意味を語っていますか? 目的を伝えていますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #45】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第45回は、<意味を語っていますか? 目的を伝えていますか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

GIGA構想に慌てる現場

新型コロナウイルス感染症による臨時休校措置によって整備が急ピッチで進む「GIGAスクール構想」ですが、思惑通りに動いている現場ばかりではないようです。そうしたことに意識と意欲の高い教師たちの中には「わが時代来たれり」とノリノリな方もいますが、その勢いに閉口気味の方々がいないわけではありません。あるベテラン教師は次のように言います。

「この忙しい時期に、毎週のようにGIGAスクール関連の研修が入ってきて、本当に困っている。必要性はわかるし、便利なのもわかるけど、今いろいろ言われても何も入って来ません。」

また、次のように言う中堅もいます。

「自分は、情報教育主任と児童会(特別活動)主任をやっています、つまり、デジタルとアナログに関する業務を一手に引き受けています。GIGAスクールの準備や自治体のオンライン環境の変更に関わりてんやわんやです。一方、行事も日程や規模の変更など例年以上に手間がかかります。新しいモノに変える動きでいっぱいいっぱいで、子どものことが後回しになっている現状があります。」

さらに、GIGAスクール関連の研修そのものに疑念を抱く教師もいます。

「先日、事務所の専門家が来てタブレット活用授業の話をしてくれましたが、正直、ピンと来ませんでした。子どもの意見の共有が簡単にできますよ、と言われても、普段の授業で子どもたちは意見を言い合っています。いちいち意見を入力して、画面をのぞき込んでなんてやっていたら、せっかく高まっていた学習への雰囲気や勢いが沈滞してしまいます。アナログでも十分にやれることを、いちいちタブレットを使ってやる必要があるのでしょうか。」

これらの先生方の思いの背景には、コロナ関連の対応によって、更に忙しくなった現場の実情があります。一学期に実施できなかった運動会、修学旅行や宿泊体験学習や研修を「後送り」にして二学期に実施している学校があります。二学期は、通常の状態でも忙しいのに、時期をずらした行事が入り込んできます。しかも行事をそのまま実施するのではなく、様々な変更が必要となります。規模縮小であろうとも計画は新たに作成することになります。先生方は土日の出勤は当たり前だそうです。その変更に関するアンケートも委員会から回答を求められ、辟易としていると言います。

前屋毅氏は、学校が再開された当時、聞き取り調査などから分散登校時における子どもたちの落ち着いた学校生活の様子を報告した上で、授業を再開した学校には、余裕のない日常が戻り、子どもたちの心の安定が失われてしまうと指摘しましたが※1、その通りの現実が起こっていると言えるでしょう。

今、管理職に本当に必要なこと

一方で、話をうかがった何人かの先生のうち、ごく少数でしたが次のような先生もいました。GIGAスクール関連だけでなく他の研修もやっていて忙しい日常を送っていましたが、その表情や声にはゆとりがありました。その理由を聞きました。

「余裕があると思ったことはありません。ただ、言われてみれば今年度は校長が早々と行事などを『やめる』と言いました。それが復活することもないので、授業の進度が間に合わないと思ったのですが、意外といつも通りというか、むしろ、例年より丁寧に指導できているかもしれません。」

この先生は、以前は校長をけっして評価していませんでした。むしろ「タイヘンな人が異動して来た」と言っていました。その評価は、今でも大きく変わってはいませんが、感じ方は少し変わったようです。最初に職員に伝えた方針は今も変えてはいません。そこをきっかけに、校長に対する強い感情が少し緩和されたようでした。

さて、私が本稿でお伝えしたいのは「だったら、行事をやめましょう」という話ではありません。大企業からベンチャー企業まで継続的に成長する企業経営のアドバイスを行っている池本克之氏は、本当に必要なこととして「リーダーは、チームのメンバーの『なんのために自分たちは働いているのか?』という質問に明確な答えを用意しておく必要がある」と言います※2

先生方のお話を聞いて強く思うのは、先生方は「やらされている」感でいっぱいになっているということです。人は、価値(意味)と期待(方法、見通し)の自覚の度合いによって、努力の程度を決めるということを本連載でも何度も言ってきました。つまり、「価値×期待」の積が高まったときに、その対象に対して努力します。例えば、GIGAスクール構想の準備では、幾多の研修で「方法」は、なんとなくわかってきているようです。しかし、なかなかその意味が理解されていないように思います。

意志決定層に近い方々は、令和元年(2019年)12月の文部科学大臣の言葉にあるように、ICT環境の整備は手段であり、目的ではないことを理解されているはずです。しかし、それが地方自治体、そして学校レベルに降りてくると、次第に手段が目的化してくることは、その他の領域でも見られていることです。先生方は「モノ」ではありません。何らかの行動を求めるなら、その意味をリーダーがしっかりと自分の言葉で語るべきだろうと思います。GIGAスクール構想は、わが国の子どもたちの学び方を変換する大いなるプロジェクトの第一歩なのです。先ほどの「タイヘンな校長」は、行事をスパッと止めることで、先生方に子どもと向き合う時間と日々の教育活動の意味を考える時間をほんの少し与えたのかもしれません。

※1 前屋毅「分散登校で分かった、再開後の学校に待ち構える深刻な問題」Yahoo! JAPANニュース、2020年6月2日(火)(2020年11月16日閲覧)
※2 池本克之著『今いる仲間で「最強のチーム」をつくる 自ら成長する組織に変わる「チームシップ」の高め方』(日本実業出版社、2014)

『総合教育技術』2021年1月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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