Q1 良い教師になるために、日々の仕事のなかで何を優先すべきか?(後編)【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#2】

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教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」
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文部科学省初等中等教育局主任視学官

田村学
Q1 良い教師になるために、日々の仕事のなかで何を優先すべきか?(後編)【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#2】

國學院大學の田村学教授に、先生方の疑問や悩みに答えていただくこの連載。今回は、子供理解の側面から、若い先生に取り組んでみてほしいことについてお話しいただきます。

Q 「私は昨年、教師になったばかりなのですが、日々やるべきことが本当に多くて、何をやったらよいか指導の先生の指示を受け、それをこなしているばかりです。ただ、早く成長して良い教師になりたいと思うのですが、まず何から取り組めばよいのでしょうか?」(小学校・20代)

子供理解のために、1日の出来事を書き出していく

 前回、まず若手の先生に取り組んでほしい2つのことのうち、1つめの授業の導入の工夫についてお話をしました。今回は、もう1つのことについてお話をしていきたいと思います。

そのもう1つとは、子供理解のための工夫をしていくことです。やはり、子供たちが共に学ぶ場であり、一日を過ごす生活の場である学級を子供たちと共につくっていくには、何よりも子供を理解することが重要です。ちなみにその子供理解は、前回お話しした授業づくりにも大きく関わるのですが、それについてもお話をしていきます。

さて、子供理解をしていくためには本当に多様な方法があると思います。例えば、「若いうちはできるだけ子供たちと一緒に遊びましょう」と言われるのもその1つです。それは、子供たちとより長い時間を共有することを通して、「子供たちは一日、こんなふうに生活しているんだ」とか、「子供たち一人一人にはこんな特徴があるのか」とか、「(大人である自分とは異なり)こんな考え方をしているのが子供なんだな」といったことを、よりよく理解するための方法の1つです。

私自身がそのような子供理解のために若手の頃にやっていたのは、放課後、座席表を記した紙に、その日にあったことを思い起こして書き出していくことでした。子供たちが帰った後、静かになった教室で、15~30分程度の時間、メモをしていくわけです。「1時間目にAさんがこんな発言をしていた」とか、「2時間目には日頃体育の苦手なBさんが跳び箱でこんな活躍した」とか、「昼休みにCさんとDさんが喧嘩をしてしまった」といったことを座席表に書き出していくのです。これを、ぜひ若い先生方にお勧めしたいと思います。

短時間ではあっても、このように書き出していくと、一日を意識的にふり返ることになるため、子供たちの様子がどうであったかを冷静に見直すことができます。それともう1つ大事なことは、このふり返りを毎日行い、積み重ねていくと偏りが出てくるので、自分が見えている子と見えていない子が分かってきます。端的に言ってしまえば、特徴的な子は毎日出てくる一方で、ほとんど書けない子供も出てくるということです。そういう偏りに気付いたら、日頃見えていなかった子供に対し、意図的に声をかけるとか、関わってみるといった工夫をしていくことができます。

当然、子供の記録が積み重なっていくわけですから、子供たち一人一人にどんな特徴があるのかということも客観的に見えてくるわけです。しかし、それ以上に私が大事だと思っていたことは、やはり先にお話ししたように自分の子供との関わりに偏りがあるとか、子供たちとどう接しているかといった、自分自身のありようを見直すことができることだと思います。

学校という場は、子供たち主体に動いていくものだと思います。そのため、他の職種とは異なり、なかなか自分自身の都合でスケジューリングすることが難しく、あれこれ受け身で対応しているうちに、あっという間に一日が過ぎ、気が付いたら夕方になっていたということが少なくないはずです。しかし仕事というのは、何から何まで他者から仕事内容を指定されると負担感が増加していきます。逆に自分でコントロールできていると、少々忙しくても負担感が少ないものです。

その意味でも、先のような方法を通して自分の行為を見つめて客観視し、自分でコントロールできるようになっていくことが大事だと思います。

イメージ力を上げると、授業づくりが楽しくなる

私は、先生方が若いうちに身に付けていかなければならない重要な力は、イメージする力だと思います。例えば、授業をする時にも45分や50分の授業をどう展開していくかイメージするわけですよね。そのイメージがはっきりしている場合もあれば、ぼんやりしている場合もあるでしょう。おそらく、経験の少ない若い先生方はどうしてもぼんやりしてしまいがちですし、それは仕方のないことでもあると思います。しかしそのイメージが、よりはっきりとクリアになればなるほど、授業づくりもより楽しくなるわけです。

前回、導入の工夫から取り組んでみようとお話ししましたが、最初は「導入でこんなものを用意したら、子供たちはこんなふうに反応するんじゃないかな」と思っていたものが、予想通りにいかないかもしれません。しかし導入の工夫を重ねると共に、先のような子供理解の取組を重ね、日々の子供たちの姿がクリアにイメージできるようになると、「これを見せたらAさんは~と反応するだろう」と思ったような反応が出てきて、授業が展開していくことが出てくるかもしれません。さらにそうした経験を積み重ねていくと、授業全体のイメージもよりクリアになっていくことでしょう(授業の質を上げていくには、評価規準などがとても重要なのですが、今回はそうした難しい話は置いておくことにします)。

子供たちの反応がよりクリアにイメージできるようになると、授業の精度も上がり、授業づくりもより楽しくなる。

そうしたイメージ力を上げていくためにも、15分でもよいので、1日1日の子供の姿(と自分の姿)をふり返りつつ、書き出していく時間をもつことをお勧めします。そこで得られたイメージを基盤にしながら、自分で意図的に授業を行うことと、そこでの実態とのズレを修正していくことで、イメージはよりクリアになっていきますし、授業力も向上していくことになると思います。

なお、この連載のような疑問を直接、田村学先生に投げかけ、お答えいただくことのできる、「若手教師のためのオンライン田村サロン」を、次回は3月26日に開催予定です。ご興味のある先生方、疑問や悩みをおもちの先生方はぜひご参加ください。

オンライン田村サロンURL https://kyoiku.sho.jp/211957/

【教師の悩みにピンポイント・アドバイス 田村学教授の「快答乱麻!」#3】は、こちらです。

執筆/教育ジャーナリスト・矢ノ浦勝之


「学習指導要領がめざす」子を育む!
『「ゴール→導入→展開」で考える「単元づくり・授業づくり」』
田村 学 著
ISBN 978-4-09-840226-7


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