元気になる仕組みをもっていますか【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #14】
多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第14回は、<元気になる仕組みをもっていますか>です。
執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二
目次
働き方改革と研修
これからの学校改善を考えるときに「働き方改革」は必須の項目になると思っています。先生方お一人お一人はとても優秀で、しかもがんばっておられます。年間、数多くの学校(昨年度は、32校)にお邪魔させていただいていますが、そのがんばりが「生き生き」としているものならば誠に喜ばしいことですが、「へとへと」という言葉がピッタリなのです。これでは、何かよさそうな情報を聞いたとしても、「始めよう」という気になりません。
以前、私のところに学びに来ていた現職院生が言っていました。その方はクラスの気になる子への対応に苦慮していました。そして、自ら求めた場合もありましたが、周囲のすすめでいろいろな研修会に出たそうです。しかし、だんだんと状況が進行してくると毎日の対応に疲労困憊し、「知っていてもやれない」状況になったそうです。そして、やがて「私には無理」となって、改善のための手を打とうとすることすらしなくなったと言います。こうした状況では、自らを高めるための研修が、負担となって自らを苦しめる時間になってしまいます。
校内研修にお邪魔させていただいたときには、先生方の負担加重にならないかを気をつけています。ある中学校に招聘されたときのことです。教育委員会名義で任命される学校力向上のアドバイザーとしてです。生徒指導上の問題がよく起こるので、それをなんとかしたいというのがご依頼の趣旨でした。私が書籍や研修会でよく紹介する具体的な方法論をご指名してくださったので、ありがたいなと思って、それなりに準備して研修に臨みました。しかし、学校に着いて校長先生からお話を伺ってみると、その学校は、かなり生徒指導に有効な複数の方法論に取り組んでいました。それもなんとなく先生方がバラバラにやっているというレベルではなく、しっかりと時間を確保した上で実践していました。それを聞きながら、このまま研修をしても、先生方が大変になるだけだと思いました。研修は、本来的には、子どもたちにその利益が還元されるものだと思います。しかし、先生方が方法論に振り回され、子どもたちと向き合う時間がなかったらデメリットが大きいだけではないでしょうか。有効な手を打っていないならまだしも、それなりのことをやっていながら、結果が出ていないのならば、新しいことはやるべきではないし、もし、始めるならば、今やっている何かを止めるべきでしょう。そこで、研修の場では、開口一番、こう言いました。
「今日は、ご要望の方法論をもってきました。ご依頼ですから、必要なお話はさせていただきます。しかし、大変だと思ったら実践することをおすすめしません。話をお聞きになって、有効だと思ったら取り入れてください。なぜなら、先生方が現在取り組まれている方法はとても有効だと思います。それを結果が出るまでやってみる方が大事だと思います」
その後、この学校の取り組みを意味付け、残った時間で自分のすすめる方法論の話をさせていただきました。最初、重苦しそうだった先生方の表情がみるみる明るくなっていったのを覚えています。
問題解決の3つの原則
問題解決法の一つにソリューション・フォーカスがあります。1980年代に始まった比較的新しいアプローチです。心理療法の分野で成果を上げたため、その後は様々な分野、ビジネス、教育、チームマネジメント、組織開発などに応用されています。そのソリューション・フォーカスには、「3つの原則」があります。それは次のようなものです※1。
①壊れていないなら、修復するな(うまくいっていることを変更するな)
②一度やってうまくいったなら、それをせよ
③うまくいっていないのであれば、何か違うことをせよ
「うまくいっていたらそれを続けよう、そうでなかったらそれを変えよう」という実に当たり前のことです。しかし、学校現場では、その当たり前がなされないことがあるようです。
この学校の場合、取り組みを始めてからまだ1年くらいでした。そして、しっかりと成果確認をしていないようでした。だから、うまくいっているのか、うまくいっていないのかすら、ハッキリしていない状況でした。しかし、それによって何か大きな問題は起こっていないようでした。取り組みを始めたばかりで、成果確認をしないで、新しいことを始めるのは、もったいないというか、実に効率の悪い戦略だと思いました。いや、成果確認をしていないのだから、戦略にもなり得ていないわけです。
しかし、この学校が、特別に効果的ではないやり方をしているわけではないと思います。取り組みの成果確認をしっかりとやっていないケースは少なくないのではないでしょうか。ある取り組みをしたら、一定期間の後に、それがうまくいっているのかいっていないのか評価する必要があります。うまくいっているのは、何なのか。それが、ほんの僅かでも例外的でも、うまくいっているところを探し出します。そして、それが起こったのはなぜかを見出します。さらに、それを反復できる方法を探します。
成果を確認せずに新しいことを始めていると先生方が疲弊します。先生方が疲弊したら子どもたちのやる気どころの話ではありません。これからの学校は、先生方が元気になる仕組みをもつべきではないでしょうか。
※1 橋本文隆『問題解決力を高めるソリューション・フォーカス入門 解決志向のコミュニケーション心理学』PHP研究所、2008
『総合教育技術』2018年5月号より
赤坂真二(あかさか・しんじ)
上越教育大学教職大学院教授
新潟県生まれ。19年間の小学校での学級担任を経て2008年4月より現職。現職教員や大学院生の指導を行う一方で、学校や自治体の教育改善のアドバイザーとして活動中。『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』(明治図書出版)など著書多数。