今こそ、「子どもにどんな力をつけたいのか」を問い直す【菊池省三流「コミュニケーション科」の授業 #4】

連載
菊池省三流 コミュニケーション科の授業

教育実践研究家、教育実践研究サークル「菊池道場」主宰

菊池省三

教師と子ども、子ども同士のコミュニケーション不足こそ今の学校の大問題! 菊池省三先生が、1年間の見通しを持って個の確立した集団、考え続ける人間を育てる「コミュニケーション科」の授業の具体案と学校管理職の役割を提示します。
第4回「コミュニケーション科」の授業は、<今こそ、「子どもにどんな力をつけたいのか」を問い直す>です。

従来の一斉指導型のオンライン授業

新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が解除され、ようやく学校が再開し始めました。休校の間、盛んに言われたオンライン授業について、私もいろいろと考えてみました。

SNS上やニュースでは様々なオンライン授業が紹介されています。知り合いの先生方からオンライン授業について相談を受けることもありました。先生方の熱心さには頭が下がりますが、気になる点も多々ありました。

それは、オンライン授業が “教師主導の説明型の授業” を踏襲していることです。教師が黒板やホワイトボードに教える内容を書き込み、カメラに向かって説明する──子どもの目がカメラに変わっただけの “教師から一方通行型の授業” です。前回でも触れましたが、こうした授業は、子どもたちにとってはおもしろくもなんともありません。通常の学級であれば、つまらなくても教室を出ることはありませんが、家庭であれば、授業に参加することすらしなくなってしまいます。

ここにきて、一時期話題になった反転授業が再び注目されています。反転授業とは、デジタル教材を用いて、事前に自宅でオンラインで知識を習得し、その後、学校の授業で詳しい解説や発展問題に取り組む授業スタイルです。学校の授業で学び、家庭で復習する、という形から、家庭で予習し、学校で応用するという、これまでの学習方法をひっくり返した(反転した)ことから、こう呼ばれています。

反転授業は、子どもの学習意欲向上や学習の効率化などがメリットとして挙げられ、主に高校で取り組まれてきました。理念は確かにすばらしいのですが、多くの問題点も挙げられています。なぜうまくいかないのか──最も大きな要因は、教師の授業観にあると思います。これまで、一方的に知識を与えられ、正解を答えることのみ求められてきた子どもたちは、本当の意味で学ぶ楽しさを実感することはありません。そういう子どもたちが、自分の意志で、教師の目もない自宅で、意欲的に取り組むわけがありません。ましてや、これまで教科書通りに一斉指導を進めてきた教師が、子どもが自宅で意欲的に取り組む教材をつくったり、自宅で学んだことをもとにまとめたり話し合う活動に発展させる授業に進めるとは思えません。

これまで、教育現場では散々「生きる力の育成が大切だ」と言いながら、実際のところ、生きる力を育てる教育を行ってきませんでした。全国学力テストの点数アップに一喜一憂し、教科書通りに授業を進める知識詰め込み型の一斉授業に終始し、全学年、全校、挙げ句は全県で統一した学習スタイルで進める平板な授業に偏ってきました。立体的な学びを経験せず、「生きる力」とは何なのかを教えてくることもしなかった学校が、今回の新型コロナウイルス禍で即席のオンライン授業をつくっても、子どもたちが充実した学びを得ることは到底無理なのです。

新型コロナウイルス禍が落ち着き、再び学校生活が始まったら、多くの学校は、目先の遅れた学習を取り戻すことに追われることでしょう。しかし、今回のことで、従来の指導の問題点が浮き彫りになりました。従来通りの指導を行う前に、子どもたちにどんな力を身につけさせたいのか、そのために学校は何を学ばせることが大切なのか、管理職はまずそこから問い直す必要があるのではないでしょうか。

授業で担う、教師の2つの役割

新型コロナウイルス禍で私自身も全ての学校訪問が延期となり、自宅にいる時間が増えました。せっかくの機会なので、現役の頃から学校訪問をしている現在までを通して、自分自身の実践をじっくりとふり返ることができました。

これまで、何百回も全国の小中学校で飛び込み授業をしてきました。その多くが初めて出会う子どもたちばかりです。ざっくりとした授業内容だけ決め、あとは目の前の子どもたちを見て決めます。「この子をプロデュースしよう」「今日はエンターテインメント的にやろう」と、いつも一発勝負のライブです。

ふり返れば、一斉指導から一人一人への学びに授業を変えていくとき、45分間の授業の中で、教師はインストラクターとファシリテーターの2つの役割が必要になることに気づきました。

前半はインストラクターとして、子どもたちに注目させ、教師主導で授業の空気をつくっていきます。例えば、キーパーソンとなる子どもを一人決め、ユーモアを交えてその子に関わり、笑顔を教室全体に広げていくのです。

「ほめて、認めて、励ます」を前面に出して授業を進めるなかで子どもたちとの関係をつくり、後半ではファシリテーターとして子ども同士の学びを展開していく。前半で子どもたちと “健全な共犯関係” を築くことができれば、後半の学び合いも豊かになります。“健全な共犯関係” というのは、教師と子どもだけが共有する “遊び” “約束事” のようなもので、一般の教室では “学級文化” と呼ばれています。教師がボケを入れたら、子どもたちがお決まりのツッコミで返すというような、その教室だけで通じて楽しめる関係です。教師と子どもが “健全な共犯関係” にある教室は、子どもたちは「素の自分を出してもいいんだ」と安心感を持つことができるようになります。それが、対話を深める関係性をつくっていくのです。

