人材を消費するような職場になっていませんか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #49】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第49回は、<人材を消費するような職場になっていませんか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

夢の職場は…

年間に少なくない数の先生方の相談にのっています。かつては、子どものこと、保護者のことがほとんどでした。しかし、近年多くなってきたのは職員室の話です。その内容も「耳を疑う」ようなものがあります。ある新採用教師の悩みを聞きました。最初から教職に就こうと思って大学に入ったわけではありませんが、大学で学ぶうちに、特に教育実習で教職のすばらしさに触れ教職を志しました。免許の関係で少し回り道をしましたが、努力を重ね、ある自治体に採用され、都市部の学校の小2の学級担任として憧れの教壇に立ちました。

コロナ禍の中で様々な制限がありましたが、それでも休校が明け、分散登校を経て子どもたち全員がそろったときの感動は1年間忘れることができなかったと言います。張り切る彼女の教室には、指導教員としてあるベテラン教師が常駐しました。そのベテラン教師は、本来ならある部署に配属されるはずだったのですが、人事異動がうまくいかず、新採用の指導教員となりました。その方にとっては「我慢の人事」だったのかもしれません。

それはある日、突然始まったと言います。彼女が授業をしていると、それまで腕組みをしていた指導教員が、「ああ、違うんだな」と小さな声で言いながら、黒板の前に立ち、発問や指示を始め、まるで彼女がそこに居ないかのように授業を始めました。所謂「授業のっとり」と言うのでしょうか。そうした行為は、それからも断続的に続きました。それでも彼女は、自分の力量が未熟だから仕方ないと思い、黙って耐えました。しかし、ある日の「授業のっとり」の後、授業を終えた際に、子どもたちの前で、指導教員はこう言いました。

「あなた、教師に向いていないから転職した方がいいよ。」
指導教員が教室を去ると、数人の子どもたちが彼女の側にやってきて、無邪気に
「先生、転職って何?」
と尋ねたそうです。流石にこれは堪えたようで、教頭に状況を伝え、相談したそうです。すると教頭は、
「あなたの授業が下手だから、仕方ないでしょ。それが嫌だったら、授業を上手くなりなさい。」
と取り付く島がありませんでした。

相談相手として学年主任も考えられますが、学年主任もまだ若く、普段の学年会でも事務連絡が主で、悩みを相談できる雰囲気ではなかったそうです。そもそも普段から学年主任は彼女に批判的な言動が多く、彼女が授業をしていると、後ろの入り口から教頭と指を指しながら、小馬鹿にするような笑いを浮かべる場面を見ていて、相談相手としては想定できなかったようです。

さらに彼女を追いつめるようなことが起こります。彼女の教科書が無くなりました。思いつく限りの場所を探しましたが、見つかりません。それを教頭に報告すると、いつものように「あなたが悪い」と叱られました。しかし、それは突然解決します。「なぜか」学年主任が持っていて「見つかった」と言って渡されたそうです。彼女は何が起こったのかよくわからないままでしたが、取りあえず、「見つかった」ので、また多忙な日常に飲み込まれていきます。

問題の構造

また、あるとき、彼女のクラスの子どもと専科の教師がトラブルになります。詳細を述べることは差し控えさせていただきますが、そのトラブルにまつわって双方の意見が食い違っていました。彼女は、担任として子どもの話を聞き、その話を教頭に報告すると、また叱られました。

「そういうことをすると〇〇先生(専科の教師)が悪いことになってしまう。そこは話を聞くのではなく、指導をすべき所だ。」とのことでした。彼女は、もう何がなんだかわからなくなった状態で、その子どもと話し、トラブルは「なかったこと」にしたそうです。彼女は、この話をしながら「その子を守れなかった」と涙を流していました。数か月経った今でも、「心の傷」となっているそうです。ひとしきり話を聞いた後、彼女に尋ねました。

「そんな状態なのに、なぜ、辞めようと思わなかったのですか?」
すると、

「中堅の先生方が話を聞いてくれました。」とのことでした。先輩たちが数名、彼女に声をかけてくれたそうです。普段の教頭や指導教員、学年主任など一部教師の彼女への接し方を見ていて心を痛めていたそうです。それで折に触れ、話を聞いたり、コロナ禍の状況ではありましたが、幾度となくご飯を食べに連れていってくれたりしたとのことでした。心が潰れそうになる度に、励まされたと言います。

なんだかここで話を終わらせると、奮闘する新採用と温かな先輩たちの話として片が付きそうですが、これを単なる「いい話」として終わらせていいのでしょうか。ここには校長が一切出てきません。それはなぜか。彼女は一度校長に相談したそうです。しかし、それが教頭の耳に入り、「そんなことで校長に相談するものではない」とかなり厳しい口調で叱られたそうです。それ以来、校長に相談できなくなったそうです。

彼女からの伝聞なので、内容は彼女の解釈です。しかし、新採用の教師にこのように認知させてしまう職員室とは一体何なのでしょうか。この話には、管理職のスクールマネジメント、人事異動、指導教員の適性、学年主任の資質・能力、若年化する職員室などなど、複数の問題が絡み合っています。意欲のある人材を消費するような教育現場であってはならないと思い、問題の共有という意味で事例を紹介しました。

『総合教育技術』2021年6/7月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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