職員へのソーシャルサポートの提供に配慮していますか【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #44】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第44回は、<職員へのソーシャルサポートの提供に配慮していますか>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

夏休み明けに不調を訴える教師

ある自治体の指導主事がこんな話をしていました。

「その管轄では、8月下旬くらいから病休に入る教師が増えています。事情は様々でありながら、独身の若手教師が目立ちます。その理由は、職場の人間関係や、児童生徒への指導がうまくいかないとか、保護者との関係が悪化しているなどではなく、行事の準備や、部活の延期などに伴う家庭への連絡など複数の業務にまたがっていて、特定の理由が見当たりません。なんとなく勤労意欲が低下しているようです。日頃の小さな困難がいくつも積み重なり、堅く大きな壁となっているのかもしれません。一方で、相談できる人が少なめで、責任感の強い先生方の前に立ちはだかっているように見えます。感じるのは『この先どうなるのか不安』という気持ちでいっぱいになっておられることです。休まれてからのご様子を管理職の先生に伺うと、自分の代わりの講師が任用されているかどうか心配なさっているとのことでした。」

5、6年遡っても、夏休み明けの時期に、休職が頻発している例はないそうです。「今年度(2020年度)特有の事情があるとすると、何だと思いますか?」とお尋ねしたら、「休校措置を始めとする勤務形態の変化、短い夏休みによるリフレッシュ不足、感染症対策によるコミュニケーションの制限などではないでしょうか」とのお答えでした。

みなさんの職場はいかがでしょうか。こうした事態を予測していたわけではありませんが、今年5月のゴールデンウィーク中に、全国の教諭職の先生方にGoogleフォームを使って、アンケートを取りました。「今、あなた自身のメンタルヘルスのために、あなたが取り組んでいることは何ですか」とお聞きすると、運動や散歩、趣味、家族と過ごしたり連絡を取ったりする、同僚とコミュニケーションを取るなど、何らかのストレスケアを心掛けている方々は、8割くらいいましたが、「なし」と答えたり、はっきりとした手立てを持っていない方々が2割くらいいました。

続いて、「職員のメンタルヘルスのために、職員みんなで取り組んでいることはありますか?」と尋ねてみました。すると、「なし」と答えた方が67%でした。

■職員のメンタルヘルスのために、職員みんなで取り組んでいることはありますか?

今や学校現場は、ストレスのデパートと言っていいくらい多様なストレスに溢れています。しかし、その割には、メンタルヘルス対策が疎かになっているのではないでしょうか。その傾向は、学校だけではありません。厚生労働省の平成30年労働安全衛生調査(実態調査)によると、メンタルヘルスに取り組んでいる事業所は、59.2%でした。取り組んでいる内容の上位を見ると、①「ストレスの状況などについて調査票を用いて調査」が62.9%、②「メンタルヘルス対策に関する労働者への教育研修・情報提供」56.3%、③「メンタルヘルス対策に関する事業所内での相談体制の整備」が42.5%でした。

先生方にお聞きすると①も②も③もあまりなされていないようです。

ストレス下の職員室に必要なもの

学校は今、休校措置によって失われた時数を取り返すべく、とにかく学習内容を終わらせようとしたり、縮小や分散をしたりして行事をやり遂げようとしています。取り組める時間が減ったにもかかわらず、業務内容のスリム化はできていないようです。こうした状況で、職場のストレスケアも職員のコミュニケーション等による癒やしの時間もないようでは、心を病む職員が出ても無理もないことだと思います。

厚生労働省は、ストレスケアの役割を担うものの一つとして、ソーシャルサポートを挙げます。ソーシャルサポートとは、「社会的関係の中でやりとりされる支援」のことで「健康行動の維持やストレッサーの影響を緩和する働き」があるとしています。その機能は、主に4つあります。

情緒的サポート:共感や愛情の提供、(例)相談にのる、愚痴を聞く、励ます。
道具的サポート:形のある物やサービスの提供、(例)金銭や、必要なものを貸したり、直接力を貸したりする。
情報的サポート:必要なアドバイスや情報の提供、(例)問題解決のために、情報や知識を与える。
評価的サポート:肯定的な評価の提供、(例)良いか悪いか、適切か不適切かを判断し主に肯定的フィードバックをする。

先述した厚生労働省の調査によると、「ストレスを相談できる相手」として、77.5%の方が「上司・同僚」、79.6%の方が「家族・友人」を挙げています。ストレスケアに、上司や同僚の存在は大きいようです。ましてや、家族と離れて暮らしていたり、友人が少なかったり地域にいなかったりした場合は、上司や同僚の役割は極めて重要になるでしょう。普段なら、情報提供や相談は、職員室の雑談や食事会、飲み会でなされていることでしょうが、今年度はめっきり減っているようです。

コロナによって危機にさらされているのは、子どもたちばかりではありません。先生方、特に若年層の先生方のストレスケアが心配です。普段より細やかな声かけをしたり、先生方のふれあいの機会の優先順位を上げて確保したりしていくことが今、大事なのではないでしょうか。

『総合教育技術』2020年12月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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