集団行動が苦手な子への対応|アヤ&メグの新任教師お悩み相談⑦

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板書や指導のコツを伝授!樋口綾香の「すてきやん通信」

大阪府公立小学校教諭

樋口綾香

新任教師のお悩みに2人の先輩がお答えするシリーズ第7回のテーマは、「集団行動が苦手な子への対応」。教職15年目の通常学級担任・樋口綾香先生と、11年目の支援学級担任・竹澤萌(たけざわめぐみ)先生が、具体的な実践の紹介とともに、担任として意識したいポイントを教えてくれます。

Instagramでは2万人超えのフォロワーに支持され、多くの女性教師のロールモデルにもなっている樋口綾香先生による人気連載!
このシリーズのテーマは、「子どもの力を引き出す担任の在り方」。初任の先生の悩みや疑問をもとに、先輩教員2人が考え方や手法を提案します。答えるのは、教職15年目の通常学級担任・樋口綾香先生と、11年目の支援学級担任・竹澤萌先生。具体的な問題場面に対して、担任として意識したいポイントを提示し、2人の考えを共有します。
きっと、正解は一つではありません。状況によって、考えや行動は柔軟に変化させなければならないでしょう。目の前の子どもたちの力を最大限生かすための方法を、いっしょに考えていきましょう。

執筆/大阪府公立小学校教諭・樋口綾香

今回の相談「集団行動が苦手な子どもへの対応」

[今回の相談]
集団行動が苦手な子どもたちの言動が引き金になって起きるトラブルに悩んでいます。一部の子どもたちの「話合いに参加しない」「ちょっかいをかける」「言葉がきつい」などの言動によって、一生懸命がんばっている子も耐えられず、訴えてきます。注意ばかりが増えている現状をなんとかしたいです。

第7回の相談は、集団行動が苦手な子どもへの対応についてのお悩みです。

担任として、すべての子どもたちが居心地よく、一人ひとりの力を発揮できる学級をつくりたいと思う一方で、この願いを達成することの難しさを日々感じています。それは、さまざまな子どもがいっしょに生活するのが学級だからでしょう。特に、集団行動が苦手な子は、多くの困難を抱えていることが想像できます。担任としてどのように対応することが望ましいのでしょうか。

樋口綾香先生の回答

学級担任をしていると、集団行動が苦手な子どもに振り回されてしまうことがありますよね。例えば、誰かの言葉に過剰に反応する、すぐに離席する、予定変更に対応できない、話合いができない、ルールや決まりを分かっていても守れないなど、小さな問題が頻繁に起きることで、学級の雰囲気が悪くなり、友達関係もうまくいかなくなってしまうことがあります。

私自身も、これまでに悩むことがたくさんありました。そして、きっと気づかないところで、学級の子どもたちに多くの迷惑をかけていたのだと思います。担任がつらいときは、子どもたちもつらいのかもしれません。

私は、集団行動が苦手な子と接するときに、次の3つのことを意識しています。

  1. 見守る → 見逃す → 注意する
  2. 子どもたちの自尊心を傷つけずに、行動を促す
  3. 個人の特性を認め合える集団をつくる

1 見守る→見逃す→注意する

問題行動を見つけるたびに注意していると、子どもも教師も疲弊してしまいます。

私は、問題行動を発見したとき、すぐには注意せずに、まずは見守るようにしています。どうしてその行動に至ったか、周りを観察し、私自身の指示の悪さや環境への配慮不足はないかを考えます。そして、子どもの様子を見て、声をかけた方がよいか、見逃した方がよいかを判断します。もし周りに原因があった場合は、そのことを周りの子に伝え、本人を守る声かけをします。注意するという選択を安易にしないことを心がけています。

2 子どもたちの自尊心を傷つけずに、行動を促す

集団行動が苦手な子は、これまでにも多くの苦労をしてきたことが考えられます。中には、自分で自分を責め続けてきた子もいるでしょう。そのような子どもたちが少しでも安心して教室で過ごせるように、できるだけ多くの選択肢を用意しながら、子ども自身が行動を選択できるように促します。

自分で行動を選択できたことを成長と捉え、その判断を価値づけていきます。注意されて終わりなのではなく、できたことを認める声かけが子どもの心に残り、自尊心が高まっていきます。

3 個人の特性を認め合える集団をつくる

子どもたちが、自分のことを知る機会はどれくらいありますか? また、友達の特性を知る機会もつくれているでしょうか。

私が担任する学級では、「持ち味トーク」を朝の会の時間を活用して実施しています。「持ち味トーク」は、自分の持ち味、友達の持ち味について話し合う活動です。

「持ち味トーク」についてはこちらの記事をご参照ください。
↓↓↓
学級目標を意味のあるものにするには?|アヤ&メグの新任教師お悩み相談①

「持ち味トーク」を実施すると、自分の得意なこと、苦手なことを知るだけでなく、友達に自分の苦手なことをわかってもらえる安心感を得たり、自分も困っている人を助けたいという思いが生まれたりします。

「イライラしやすい」「思ったことをすぐに言葉にしてしまう」「言葉が悪くなってしまう時がある」など、自分の特性がわかってきたら、それをどうしたいかを考えたり、友達からのアドバイスをもらったりすることを通して、少しずつ特性をコントロールできるようにしていきます。

