目に見えないリスクを見ようとしていますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #41】

連載
赤坂真二の「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第41回は、<目に見えないリスクを見ようとしていますか?>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

コロナ禍の新採用教師

今年度(2020年度)は、新採用の先生方にとって正に波乱のスタートとなったことでしょう。休校からの分散登校など、「こんなはずではなかった」ことの連続だったのではないでしょうか。しかし、実施前は批判の多かった分散登校ですが、多忙を極めていた職員室に、ゆとりの時間を生み出したようです。近年、実施されていなかった職員レクリエーションが復活されたり、お菓子作りが趣味の先生が手作りケーキを振る舞ったり、昼休みにランチ会が開かれたりしたようです。ある先生は、「こんなにゆったりした時間を過ごすのは、教師になって初めてだ」と嬉しそうに話していました。

しかし、通常登校が再開してからは、多くの方々が現在体験している通りの状況です。新採用の先生方からすれば、突然の大波に襲われているような感覚なのではないでしょうか。

また、戸惑っているのは先生たちだけではありません。通常時ならいざ知らず、このコロナ禍では、子どもたちも相当にストレスを受けています。感染予防対策でかかわりを絶たれた子どもたちの要求は、全部担任に向かいます。それらを受け止める一方で、授業の進度や時数確保のプレッシャーを感じながら慣れない消毒作業等の感染予防で増えた業務、そして、何よりも「マスクをしなさい」「もう少し離れましょう」などの子どもたちへの注意や声かけもしなくてはなりません。こうした現実が、これまでのパンク状態の業務に加わったわけです。知り合いのベテラン教師に話を聞いていても、愚痴やため息しか聞こえてきません。新採用の先生方なら、なおさらなのではないでしょうか。

そんな中、ある新採用の先生から7月の頭くらいから相談を受けるようになりました。最初の頃は、子どもたちがかわいくて、毎日が楽しいと感じていましたが、やがて数人が逸脱行動をするようになり、次第にクラス全体が落ち着かなくなったと言います。それでも助言をするとすぐに自分の弱点や上手くいっていないところに気づき、「はい、さっそくやってみます」と力強く言っていました。しかし、しばらくすると、「全校で私のクラスを見守ることになりました」と元気のないメールが来ました。「全校で見守る」と言うと聞こえはいいですが、要するに、空き時間の先生が、入れ替わりサポートに入ることになったということです。「自分の力がないのだからそれは仕方ない」と事実を受け入れようとしていましたが、今ひとつ彼女が納得できないのは、自分に何の相談もなく、決められたことでした。「ひと言欲しかった」と悔しさをにじませました。これは、組織としては仕方のないことでしょうか。納得を得るとまではいかないまでも、ひと言かけられなかったのでしょうか。

「荒れ」の要因としての管理職

学級崩壊には、次のような事例も近年は起こるようになりました。

2、3年前の話です。事例の舞台は、小学校5年生のクラス、担任は40代の女性です。学級経営が怪しくなり始めた頃に、教頭先生(50代女性)が入ってきて、突然クラスの担任と一緒に黒板の前に立ち、「あなたたち、先生に不満があるから色々な悪いことをしているんでしょう? 今日は特別です。担任の先生への不満を全部お話ししてください!」と、全員に担任に対する不平や不満を言わせました。

この一件以来、自分たちの行動に対して免罪符を得たかのように、子どもたちは「俺たちではなく、担任が悪い」と言い、さらに荒れをエスカレートさせました。

追いつめられた担任を更に苦しめたのが職員室の雰囲気でした。2学期からは、教頭の指示で空き時間の担任たちがそのクラスに1時間だけ教科担任のように入ることになりました。担任が望んだことではないのに、他の担任から「私の空き時間があなたのせいでなくなった」、「あんなひどいクラスに入れられてつらい」というクレームを受けるようになりました。それでも担任は、年度が変わるまで耐え続け、異動しました。その先生は異動先では担任は持たず、少人数指導の担当となりました。その後、その教頭は、別の小学校の校長に昇任したと言います。

国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センター「学級運営等の在り方についての調査研究」報告書(平成17年3月)によると、学級経営や生徒指導における諸問題の要因や背景を次のように整理しています。

ア「学級がうまく機能しない状況」をもたらす背景
 ①学級担任の状況、学校の状況
 ②子どもの生活、人間関係の変化
 ③家庭・地域社会の教育力の低下
 ④現代社会の問題状況と教育課題
イ「学級がうまく機能しない状況」の直接的な要因
 ①子どもの集団生活や人間関係の未熟さの問題
 ②特別な教育的配慮や支援を必要とする子どもへの対応の問題
 ③学級担任の指導力不足の問題

とありますが、近年における学級の荒れには、どうも管理職のマネジメントの問題や職場風土もその要因として挙げられるのではないでしょうか。

コロナ禍の状況では、不安やストレスという目に見えないリスク要因が学校を取り巻いています。管理職の皆様も、前例のない事態に、日々ご苦労なさっているとは思いますが、事態の収束を優先するがあまり、職員の感情への配慮が後回しになってしまうことがあってはならないのではないでしょうか。組織の基盤は、人なのですから。

『総合教育技術』2020年9月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。


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