スピーチ力は「相手に伝えること」【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #11】
教師と子ども、子ども同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第11回「コミュニケーション科」の授業は、<スピーチ力は「相手に伝えること」>です。
スピーチ力
目次
「型→自由→型→」な発言指導の繰り返しでスピーチ力をアップ
「議論とスピーチは別物」ととらえている教師が少なくありません。「結論─根拠」を述べる議論に対し、スピーチは、「事実と意見」を述べるものです。話す内容が違うので別物だととらえているのかもしれません。
とはいえ、実際に発表するときには、両者とも説明的な文章の構成になります。ディベートも自己紹介もほめ言葉のシャワーも、根底になるのはスピーチ力です。さらにいえば、対話や会話、トークもスピーチ力が必要になります。
スピーチの指導では、まず「型」を身につけさせることが大切です。
スピーチの基本型は、(したこと、見たこと=事実)+(思ったことや気持ち=意見)を話すことです。「事実+意見(1文+1文)」を基本であると意識させながら話すように促します。
挨拶 「よろしくお願いします」
〈はじめ〉 主張
〈なか〉 事実
〈まとめ〉 意見
挨拶 「ありがとうございました」
拍手
だんだんスピーチに慣れてくると安心感が増し、型にはまらない自由な発言が出てくるようになります。そこで、次のステップとして、自由にスピーチをさせます。自由な発言に慣れてきたら、再び型に戻ります。事実を3つ入れる→自由→事実3つ+意見2つ入れる、というように繰り返しながら、ステップアップしていきます。
教師は、子どもが発表するたびに、今のスピーチや聞いていた子どもたちのよかったところをほめ、価値づけるようにしましょう。その際、スピーチそのものだけでなく、身振り手振りや間のとり方など、非言語の部分も取り上げることが重要です。非言語の部分は、言葉だけで説明してもなかなか子どもたちには伝わりません。今、発表した具体例を交えて説明することで、子どもたちも理解しやすくなるはずです。
教師が価値づけることで、「具体例を挙げると伝わりやすいんだな」「笑顔でうなずくと、発表している人もうれしくなるんだな」と子どもたちは実感できます。そして他の子のスピーチのいいところを取り入れようとし、学級全体のスピーチ力が上がることにつながっていきます。
スピーチ力は、経験を積み重ねなければ伸びません。ぜひ、スピーチの楽しさを子どもたちに味わわせてください。
教師は、話し手と聞き手をつなぐことを意識して
子どもたちにスピーチをさせると、「~です。なぜなら~だからです」と全員そろって同じような発表が多いことに気づかされます。子ども自身、構成や内容、相手を意識せずに、ただ授業で習ったとおりに話しているだけです。
スピーチの授業を参観すると、「もっと大きな声で話しましょう」「相手の目を見て話しましょう」と、声の大きさ(実際の場面では、緊張して小さいことが多い)や目線ばかり気にかけ、指導している教師が少なくありません。しかし、声の大きさは、一度説明したからといってすぐにできるものではありません。「ちゃんと大きい声で話しましょう」「背筋を伸ばして姿勢正しく話しましょう」と抽象的な指導をしても、子どもたちはつかみにくいのです。
声の大きさや正しい姿勢よりも、「相手に伝える」ことを意識させる。スピーチで最も大切なのは、「相手に伝える」ことです。相手を意識することで、初めてふさわしい態度やその場にあわせた声が出せるのです。
そのためにはまず、話すことより聞くことに注目しましょう。相手が話しているときは静かに聞く、話し手の方に顔を向ける、スピーチが終わったら大きく拍手する、という「聞き方」に取り組ませます。特に拍手は耳から入るので、話し手は緊張がほぐれ、聞き手が受け止めてくれたことを実感できます。
その際、教師は話し手と聞き手をつなぐことを意識しましょう。話し手から離れている聞き手のところに行って、聞き手の子の肩に手を置きながら、「ここまで聞こえるように話してね」と声をかけます。具体的な指示をすることで、話し手はどれぐらいの大きさの声で話せばいいか意識することができるし、聞き手も「しっかり聞こう!」という気持ちになれます。教師の言葉がけが、話し手と聞き手の関係をつなぐことになります。
スピーチは、大人でも緊張するものです。ましてや、スピーチに慣れていない子どもにとっては、なおさら不安を感じています。教師は、「型どおりにスピーチできていたか」を“監視”するのではなく、子どものドキドキ感に寄り添ってあげたいものです。
コミュニケーションは、相手やテーマ、場所によって、その都度変わります。ただ一つの正解があるわけではありません。スピーチも同様です。基本の型を知るだけでは、実戦力になりません。「自分の気持ちを相手に伝えたい」「他の子の意見を聞いてみたい」という経験を積み重ねることで、初めて自分の力になるのです。
コミュニケーション力は、つながり合う・学び合う・ともに成長する、というつながりあってこそ伸びる力なのです。
実践! 「コミュニケーション科」の授業
「3つあります」の話型で、スピーチを楽しむ
スピーチ力
<高知県いの町立伊野小学校5年2組>
スピーチの達人になろう!
