指導よりも空気(環境)をつくることが大切【木村泰子「校長の責任はたったひとつ」 #2】
不登校やいじめなどが増え続ける今の学校を、変えることができるのは校長先生です。校長の「たったひとつの責任」とは何かを、大阪市立大空小学校で初代校長を務めた木村泰子先生が問いかけます。
第2回は、<指導よりも空気(環境)をつくることが大切>です。
「指導」は一瞬で「暴力」に変わります。一生懸命指導はするのですが、指導の結果を見ようとしない傾向があります。指導の結果、子どもの事実はどうであるかを見て、子どもが学びに向かう姿が見られたときに、初めて指導の成果が得られるのです。指導はするが、その後の子どもの事実を見ようとせず、指導に従わない子どものせいにしてしまう事実は、これまでにも数えきれないくらいあります。もちろん、教員は精一杯頑張っているのですが、頑張れば頑張るほど子どもは遠ざかっていき、保護者との信頼が途切れ、校長が教員を指導しても理解してくれないと反対に訴えられる。このようなケースが山のようにあるのが、今の学校現場ではないでしょうか。子どもも保護者も教員も管理職もみんながリスクを背負っている。だからといってどれだけ「働き方改革」を唱えても改善するどころか、ますますリスクを抱えてしまう。この負の連鎖を断ち切りませんか。
今の時代、従前のような教員の名人芸で子どもが育つ時代ではありません。多様な社会で生まれて多様な価値観の中で育てられた子どもが、義務教育をスタートするのです。どれだけ有能な教員を育てても、すべての子どもの学びを保障することなど不可能な時代に学校はあるのです。
「学校は子どもの命以上に守るものはない」を源に、これまでの当たり前は通用しない時代になっていることを全教職員で共有し、「新しい発想」で「システムをシンプルに」「チーム力を高める」手段を、日常的に雑談し対話し合える職員室の空気(環境)をつくり出しませんか。
学校に多様な空気(環境)を
学校に豊かな空気(環境)を生み出すことができれば、子どもは誰一人取り残すことなくその空気を吸いながら主体的に育ちます。大空小に転校してきた「不登校」のレッテルを貼られていた子どもたちは、画一的な正解ありきの学校の空気が吸えなくて行けなくなっていたのです。大空小に素晴らしい指導力を持った教員がいたから「不登校0」の奇跡の学校ではありません。教えられることが当たり前で、正解を常にゴールとして提示され、できないことができるようにならなければ評価されない、認めてもらえない学校の空気は一部の子どもしか安心して吸えないでしょう。
教員も同様ではないですか。あの先生のような指導力がないから自分はだめだ、努力してもあの先生のような指導力がないから仕事を続けていけない、結果として子どもや保護者や校長のせいにして自己肯定感を下げていくのではないでしょうか。この関係性の中に共通するのは、他者との比較による格差を持った評価です。まさに子ども同士の関係性も同じですね。もっと言えば、各校の校長同士の関係性も同様のことが言えるのではありませんか。
ナンバーワンからオンリーワンに
新学習指導要領の根幹はここなのです。「みんなと同じことができる」ことが評価される時代は終わった。「他人と違うことに価値がある」時代になってきた。
子どもも大人もすべての人は、一人一人違っていることが当たり前なのです。これまでのようにできないことができるようになるのが学校ではなく、できることを見つけ存分に伸ばそうとの発想に変換すれば学校の空気(環境)は大きく変わります。結果として学校に多様な空気(環境)が満ち溢れてきます。
多様な空気を常に充満させていれば(この空気は吸えるから学校に行こう)となるのが当たり前です。学校はこれまで多くのことを子どもに与えてきました。保護者の多様なニーズにもこたえなければと常にサービスを提供してきたのです。その結果が第1回の記事にも書いた通り「子供の自殺過去最多」の事実につながっています。
こんなことを伝えている私自身も大空小に出会うまでは、指導力をいかに高めるか、子どもにどれだけ完璧に教えることができるかが教員の資質能力だと考えていたところがありました。新米校長時代、校長に人事権が与えられていない中で、指導力のある教員の配置を望んだものです。校長の力はいかに指導力のある教員を確保できるかにあるとまで思っていました。ところが、学級経営どころか授業もままならない教員が配置される現状に他校と比べたり、不満を持ったりするのです。言い換えると、校長として「いい学校」をつくることができないのは教育委員会のせいであり、指導力に欠けると思っていた教員のせいなのです。校長の責任をどこかに置き去りにしている自分に気付いてからは、やり直しをしました。校長が「ハズレ」と思う教員を担任に持つ子どもは何を感じ、学びの楽しさを実感できるのだろうかと考えたときに校長としての自分の果たすべき行動が見えてきました。校長は何度も失敗をしてやり直しをする姿を見てもらうことが唯一無二の学びに向かう姿をコーディネートできるのだと確信しています。
これらのことを教えてくれたのが「みんなの学校」でした。学びの目的は「その子が その子らしく 育つこと」それ以外にはありません。
1 学校に豊かな空気(環境)を生み出すことができれば、子どもはその空気を吸いながら主体的に育つ。
2 「みんなと同じことができる」ことが評価される時代は終わり、「他人と違うことに価値がある」時代になってきた。
3 できることを見つけ存分に伸ばそうという発想に変換すれば、学校の空気(環境)は大きく変わる!
4 校長は何度も失敗をしてやり直しをする姿を見せていこう!
『総合教育技術』2022年夏号より
木村泰子(きむら・やすこ)
大阪市立大空小学校初代校長。
大阪府生まれ。「すべての子どもの学習権を保障する」学校づくりに情熱を注ぎ、支援を要すると言われる子どもたちも同じ場でともに学び、育ち合う教育を具現化した。45年間の教職生活を経て2015年に退職。現在は全国各地で講演活動を行う。「『みんなの学校』が教えてくれたこと」(小学館)など著書多数。