通常の授業もオンライン授業も同様です。基本的には、教師がインストラクターとファシリテーターという2つの役割を意識することが大切です。

双方向を感じられるオンライン授業を

今回、必要に迫られて多くの学校でオンライン授業に取り組み始めました。新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いても、今後も何らかの形で必要性が言われることでしょう。

担任がオンライン授業を行うにあたって、何を一番大切にすればいいか。私は、担任と子ども、子ども同士がつながっていることを感じられる双方向の授業をつくることが大切だと思います。

それでは、具体的にどのような授業をつくっていけばいいのか──教師が自分のキャラクターを活かし、オンラインの向こう側で見ている子どもたちと “健全な共犯関係” を築くのです。例えば、バラエティ番組のようにスタジオ風にして、子どもたちとつながるオンライン授業はいかがでしょう(資料参照)。これは、NHKの深夜放送『今夜も生でさだまさし』を参考にしています。教室をスタジオ風に見立て、メインパーソナリティ(教師)が視聴者(子どもたち)に向けてトークをします。クイズ問題のように問いかけて子どもたちに○か×かで考えさせる。アシスタント(他の先生)と掛け合いをしたり、別スタジオの中継(その日の学習内容のVTR)を挟んだり、子どもたちの手紙を読んだり。子どもたちも、番組に参加しているような気分になるのではないでしょうか。

「教師のパフォーマンス」ときくと、「いや、私はそういうキャラクターではないので」「子どもとふざける関係はどうか」と軽視する人も少なくありません。しかし、それはうわべだけのとらえ方です。同じ内容の授業でも、授業者によって、子どもたちの興味関心は全く異なります。学ぶ意欲に影響を与える教師の役割は大きいのです。

元プロテニスプレイヤーでタレントの松岡修造さんは、熱くポジティブな名言の数々で人気ですが、彼の励ましやインタビューを見ると、言葉のキャッチボール(ツッコミを含めて)や非言語の豊かさにあらためて驚かされます。身振り手振りはもちろん、うなずき、目線などどれもが相手に寄り添っています。そんな修造さんの姿に、取材を受けた人も心を開くのではないでしょうか。

言葉のキャッチボールやパフォーマンスが大切という点では、教師も同様です。何も、さださんや修造さんのようにやれというわけではありません(笑)。自分のキャラクターを活かし、得意なことで子どもたちにアプローチしていけばいい。マスクで表情がよく見えない状況でも、目線や服装、体の動きで伝えていくことは可能です。パフォーマンスは、教師に求められる大切な力なのです。

遅れた学習を取り戻すために、必死になる気持ちはわかります。だからといって、がむしゃらに教科書を進めるのではなく、「できることからやっていこう」とどっしり構えることが必要です。教師の真価が問われるのはこれからなのです。

【資料】

◆教室風のスタジオ化をはかる

授業構成の工夫
双方向を意識する
子どもの感想や質問を読み上げながらの進め方だと飽きない。
「未知から既知へ」ではなく、「未知から既知へ、そして未知へ」というオープンエンド型にする。
対話型話し方の工夫
伝える内容はサンドウィッチ型で。
 「***が大切です。~~と考える人がいるかもしれませんが、……と思えばいいのです」
 ***と……が教えたいポイント、理解させたいポイント。
 ~~の部分を丁寧に話す。苦手な子どもの理解に寄り添うことになる。できる子の理解を深めることになる。
ノート指導は小さなことを小刻みに。「〇か×か」「AかBか」など、ちょっとした反応をさせる。
前もって「オンライン授業の約束」として決めておくといい。
授業のアイデア
ノートパソコンは、2台あると望ましい。
 1台はオンライン授業の動作に使用。授業中は教師に向け、再現ビデオのときは録画データに切り換える。
 もう1台はアシスタントとつなぎ、掛け合いをしながら進行していく。
 アシスタントはうなずくだけでなく、拍手をしたり、「ブラボー」などのボードを用意していて示したり、授業を盛り上げるリアクションを豊かにしてもらう。
授業の内容は、あらかじめ動画にまとめておく。ワイドショーのように、「では再現ビデオを見てみましょう」と話しながら、画面を録画に切り換える。
子ども数名に電話をして意見や感想を発表してもらう。
途中で、校長先生など「ゲスト」が登場する。
 本やビデオ等を活用して、偉人のゲスト登場もおもしろい。
子どもの声(手紙やメール、画像、動画など)を紹介するコーナーがあってもいい。
テーマ曲や考え中に流す曲などを用意すると楽しい。
「授業後○時から○時まで質問受付中」のフリップを出し、授業後のケアを行う。

『総合教育技術』2020年7/8月号より

構成/関原美和子


菊池省三(きくち・しょうぞう)
教育実践研究家。
1959年、愛媛県生まれ。山口大学卒業後、北九州市の小学校教諭として崩壊した学級をこの20数年で次々と立て直し、その実践が注目を集める。2012年にはNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に出演、大反響を呼ぶ。教育実践サークル「菊池道場」主宰。『菊池先生の「ことばシャワー」の奇跡 生きる力がつく授業』(講談社)、『菊池省三流奇跡の学級づくり』(小学館)他著書多数。


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