●学級ディベート=メリット・主張+理由
●ほめ言葉のシャワー=事実+気持ち
菊池先生が黒板に大きく書き、「ほめ言葉のシャワー」に取り組んでいる5年2組の子どもたちに向かって、「ほめ言葉のシャワー=スピーチです。今日はスピーチの達人になりましょう」と続けると、子どもたちが期待いっぱいの表情になった。
「『スピーチ』を漢字とひらがなで表してみましょう」
菊池先生が問いかけると、子どもたちは思い思いに考え始めた。
●意見を言う
●主張する
●言いたいことをわかりやすく伝える
●構成を自分で考える
菊池先生は、「そうですね。先生は、『人前でひとまとまりの話を筋道立てて話すこと』ととらえています」と話した。
まずは「事実」を3つ考えるトレーニングとして、「梅干し」を例題に挙げた。
梅干しについて思いついた事実3つを挙げ、4人のグループで出し合い、いくつ挙げられたのか数を競った。
次は「伊野小のいいところ」。「梅干し」より抽象度が上がり、一人ひとり違う意見が出てくる例題だ。
さっそくグループで意見を出し合う。
エアコンが教室に2台ある/温水プールがある/音楽室の楽器が揃っている、など建て替えられたばかりのきれいな校舎を挙げる子もいれば、いい人がいっぱいいる/みんなルールを守る/話し合って聞くことができる、など人について挙げる子も。3分ほどの間に、意見を30個出したグループもあった。
「伊野小のいいところ」を3つ挙げよう
「それでは、今から『伊野小のいいところ』についてスピーチをしてもらいます」と菊池先生が話しかけた。グループで話し合った意見の中から3つ選び、1分間で発表し合うもので、菊池先生がスピーチの話型を黒板に書いた。
〈はじめ〉 主張
伊野小のいいところを3つ挙げます
〈なか〉 事実
1つめは……
2つめは……
3つめは……
〈まとめ〉 考え
気持ちを話す
「今日の授業では、3つ事実を出すところを勉強しましょう」と菊池先生が話すと、子どもたちはさっと真剣な表情に変わった。
グループごとにスピーチが始まった。
「伊野小のいいところを3つ挙げます。1つめは、みんなすぐに教えてくれること、2つめは、悪いことを言ってもすぐに謝れること、3つめは、一人がいないということです。これが伊野小のいいところです」
サラッと終わってしまい、残り時間を持て余す子が何人も。すると、菊池先生が「いいところを挙げるときに、詳しい説明を少しずつ入れていけば、1分間途切れずに話すことができます」とアドバイス。黒板に書いた「スピーチの達人になろう」に続けて「→(内容+声+表情・態度)」と書き加え、スピーチの型の一まとまりごとにレ点を入れた。
「このレ点は『間』といって、少し時間を空けるところです。『みんな聞いているかな?』『伝わったかな?』と確認するところです。『話術はマ術』という言葉があるくらい、スピーチでは大切なんですよ」と話した。
菊池先生のアドバイスを受けて、グループごとのスピーチが再スタートした。
「1つめは、エアコンが2つあることです。夏は暑くて、温暖化には耐えられない。2つあれば、授業に集中できます。2つめはプールが室内にあって温水シャワーがあることです。室内プールなので、一年中いつでもプールに入ることができます。3つめは廊下が広いことです。広いのでゆったり歩けます」
1分間をフルに使い、満足げにスピーチをした子に、他の子たちから大きな拍手が起こった。
「緊張して、最初と最後の挨拶をつい忘れてしまうことがありますが、みんなしっかりとできていました。これはとてもすごいことです。普段、『ほめ言葉のシャワー』をしているみんなだからこそできているのだと思います。そんなみんなに、スピーチの達人になってほしくて今日の授業をしました」と菊池先生が話すと、子どもたちが今日の授業の感想を発表した。
「今日の授業の感想を3つ話します。1つめは、どの班でもみんながスピーチを頑張っていたことです。2つめは、みんなが話している人のスピーチを一生懸命聞いていたことです。3つめは、グループ全員で意見を出し合ったことです」
「1つめは、私たちが発表したことを菊池先生が黒板にまとめてくれたことです。2つめはグループの話し合いでみんなが困っているときに、菊池先生がヒントを教えてくれたことです。3つめは、今、○○さんが感想を話すときに『1つめは』『2つめは』と挙げていたことです。今日は達人の授業、ありがとうございました!」
学級全員、笑顔で授業が終わった。
授業後、子どもたちは「『ほめ言葉のシャワー』ではいつも1つしか言わなかったので、これからは3つ、いや、もっと多く話したい」「スピーチの構成がわかったので、話すときにいつもより意識することができた」と感想を話してくれた。
普段から「ほめ言葉のシャワー」に取り組んでいるので、スピーチでもはきはきと話すことができていました。今日の授業をもとに、今後もっと充実した「ほめ言葉のシャワー」ができることを期待しています。
『総合教育技術』2021年3月号より
構成/関原美和子
菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。