そこに「愛はあるんか」 「チーム学校」への挑戦 #18

連載
【連載】「チーム学校」への挑戦 ~学校の組織力と教育力を高めるリーダーシップ~

上越教育大学教職大学院教授

赤坂真二

多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生がさまざまな視点から論じます。
第18回は、<そこに「愛はあるんか」>です。

執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二

あるテレビCMから

ビシッと和服を決めた元宝塚の女優さんが、お笑い芸人扮する板前らしき職人にこう言います。

「あんた、ひとつ聞いていいか。そこに、愛はあるんか」

女優さんの凜々しい姿と語り口が印象的なCMですが、各地の先生方と話していて「校長先生、ひとつ聞いていいでしょうか。そこに愛はあるのでしょうか」と尋ねたくなることがあります。

先日のことです。ある中堅の先生(小学校6年生担任、女性)が授業中に隣の主任のクラスが騒がしいことに気付きました。自分のクラスには自習するよう指示して、すぐに隣を見に行きました。すると興奮した男子児童が暴れていて、担任である主任がそれを制止しようとしていました。男子児童は、隣のクラスから彼女が来たことに気付くと、近くにあったモノを投げつけました。運悪く、それが彼女の右目に命中してしまったのです。強い痛みを感じたので、彼女はすぐに眼科に行きました。「眼球の打撲」と診断を受け、眼帯をして、また職場に帰ってきました。

それを見た校長は、「名誉の負傷だな」と言ったそうです。何の「名誉」なのでしょうか。「労ったつもり」なのでしょうか。その後、学校側、当該の児童や保護者からそのことについて謝罪があったわけではなく、彼女は「泣き寝入り」の状態です。幸いにして、視力にも別状はなく眼帯も取れました。しかし、それは「幸いにして」です。彼女にとって痛かったのは目よりも心だったことでしょう。「学校は守ってくれない」と認識したそうです。

彼女がもし法的措置に出て、当該の児童や保護者を訴えたらどうなったのでしょうか。また、そのことを教育委員会に直接訴えたらどうなったのでしょうか。「名誉の負傷だな」なんて呑気なことを言っていられるのでしょうか。

そのクラスは、その後も「荒れた」ままです。学校体制でそのクラスの荒れを解消しようとか、支援していこうという動きは起こっていないとのことです。今も相変わらず、主任と彼女で、「何とかしなくてはならない」日々が続いています。

こういう話をすると、「訴えるべきだ」と正論を振りかざそうとする人がいます。できるものならしていることでしょう。公立学校の一教諭が、児童と保護者を訴えたらどうなるでしょうか。ごく一部からは「よくぞ立ち上がった」と賞賛されるかもしれませんが、恐らく、これからどこに異動しても「児童を訴えた」経歴を纏って仕事をしていくことになります。小さな落ち度を見つけ、みんなで寄って集って叩く文化を肥大させてしまったこの国で、普通の人が長くそれに耐えることはほぼ無理です。

批判をするのが外部の人たちなら、まだわかります。しかし、中には身内であるはずの教育関係者がいたりすることがあります。状況をよく知りもしないで、「不用意に近づくからだ」、「まず、他の職員を呼ぶべきだ」、「プロとしてスキルがなさすぎる」みたいなことを言うわけです。相手が子どもであろうと目の前で暴力を振るう人がいたら、止めようと思うのが通常の市民感情ではないでしょうか。

もし、これがコンビニの店員さんだったらどうなのでしょうか。レジの対応が遅いとお客が店員を殴ったら。デパートの店員の対応が気に入らないからと店員にものを投げつけたら。レストランで食事が口に合わないからとシェフを罵倒し、お金を払わず帰ったら。こうしたことが起こっても全てが訴訟になるとは限りませんが、被害者側が何らかの行動に出た場合は、加害者側は過失を問われることになるでしょう。

しかし、教育現場で訴えを起こすことは被害者側にリスクが大きすぎます。したがって、法的に訴えるなんてことは辞職でも覚悟しない限りできません。社会では到底許されないことが、教育現場で被害者が教師である場合は許され、傷付いているにもかかわらず、そうした大前提がどこかに吹っ飛んで、「キレイゴト」が優先されてしまう体質があるように思います。

職場にあたたかさがあるのか

厚生労働省によると、都道府県労働局等に設置した総合労働相談コーナーに寄せられる「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は年々増加し、平成24年度には相談内容の中でトップとなり、引き続き増加傾向にあると言います。これは、いわゆるパワハラの増加を意味しています。同調査によれば、平成18年に2万2153件だったパワハラが、平成28年には、7万917件になっており、10年間で3倍以上になっています。教育問題を扱っているジャーナリスト、前屋毅氏は独自の取材を元に「こうした現状は、学校も例外ではない」と言います※1

圧倒的多数の読者の皆さんやその職場にはあてはまらないことを前提に、どうも見逃すことができないことが起こっているようなので敢えて述べます。パワハラ増加の背景には、職員室の信頼関係が損なわれていることがあるのではないでしょうか。職員が職務遂行中に怪我を負っているのに、きちんとケアがなされない。それを他の職員も見ている。これでは、職員室の信頼関係が育まれることは難しいでしょう。今の学校現場は大変忙しい、だから余計なことを抱え込みたくないのはわかります。しかし、職場は職員がつくっているのです。

「仕事の成功は関係性にあり」ということは、本連載でずっとお伝えしてきたことです。職場に大事にされない職員が子どもや保護者を大事することはないでしょう。「職場に愛はあるのか」、時々振り返ってみる必要があるのではないでしょうか。

※1 前屋毅著『教育現場の7大問題』( KKベストセラーズ、2018年)

『総合教育技術』2018年9月号より


赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書)など著書多数。


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