「包括的性教育」とは?【知っておきたい教育用語】
人権教育を基盤に、人間関係も含めた幅広い内容を学ぶ「包括的性教育」。その実現のためのポイントとされていることや、国際的に包括的性教育を提唱したユネスコのガイダンスについて解説します。
執筆/「みんなの教育技術」用語解説プロジェクトチーム
目次
「包括的性教育」とは?
2022年8月、日本財団の有識者会議は「包括的性教育の推進に関する提言書」を発表しました。その中で、「包括的性教育」は次のように定義されています。
●セクシュアリティの認知的、感情的、身体的、社会的側面について、カリキュラムをベースにした教育と学習のプロセス
『包括的性教育の推進に関する提言書』日本財団 性と妊娠にまつわる有識者会議
●以下の観点を重視した教育のこと
・人権をベースとした教育
・互いを尊重し、よりよい人間関係を築くことを目指す教育
・健康とウェルビーイング、尊厳を実現し、子どもや若者たちにエンパワーメントしうる知識、スキル、態度、価値観を身につけさせる教育
包括的性教育は人権をベースとし、「良好な状態」「心身ともに健康で、持続的に幸福な状態」という意味の「ウェルビーイング」の実現などの観点が重要とされています。
また、性教育とは生殖や性交についてだけではなく、人間関係を含む幅広い内容(性的同意、性の多様性、ジェンダー平等、コミュニケーションなど)を体系的に学ぶ教育であると示されました。
「はどめ規定の撤廃・見直し」は見送り
「包括的性教育の推進に関する提言書」では、包括的性教育を進めるための提言の一つとして、「はどめ規定の撤廃・見直し」が掲げられました。「はどめ規定」とは、中学校学習指導要領(保健体育)で、「妊娠や出産が可能となるような成熟が始まるという観点から、受精・妊娠を取り扱うものとし、妊娠の経過は取り扱わないものとする。」とし、性交については言及しないとするなどの措置を指します。
日本財団は、国際的なスタンダードなどを踏まえ、妊娠の過程(性交)を扱わないことは整合的ではないとしていました。しかし、2022年10月、文部科学省は「はどめ規定」の撤廃はしないと明言。個々の生徒間で発達の差異が大きいことなどを上げ、はどめ規定を含む現行の学習指導要領の下で適切な性教育が行われているとの認識を示しました。
ユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」
「包括的性教育の推進に関する提言書」は、ユネスコが中心となり提示した、世界の性教育の指針である「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(2009年に発表、2018年に第2版)をはじめとする国際的な流れを受け、発表されました。
「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」は、包括的性教育を提唱し、健康と福祉、人権の尊重、男女平等を促進することを目標としています。質の高い包括的性教育のために、次の8つのキーコンセプトが示されました。
1.関係性
2.価値観、権利、文化、セクシュアリティ
3.ジェンダーの理解
4.暴力と安全確保
5.健康と幸福のためのスキル
6.人間のからだと発達
7.セクシュアリティと性的行動
8.性と生殖に関する健康
また、それぞれのコンセプトについて、年齢で分けたグループごと(5~8歳/9~12歳/12~15歳/15~18歳)の学習目標が定められています。たとえば、キーコンセプト2‐2「人権とセクシュアリティ」について、9~12歳の学習のアイデアとしては「自分の権利を知ること、人権が国内法や国際協定にも定められていることを知るのは重要です。」とされ、15~18歳以上では「性と生殖に関する健康に影響を与える人権を知り、推進することが重要です。」とされるなど、成長過程に合わせた助言が記されています。
性教育においては、子どもの人権をベースにし、年齢に応じ継続的に、かつ扱う内容が科学的に正確であることが重要です。包括的性教育を進めることで、子ども自身が適切な知識を身につけ、孤立する状況を減らすことが期待できます。
▼参考資料
公益財団法人 日本財団 性と妊娠にまつわる有識者会議(PDF)「包括的性教育の推進に関する提言書」2022年
文部科学省(PDF)「【保健体育編】中学校学習指導要領(平成29年告示)解説」
SEXOLOGY製作委員会(ウェブサイト)「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」