、こういった1年生での生活と支援のデータを基盤として、配慮の必要な児童への対応方法を、次の学年に引き継いでいきます。

9 家庭との連携…安心できる環境づくりをする

1年生の保護者からは、連絡帳に多くのメッセージをいただきます。
授業参観の感想、わたしたち教員への励まし、改善すべき点のご教示などなどです。
これらには「丁寧に差し障りなく共感しながら」返信を書いていきたいです。
そして、場合によっては直接話すようにします。その方が文字より直接的に伝わるからです。
児童間のトラブルがあったときは、児童が下校するかしないかの時刻を見計らって、保護者に電話を入れます。
経緯と事実関係を話し、指導したことや、今後の対応、留意点等をしっかり説明します。
1年生は生活の中で、細かいトラブルをたくさん生じさせ、それを逐一保護者に話したりします。
そのため、きちんとこちらがそれを掌握しており、必要とあらば保護者に伝えている、ということを示さないと、保護者の信頼を失ってしまいます。
また、児童が良いことをした時に、すかさず電話をして学校でのようすなどを話すのも、大変効果的です。
学級を上手に経営している担任を見ていると、こうしたほめ言葉を、児童だけでなく保護者にも頻繁に伝えているのです。
良いことも悪いことも包み隠さず家庭に伝え、連携していきたいです。

10 「感謝」の気持ちの伝え方を教える

人から何か良いことをしてもらったら、「ありがとう」と、声や姿勢で感謝の気持ちを伝えることは、未就学の頃から教わってきたことだと思います。
小学校では、さらに、「書くこと」による感謝の気持ちの伝え方を教えていきたいですね。
児童は、学校生活を経験していく中で、いろいろな人と接していきますから、感謝の気持ちをしっかり表現できるようになってもらいたいです。
そこで、各種のテンプレート「お礼のお手紙シート」を用意しておきます。
縦書き、横書き、季節感のあるもの、イラストのあるもの、塗り絵として色づけができるものなど、バリエーション豊かに揃えておくと、児童の気持ちも盛り上がります。
また、折り紙やメダルなど、ささやかなプレゼントを作って感謝の気持ちを伝えるのも良いですね。
その対象は、ゲストティーチャーの方、生活科などで触れ合った地域の方、運動会を手伝ってくれたPTAのみなさん、給食の調理師さん(自校給食の場合)、技能スタッフの方、卒業していく6年生などなど…。
このように、他の方への感謝の表し方を経験させておくと、年度末や転勤時など、担任と児童が離れるときに、自主的にお手紙を書く児童も出てきたりしますよ。担任にとっては、嬉しいサプライズですね。
1年生のうちにしっかり定着させたいです。

1年生は「白いキャンバス」のようです。この白い画面にどんな絵を描くかは担任の大きな仕事です。まだ幼い児童を育てるのは難しいですが、やりがいのある責任のある仕事です。思いつきではいけません。1年間を見通して計画的にこの10のポイントを進めていきたいです。うまく2年生につなげていきたいですね。

【参考図書】
『学級経営70のポイント―小学校学級担任必携〈低学年〉』/進藤猛(東洋館出版社)
『小一教育技術』(小学館)

イラスト/したらみ


  こんな問題を抱えているよこんな悩みがあるよ、と言う方のメッセージをお待ちしています!

その他にも、マスターヨーダに是非聞いてみたい質問やアドバイス、応援メッセージも大募集しています! マスターはすべての書き込みに目を通してますよ!


マスターヨーダの喫茶室は毎週土曜日更新です。

山田隆弘先生

山田隆弘(ようだたかひろ)
1960年生まれ。姓は、珍しい読み方で「ようだ」と読みます。この呼び名は人名辞典などにもきちんと載っています。名前だけで目立ってしまいます。
公立小学校で37年間教職につき、管理職なども務め退職した後、再任用教職員として、教科指導、教育相談、初任者指導などにあたっています。
現職教員時代は、民間教育サークルでたくさんの人と出会い、様々な分野を学びました。
また、現職研修で大学院で教育経営学を学び、学級経営論や校内研究論などをまとめたり、教育月刊誌などで授業実践を発表したりしてきました。
『楽しく教員を続けていく』ということをライフワークにしています。
ここ数年ボランティアで、教員採用試験や管理職選考試験に挑む人たちを支援しています。興味のあるものが多岐にわたり、様々な資格にも挑戦しているところです。

学校の先生に役立つ情報を毎日配信中!

クリックして最新記事をチェック!
連載
マスターヨーダの喫茶室~楽しい教職サポートルーム~
関連タグ

教師の学びの記事一覧

雑誌『教育技術』各誌は刊行終了しました