ICTを活用した中1社会科「古代国家の歩みと東アジア世界1 聖徳太子の政治改革」指導アイデア

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中学校の授業では、ICTを取り入れた、より質の高い授業を行うことが一層求められています。ICTによって、中学の教科担任ならではの探究的な学習、課題解決的な学習に取り組むことができる可能性が広がります。今回は、中学1年社会科の歴史の授業実践を例に挙げて、効果的なICTの活用方法を考えていきましょう。

執筆/福島県公立中学校社会科教諭・根本太一郎

写真AC・イラストAC

題材 中学1年社会科(歴史的分野)第2章「古代までの日本3節 古代国家の歩みと東アジア世界1聖徳太子の政治改革」

怖くない! まずは試してICTを使うことの不安を追い払おう

ICTを「いざ使う!」となる際、どうすればいいんだろう……と悩んだことはありませんか? 悩んでいる間に不安感は膨れ上がり、知らず知らずのうちにハードルが高くなってしまうということもあります。

今回紹介する実践事例は小・中学校関係なく、「普遍的」かつ「手軽」にICTを取り入れることができるものです。この機会に、まずは「試して」ICTの良さをぜひ実感してみましょう!

「聖徳太子について、説明できますか?」概念把握はできているか

今回は、小学校でも学習してきた「聖徳太子」の授業実践です。中学校1学年で実施します。

学級は総勢12名。全体的に教師の問いかけに対し、元気よく自分の思った考えや気付きについて発言することができる生徒が多いクラスです。聖徳太子についてどの程度知っているか。導入の場面で、生徒たちに問いかけました。

聖徳太子って何を行った人物か知っている?

「冠位十二階を定めた」「十七条の憲法を作った」「遣隋使を送った」「たくさんの人の話を同時に聞くことができた」「天皇中心の政治を目指した」など、具体的な語句は出てきました。重要語句の理解はできているようです。

しかし、「冠位十二階や十七条の憲法って何を目指したの?」「遣隋使を送った目的とは?」と問い返すと、なかなか具体的に答えることができません。聖徳太子について、「人物名」として捉えることはできていても、どのような人物であり、どんな施策を行ったのかという「概念把握」ができていないことが見受けられました。

そこで、生徒たちの反応を踏まえ、聖徳太子の政治の特色について、根拠をもとに具体的に説明することができることを目指し、「聖徳太子の目指した国とはどのような国だったのか」という課題を設定しました。

課題設定後は、課題解決のための前提となる知識理解のために、当時の東アジアを中心とした世界情勢や、豪族の権力争いなどについて、簡単に板書にまとめながら説明しました。

ICTの「文房具」としての活用

課題を解決するための手段の一つとして、ICTを活用します。全ての生徒がすぐにICTを使用できる環境が整備されているからこそ、生徒が日常的に使用する「文房具」としての活用を私は目指しています。

そのため、本時の授業では、課題解決のための活動を円滑に行うための手段として、次のようにICTを取り入れました。

ICTを取り入れるポイント
(1) Jamboardの活用による、聖徳太子の政策の目的の追究
(2) Keynoteを活用した振り返りの場面の充実「聖徳太子の政策の目的とは?」 ICTを使って「本質」に迫ってみよう

聖徳太子が行った「冠位十二階」「十七条の憲法」の制定や「遣隋使を送った」「天皇中心の政治を目指した」ことは、小学校で学習したことでもあり、大体の生徒は理解しています。しかし、「深い学び」の実現のために、より物事の「本質」に迫り、追究することが必要です。

そこで私は、クラスを3つのグループに分け、ICTと資料集などを活用しながら、「冠位十二階」「十七条の憲法」「遣隋使」それぞれの目的についての追究を始めるように指示しました。ICTを活用することで、より課題の解決のために、この活動を焦点化して行わせることがねらいです。

まずは、本質に迫るための下調べとして、iPadと資料集をもとに情報収集を行います。そして、Jamboardを使用して収集した情報を整理した上で、班で考えをまとめさせます。

このアプリケーションは、生徒の考えを瞬時に全体で共有し、それを可視化して把握したり、他の生徒に発信したりすることができるという点で、とても有効です。Jamboardを使用することで、「情報の整理・比較」する力や「得られた情報をわかりやすく発信・伝達」する力を育むことを目指します。

また、Jamboardの使用により、従来のKJ法で必須だった付箋の準備も要りません。準備の手間を大きく省くことができることも、とても重要です。

Jamboardを実際に使用する際には、

Jamboardには、それぞれの政策の目的とは何か、短い言葉にまとめます。

と指示をしました。このような指示をすることで、生徒の活動への道筋もはっきりします。

生徒たちの様子を見ていると、iPadと資料集を併用しながら情報収集をしている姿が見られます。中には、「資料集は情報がまとまっているからわかりやすい」とつぶやく生徒もいました。iPadのブラウザを活用して効率よく情報を収集するだけでなく、目的に応じて資料集から必要な情報を活用するなど、取捨選択をしようとする工夫が見られます。iPadがあることで、課題解決に向けて、主体的な情報活用が可能になっています。

iPadと資料集を併用しながら情報収集

Jamboardに自分の考えをまとめている生徒たちに声かけをしながら、追究の視点を与えていきます。歴史的な見方・考え方を働かせるための「種」をまくようなイメージで行います。アプリケーションをより効果的に使うための工夫とも言えます。

「なぜ、わざわざ冠を色分けする必要があるの?」
「なんで、役人に関する内容の条文が多いのかな?」
「憲法って言うけど、今の日本国憲法と比べるとどんな内容かな?」
「遣隋使の行き先はなぜ中国なの? 中国である必要って何?」

