離任式の教師の挨拶~最後は「自分の言葉」で伝えよう~
文章としての完成度は低くたって、どこかで聞いたことのあるようなものよりも自分の言葉で語る挨拶の方が、ずっといいに決まっています。何でもネット検索できる便利な時代だからこそ、最後の挨拶では子どもたちに何を伝えたいか、じっくり考えてみませんか。
劇団俳優を経て、公立小学校の教壇へ。得意のダンス指導で日本一になったり、絵本作家にチャレンジしたりと、精力的な毎日を過ごす松下隼司先生。その教育観の底には、子どもも指導者も毎日楽しく、笑顔でありたいという願いがあるそうです。そんな松下先生から、笑顔のおすそわけをしてもらうコーナーです。
指導/大阪府公立小学校教諭・松下隼司
コピペの挨拶で本当にいいですか?
私が教員になった19年前と比べると、今は、ネットで検索したら簡単に知りたいことが調べられます。「離任式 挨拶」とキーワード検索したら、具体的な挨拶の言葉がたくさん出てきます。
「〇〇先生は、〇年前、この〇〇小学校に来ました」のような穴埋め形式で、自分の情報を入れたらすぐに離任式の挨拶が完成するようになっているサイトもあります。
正直、とても助かります。ネットがない頃だったら、自分で1から考えたり、先輩の先生に聞いたりしていたはずです。ものすごい時間もかけて考えていたと思います。しかも、時間をかけた割に、今のネットに載っている挨拶の言葉よりも完成度は低かったでしょう。
でも、自分で考えた挨拶の言葉の方が、「子どもや学校への想いや熱量」は確実に伝わるはずです。
「働き方改革」「ICTの有効活用」とは真逆になるかもしれませんが、自分で考えることが大切なときもあります。例えば、告白やプロポーズなど、好きな人に自分の想いを伝えるとき。結婚式での新郎新婦の友達代表としての挨拶。
ネットや本にある言葉より拙いかもしれないけれど、自分の言葉で伝えたい「人」と「時」があります。
ネットや本を参考にして、「こういうことを話すのか」とイメージをもつのは大切です。その上で、「自分が勤めている学校、子どもたちに、今の自分は何を伝えたいかな? どんな伝え方ができるかな?」と考えていただきたいのです。
私も「もし今年の3月、今の勤務校(大阪市立豊仁小学校)を転勤するんだったら……、離任式で挨拶するんだったら……」と考えてみました。
- 豊仁小学校の「豊仁」って、漢字で書けますか?
……(空中に書く子どもが出てくるかと思います♪) - 「豊仁」の「豊(ほう)」って、他にどんな読み方があるか知っていますか?
……(知っている子どもが多いかと思います)
そう、「ゆたか」です。「いっぱい」という意味ですね。 - じゃあ、「豊仁」の「仁(じん)」って、他にどんな読み方があるか知っていますか?
……(「豊」よりも知らない子どもが多いです)
「に」「にん」「ひと」とも読みます。 - じゃあ「豊仁」って、どんな意味だと思いますか?
……(「ひとがいっぱい」と考える子どもが多いと思います♪)
「豊仁」の「仁」は、「おもいやり」という意味があります。
「おもいやり、やさしさがいっぱい」の小学校なんですね。
やさしい子どもたちがたくさんいる、この豊仁小学校で6年間、働けて、先生は本当に幸せです。
6年間、ありがとうございました。さようなら。
私は、学校の名前から挨拶を考えてみましたが、学校名からは考えにくい学校もあるかと思います。その場合は、「校歌の歌詞」から考えるのもいいかと思います。校歌を取り上げることは、学校を大切に想っていることにつながります。校歌の歌詞の1か所を取り上げて、発問と自分の想いや考えを乗せて、感謝の気持ちと別れの言葉を伝えてはいかがでしょうか。
松下隼司(まつした じゅんじ)
大阪府公立小学校教諭。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクールで文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門で優秀賞を受賞。さらに、日本最古の神社である大神神社短歌祭で額田王賞、プレゼンアワード2020で優秀賞を受賞するなど、様々なジャンルでの受賞歴がある。小劇場を中心に10年間の演劇活動をしていた経験も。著書に、『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』(東洋館出版社)、絵本『ぼく、わたしのトリセツ』(アメージング出版)、絵本『せんせいって』(みらいパブリッシング)がある。
イラスト/したらみ