小学校理科と中学校理科の接続「問題と課題」【進め!理科道〜よい理科指導のために〜】#21

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理科の壺/進め!理科道~理科エキスパートが教える、小学校理科の指導法とヒント~
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國學院大學人間開発学部教授

寺本貴啓
進め! 理科道(ロード)
〜よい理科指導のために〜

いろいろな自治体の教科ごとの研究会に行くと、かなりの頻度で小学校の先生と中学校の先生が合同で行なっています。これは、自治体の中で教科ごとに分かれた際、学校種ごとで別々に実施できるだけの人数がいないということもありますし、また、小学校と中学校を接続するメリットを重視するという理由で行っていることもあります。
小学校の学習指導要領と中学校の学習指導要領では、学習内容の系統が一見つながっているように見えますが、発達の程度も違いますし、よく見ると用語の使い方なども異なっています。そのため、小学校の先生が中学校のことを、中学校の先生が小学校のことをお互いに理解することに苦労することがあります。今回は、その中でも代表的な「思考力の言葉の使い方」について一緒に考えていきましょう。

執筆/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓

1.小学校と中学校の「思考力の考え方」の接続

授業を行えば評価をしなければいけません。小学校でも中学校でも、以下の図にあるように資質・能力の3つの柱を大切にして授業を行うことになっています。この資質・能力の3つの柱に対応し、評価は「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」という用語を使っています。

小学校では、「思考・判断・表現」の評価は、3年から6年まで、それぞれ1つずつの能力を評価しています。例えば、3年では「問題を見いだす力」、4年では「根拠ある予想を発想する力」、5年では「解決の方法を発想する力」、6年では、考察などの文章を書く際に「より妥当な考えをつくりだしていく力」がそれにあたります。つまり小学校の場合は、問題解決の過程に沿って、問題解決の力を順番に3年から6年で重点的に育て評価します。

一方、中学校では、1年から3年の3年間で設定された思考力の観点で評価します。これは、小学校と同じような評価の観点ではないことを意味します。オレンジ色の部分を見てみましょう。中学校1年では「問題の見いだしから見通しをもった実験の実施」、中学校2年生では「実験計画の立案から結果の分析解釈」、中学校3年では「結果の分析・解釈」「振り返り」に重点が置かれていることがわかります。

小学校では、一つの能力ができているかどうか、という点で評価する一方で、中学校では問題解決過程の一定の幅を見て質的に高まっているかどうかで評価していることがわかります。問題解決の過程は、小学校と中学校では変わりませんが、評価の観点という意味であれば、小学校と中学校では結構異なっていますね。

2.「問題と課題」の違いを考えてみよう

小学校では「振り子の1往復する時間は何によって変わるのだろうか?」といった板書をしますね。同じことが教科書にも載っており、一般的にこれを「問題」といいます。
一方、中学校ではこれを「課題」といいます。教科書を見ても、小学校では「問題」、中学校では「課題」がそれぞれ使われています。
このように、学校種によって言い方が異なっているため、小学校の先生と中学校の先生が合同で研修を行なうと、話が通じません。小学校から中学校に子どもたちが上がっていくわけですから、(ルールを変えて)言葉くらいは揃えてほしいというのが私の本音です。

しかし、学校種間で全く考え方が異なるのかというと、各学校種の評価観点をよく見ると、実はあまり違いがないのではないかと思うのです。先程述べた思考の評価では、小学校の思考力は3年で「問題を見いだす力」が観点となっていますし、中学校でも「問題を見いだし見通しをもって…」と書かれています。共に「問題」という言葉が使われています。児童・生徒が自然事象と出合い、疑問を感じ、理科の時間に追究する、そのスタートとなる子どもから見いだした個人の疑問はどちらの学校種でも「問題」と呼んでいるわけです。

今回の学習指導要領の改訂で、小学校では3年生の思考力の評価観点として「自分自身で問題が見いだせたかどうか」が設定されました。これまでは、評価の観点になかったことから、先生が問題を設定してしまっても良かったわけです。今回の改訂からはそういうわけにはいきませんので、
①自分で問題を考えてノートに書く時間(友達と話し合わずにまず個人でノートに書かないと、自分の力で問題が見いだせたかどうかがわからないので、評価する資料を作るために書かせる時間)と、
個人で書いた問題を学級で共有して、学級として1つの問題(学級の問題)を決める時間の2つの時間をつくる必要が出てきました。この2つの言い方を分けて考えると、小学校と中学校の違いがよくわかります。

先程述べたように、小学校と中学校では、これから理科の時間に追究できるもので、自分で見いだした個人の疑問を「問題」と呼ぶという点では共通しています。一方、小学校と中学校で異なるのは、個人が見いだした問題を学級の問題にするときに、何と言うかです。

小学校では、個人の見いだしたものも学級で設定したものも同じ「問題」ということが多いようです。私としては、「問題」と「学級の問題」のように言葉を使い分けた方が研修をする際にわかりやすいと思いますが、曖昧に使用されていることが現状のようです。中学校では、個人の問題と、学級の問題を分けて使っていますが、小学校で言う「学級の問題」を「課題」と呼んでいます。

このように、学校種による言葉の違いを研修会で共通理解しておくことが、より深い研修にする第一歩かもしれません。

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寺本貴啓

<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。

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