#47 ぼく、もらしちゃったんだ【連続小説 ロベルト先生!】
前回は、友達づくりの秘伝『中学校のバスケットゴールって高いよねえ』などを子どもたちに鼻高々に伝授していた朝見鉄也先生。おやおや……、今回はどうやら、眠りの中に引き込まれているようです。夢の中では、幼稚園のころに戻った鉄也の姿が……。どんな回想シーンが始まるのでしょうか。
第47話 鉄也が見た夢①
「亮太くん、中学校のバスケットゴール、本当に高いよね」
「うん、そうだね」
「ねえねえ、何して遊ぶ?」
「え~っ、うんちもらした鉄也とは遊びたくない」
「うんち、もらした? それ、どういうこと?」
「幼稚園のとき、うんちもらしたでしょ」
「何でそれを?」
「鉄也、じゃあね」
「えっ、ちょっと待って亮太、行かないで…、行かないで」……
……「行か…、な、あれっ…、夢…か?」
鉄也は、一度目を覚ましたが、また、そのまま眠ってしまった。
「鉄也、おかえり! あれ? ズボンが替わってない? どうしたの?」
「……」
「確か、しま柄の半ズボンをはいて行ったよね?」
「……」
「チェック柄のズボンだったっけ?」
「……」
「鉄也、どうした?」
「ぼく…、ぼく…」
「ぼく、どうしたの?」
「幼稚園で…」
「幼稚園で、どうしたの?」
「うっ、うんち」
「うんち???」
「うんちもらしちゃったんだ! うわーーーーーん!」
給食後の昼休み、外で夢中になって遊んでいた鉄也は、急にお腹が痛くなり、園庭のど真ん中で座り込んだ。
その瞬間! 「ビリビリビリ…」
鉄也は、右手の人差し指を半ズボンの隙間からお尻に向かって差し込んだ。そして、おそるおそる、その指を取り出した。
すると、人差し指の爪の隙間に、黄土色の物体が付着していた。鉄也は無意識にその指を自分の鼻のところへ…。それは、まぎれもない…うんちだった。
こうして、鉄也の幼稚園生活には大失態となった。
また鉄也は、大事な日の前になると、よく体調を崩した。
学芸会で劇をすることになった。配役を決める日に熱を出して鉄也は欠席をした。そして、いつの間にか決まった役は、劇の場面と場面の移り変わりの間のナレーターだった。
また、運動会の前日にも熱を出した。しかし、鼓笛隊で大太鼓を叩くことになっていたので、熱は下がらなかったが、なんとか出場した。
そんな鉄也も卒園式を迎えた。
「残念ですが、明日の卒園式には出られません」
お医者さんにそう告げられた。母は、その言葉を疑うかのように、鉄也を自転車の後ろに乗せて幼稚園へと向かった。
名前の順で一番の鉄也は、幼稚園児を代表して卒園証書をもらう大役を任されていた。しかし、昨夜から熱を出し、今日は幼稚園を休んでお医者さんに診てもらいに行っていたのだ。
「これは、水疱瘡ですね」
母は、そのことを幼稚園の先生に報告した。そして、先生から返ってきた言葉は、お医者さんと同じだった。
母は泣いていた。鉄也はその姿をじっと眺めていた。
小学校に入学した鉄也は、2年生までは運動が得意で、運動会のかけっこでは1位をとった。また、兄と一緒にピアノを習い、一度だけ発表会に出た。弾いた曲は「ぶんぶんぶん」だった。
父が一戸建ての家を購入し、家族は引っ越しをすることになった。
転校を経験した鉄也は、新たな学校でなんとか友達をつくろうとした。しかし、どうすればよいかよく分からず、何を勘違いしたのか、女の子の気を引こうとしてスカートめくりをし、先生に叱られた。
母は、前々からやりたがっていた駄菓子屋を家で開くことになり、鉄也はおやつに店のスナック菓子をボリボリと食べた。気が付いたときには、保健室から通知が来るほどの肥満児になっていた。
5年生の持久走大会。鉄也の後ろに人はなく、鉄也の横には伴奏して走る先生がいた。
「鉄也、後もう少しだ! がんばれ!」
鉄也は学年でペケになり、ゴール地点では、みんなの拍手に迎えられた。
そんな鉄也も、近所に住む同級生の女の子にバレンタインデーのチョコをもらった。義理チョコだったのかもしれないが、男と認められた気がして、とても嬉しかった。
しかし、鉄也はTVアニメが大好きで、「銀河鉄道999」のメーテルに恋をしていた。
執筆/浅見哲也(文部科学省教科調査官) 画/小野理奈
浅見哲也●あさみ・てつや 文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追究中。