自分や他者の特性を知ることで、集団生活の中でうまくいかない子がいたとき、「私には関係ない」という意識ではなく、「その子のために私たちにできることはないだろうか」「自分にも苦手なことがあるから気持ちが分かるな」という意識に変わっていきます。

学級の子どもたちには、「できないことがあるのは当然のこと。先生にもいっぱいあるよ」といつも伝えています。一人で解決するのは難しくても、周りの人の力を借りれば乗り越えられることがあると、子どもたちに知ってほしいと考えています。

竹澤萌先生の回答

1 言動に至るまでの背景を分析する

まずは、その子たちがなぜ話合いに参加しないのか、どうして友達にちょっかいをかけてしまうのかなど、問題となる言動に至るまでの背景を知る必要があると考えています。

その際、子どもたちから「なぜ?」「どうして?」を直接聞き出すことができるのならばスムーズかもしれません。しかし、そのような言動が出る子どもたちの中には、自分の言動の背景やその時の気持ちを言語化するのが苦手な子もいることが予測できます。そのようなときには、正しい表現ができるように、教師が導く必要があると考えます。

そこで私が取り入れてきたのが、「応用行動分析ABA:Applied Behavior Analysis)」です。応用行動分析とは、「行動」を個人の問題ではなく、環境による影響の結果として捉えることで、その後の問題行動の解決などに役立てていく方法論です。「意識」ではなく「行動」を変えるためのメソッドと言えるでしょう。支援教育でよく使われている手法ですが、通常学級の子どもたちにも有効です。問題行動が起こるきっかけを教師が認識していれば、あらかじめ対策を講じることができます。

《参考文献》「発達の気になる子の「困った」を「できる」に変えるABAトレーニング(発達障害を考える心をつなぐ)」(ナツメ社)

2 アプローチを考える

子どもの問題行動の背景が分析できたら、さっそく対策を立て実施してみましょう。ただし、「これをすれば必ずうまくいく」というものは、ありません。私は一つ、二つ手立てを試してみたところで、その子にピッタリうまくいくならラッキーだなと考えるようにしています。

もしかしたら、教師側が設定している活動場面や教材選定など、与えている環境に要因があることも考えられます。第2回でお伝えしたように「システムを見直す」ことで解決できることもあるかもしれません。様々な角度からアプローチを考えてみましょう。

また、手立ての数はたくさんある方がいいと考えています。教師になったばかりの頃は、もっている知識も手立ての数も少なく、対応をするのに非常に困っていました。そのようなときには、前回お伝えしたとおり、一人で悩まず、学年の先生や児童生徒指導の先生に相談し、みんなで検討していくようにすることをおすすめします。

また逆に、経験を重ねると、「この子はこういう子だろう」と決めつけてしまいがちになる恐ろしさもあることを、覚えておいてほしいところです。

同じようなケースはあっても、一人ひとり個性があります。日頃、その子との関わりが多い担任の先生だからこそ、数ある手立ての中から「これならできそうかも?」という対応を絞りつつ試しながら、「さらにその子を知ろう」とする意識をもってサポートしていくことが必要だと考えています。

《参考文献》「発達障害のある子のサポートブック 保育・教育の現場から寄せられた学習困難・不適切行動へのすぐできる対応策2800」(学研プラス)

3 頑張っている子たちへのことばがけ

お悩みの中に「一生懸命がんばっている子たちも耐えられず、訴えてきます」とありました。この訴えの背景を私なりに考えてみると、3つ挙げられます。

  1. 先生が問題行動を放っておいていると感じている
  2. きちんと活動に取り組んでいる人たちが我慢している場面が多い
  3. 問題となる言動をしてしまう友達への理解が足りない

学級の実態により対応も変わってきますが、「頑張っている子たちが安心できる環境」を整えることは、何よりも優先させたいことだと感じています。その子たちが安心して暮らすことができていたら、サポートが必要な子たちにとって、大切な心の支えとなる存在になるかもしれません。人間誰にでも、得意なことと苦手なことがあります。私は、できないこと・苦手なことが排除されてしまうような学級ではなく、お互いにカバーし、支え合えるような学級づくりを目指していきたいと思っています。


私は通常学級担任の立場から、竹澤先生は支援学級担任の立場からそれぞれの考えを書きましたが、今回も2人の考えにはたくさんの共通点がありました。2人の文には、それぞれ「個人の特性を認め合える集団」「お互いにカバーし、支え合える学級づくり」という言葉がありましたね。

「分かってもらえる」という安心感があり、そして「支えてあげたい」という思いやりを大切にできる集団を育てていきたいですね。

樋口綾香教諭

樋口 綾香

ひぐち・あやか。Instagramでは、@ayaya_tとして、♯折り紙で学級づくり、♯構造的板書、♯国語で学級経営などを発信。著書に、『子どもの気づきを引き出す! 国語授業の構造的板書』(学陽書房)ほか。編著・共著多数。

竹澤萌
たけざわ・めぐみ。11年目、支援学級担任(2022年現在)。栃木県で学年学級担任を10年間経験した後、結婚を機に大阪に転居。現在は樋口綾香先生と同じ学校で勤務中。Instagramでは、@mohepipipiとして、様々な実践を発信している。 

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