と問いかけました。生徒が自ら歴史的事象について深く考察することをねらいます。

生徒が実際に入力した付箋を見てみるとどうでしょうか…。遣隋使について追究しているグループからは「中国から進んだものを学び取る」という視点が読み取れます。中国から進んだ制度や文化を取り入れるという趣旨を理解しています。また、十七条の憲法についてのグループは「争いをなくす」、平和な国という言葉から「豪族の権力争いがあった」と、当時の情勢を踏まえていることがわかります。また「天皇」という言葉から、天皇中心の国づくりを目的としていたと気付いていました。一方で、冠位十二階については、資料集や教科書の文言を読み取ることはできましたが、そのねらいについて深く追究することはできていませんでした。

しかし、興味深かったのは、「冠」ではなく、「服装」に注目するなど、文化が朝鮮半島から伝わっていることに気付くことができたことでした。生活経験や既習事項と関連させることができています。

このように、生徒の思考の過程やその結果についても、Jamboardの付箋の読み取りから教師がすぐに把握できます。班ごとに色分けすることで、視覚的にそれぞれの政策のねらいや目的について、瞬時に把握することもできます。

また、Jamboardに改めて考えを整理することで、思考を整える働きもあります。教師側も生徒の記述を踏まえて、生徒が気付けていないのは何かを理解できるので、指導の改善もすぐに可能です。ICTの活用により、生徒はより深まりのある活動が可能になるとともに、教師も生徒の姿を適切に見取り、それに応じた指導が可能になりました。

生徒が入力した付箋。冠位十二階、十七条の憲法、遣隋使

※Google Jamboardは2024年12月31日にサービス終了します。

ICTを使うと評価の視点が「見える」

振り返りの場面では、Keynoteを活用した評価シートに、本時のまとめと感想を記入します。

まとめは、評価シート内の『主題解決のヒント』に記入します。また、授業の感想は、その右の欄に記入します。単元を貫く主題設定とも関連をはかりながら、本時の授業全体を大観しながら書き上げます。まとめは、思考・判断・表現、感想は主体的に学習に取り組む態度の評価に反映します。

下図のKeynoteを作成した生徒の記述を見ると、単元を貫く課題を意識しながら、重要語句を活用し、具体的に振り返ることができていました。一方で、聖徳太子の『理想』という部分に関して、思考を働かせることは難しかったようです。この生徒の場合は、聖徳太子の『思い』に迫ることができなかったので評価はBとなります。

生徒が記述した聖徳太子に関するKeynote
評価基準

Keynoteを用いることのメリットとして、以下が挙げられます。

  • 記述のやり直しが容易である
  • 教師への提出がすぐに可能である
  • フォーマット化してしまえば、準備の手間(ワークシートの印刷など)を省くことができる
  • 前の授業で取り扱ったスライドをタップすれば、すぐに既習事項を確認することができる

これらのことから私は、ノートへの記入から、Keynoteでの評価シートの活用に移行しました。このように、ICTをどのように活用するか、その「目的」を教師がはっきりともつことで、教育的な効果がより大きくなります。具体的な使用場面とアプリケーションの相性を考慮することで、業務の効率化や改善にもつながりました。

ICTの活用はあくまで「手段」であることを忘れずに

ICT活用の本質とは、「従来の教育活動の質をより効果的に高めること」だと私は考えます。そのため、ICT活用の「目的」を確実に理解していれば、小・中学校・高等学校問わず、ICT活用による効果は普遍的だと思います。あくまで、ICTの活用は教育活動の質をより効果的に高めるための「手段」でしかありません。そのため、ICTの活用そのものが目的になってしまっては本末転倒です。「慣れる」ための場面であっても明確な目的がなければ、その活用は形骸化したものになってしまいます。とは言っても、私もそうなってしまうことが多々あり、常々反省しています。教育活動を最大限効果的に行うためにも、「手段の目的化」にならないよう、念頭に置いて活用していきましょう。

ICTの取り入れ方のイメージ

根本太一郎(ねもと・たいちろう)
福島県公立中学校社会科教諭 社会科と道徳科を中心に、授業を通した『感動』を生徒にもたせるため、日々実践研究を行っている。特に効果的なICTの活用方法の研究や、地域の歴史の研究、社会教育施設や企業訪問などを通した地域資源の教材化を中心に行っている。社会科についての若手教員の勉強会である、Social studies for Fukushima を共同運営。


<参考資料>
佐藤正寿『スペシャリスト直伝!社会科授業成功の極意』明治図書出版(2011)
宗實直樹 椎井慎太郎『GIGAスクール構想で変える!1人1台端末時代の社会授業づくり』明治図書出版(2022)
有田和正『有田和正の授業力アップ入門―授業がうまくなる十二章―』明治図書出版(2005)
川端裕介『川端裕介の中学校社会科授業 見方・考え方を働かせる発問スキル50』明治図書出版(2021)
樋口綾香『「自ら学ぶ力」を育てる GIGAスクール時代の学びのデザイン』東洋館出版社(2023)
宗實直樹『宗實直樹の社会科授業デザイン』東洋館出版社(2021)
横田富信『社会科が得意な先生・子どもも、苦手な先生・子どもも、授業がおもしろくてたまらなくなる本』東洋館出版社(2022)
樋口万太郎『GIGAスクール構想で変える!1人1台端末時代の授業づくり』明治図書出版(2020)

イラスト/横井智美

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