「昔のヒーロー」いますか?【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #27】
多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第27回は、<「昔のヒーロー」いますか?>です。
執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二
目次
「動かないベテラン」の問題
ある中学校区の研修会にお邪魔したとき、会場校の校長室の扉を開けると、その区の校長先生方4人が額を突き合わせて何やら話をしていました。中学校区で足並みを揃え、あるプロジェクトに取り組んでいきたいと思っておられたらしいのですが、それぞれの学校で「ベテランたちがどう言うか」を気にしていらっしゃいました。新しいことを提案するとベテランに反対されるというのです。
また、ある指導主事から聞いた話です。ある中学校に教育委員会としての施策を説明しに行くと、説明の途中で「それをやる意味があるのか」と声高に言う50代の男性教員がいて、雰囲気が重くなり、終始「針のむしろ」状態だったそうです。その先生の虫の居所が悪かっただけかもしれませんが、指導主事も大変だったろうと思います。
「チーム学校」の実現に、現実的な高いハードルとして存在するものには、取り組みにブレーキをかけようとするベテラン層の教員の問題があります。彼らは「動かないベテラン」などと呼ばれ、校内外で「文句は言うけど仕事はしない」と囁かれていたりすることがあります。
講演会等で腕組みをしてふんぞり返っている若手がいないわけではありません。しかし、そうした態度をし、着席するなり眠りに落ちる方々は、数で言えば、ベテラン層に多く見受けられます。ベテラン層は善くも悪くも存在感があり、場の空気に強い影響力をもちます。校長先生方や指導主事が悩むのも無理はないように思います。
「動かないベテラン」といっていいかわかりませんが、初任者指導にベテラン層の先生方があたることがあります。これもまた悩ましい問題を抱えているようです。授業や学級経営、生徒指導について指導する時に、つい自分の経験則だけで「~の時は、~すればいい」といった指導をしてしまいがちです。個人の事例的な成功例を、一般的な法則のように伝えてしまうのです。それが、指導される側の初任者の力量や子どもたちの実態にフィットしていればいいのですが、そうはなかなかいかないようです。
指導するベテランが50代後半だったり、再任用の先生方だったりすると、彼らが教師として旬だった時期は今から約20年以上前です。まだ学級崩壊の問題やクレーマーと呼ばれるような保護者の問題などがそれほど顕在化していない頃です。そうした時期に培われた成功体験や技術的なものをそのまま、現在の教室に適用せよと言っても少し無理があるのではないでしょうか。
その状態を、教員養成や学級経営において複数の著書を持つ山田洋一氏は、「土鍋にパエリア状態」と言いました(平成31年3月9日、第1回日本学級経営学会シンポジウムにて)。つまり、器と料理のミスマッチです。器とは学級の状態や教師の力量、そして、料理とはそこで行われる教育活動やそれに伴う技術的要因のことを意味しています。誤解していただきたくないのは、そうしたベテラン層の方々の成功体験や技術が、価値がないとか役に立たないとか言っているのではないのです。「そのままでは使えない」ことがあると言っているのです。
「昔のヒーロー」はもうヒーローではないのか
失敗すれば、指導する先生からお小言をもらうこともあるだろうし、指導される方も自分を責めて自信を失うこととなるでしょう。こうやって述べると一方的に若手の先生方がベテランに「やり込められている」ように思われますが、今の若手だってただやられているわけではありません。若手教師の悩みを聞いていると、相当にいろいろなことを思っています。
ベテランに対して「やる気がない」「自分の考えに固執してこちらの考えを受け入れようとしない」「新しい方針が決まったのにやろうとしない」「子どもたちのことよりも自分たちのことばかり考えている」などなどの言葉が聞かれます。今の若手たちは、そうしたベテランたちの姿を割と冷静に見つめ、また、そこで生まれた思いを個人内に秘めるのではなく、SNSなどで発信し、共有しているわけです。SNSでは一定数の味方がいますので、「そうだよね~」「わかる~」「うちにもそういうベテランいるいる」と共感してもらえます。こうなってくると現実に「折り合いをつける」とか「歩み寄る」というよりも「諦める」とか「見切りをつける」といったベクトルに流れがちで、ますます、ベテランの言葉が入っていかなくなることでしょう。
では、ベテランはどうしてこのような状態になってしまうのでしょうか。松尾睦氏は、企業人の中堅や熟達者の成長が止まる要因として次のことを指摘しています。
「一つの理由は、知識が固定してしまうことです。人は経験を通して、問題を発見するための知識やスキルを習得しますが、こうしたノウハウが一度できあがってしまうと、そこの新たな知識を肉付けすることはできても、不必要となった部分を捨てたり、ノウハウを作り替えることが難しくなります※1」
松尾氏は、営業教育に関わっているマネージャーの言葉を引用してこうしたベテランを「昔のヒーロー」と呼んでいます※2。これは教職にもあてはまることでしょう。若手の教師が激増する昨今、ベテラン層の教育力に期待したいところですが、ベテラン層の協力がなかなか得られない現場もあるようです。
「昔のヒーロー」の優れた力は本当に過去のものであって、復活はしないのでしょうか。次回では復活の可能性を探りたいと思います。
※1 松尾睦『職場が生きる 人が育つ「経験学習」入門』ダイヤモンド社、2011
※2 前掲※1
『総合教育技術』2019年6月号より
赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。