主体性を引き出すマネジメントを【赤坂真二「チーム学校」への挑戦 #12】


多様化、複雑化する学校の諸問題を解決するためには、教師一人の個別の対応ではなく、チームとしての対応が必須である。「チーム学校」を構築するために必要な学校管理職のリーダーシップとは何か? 赤坂真二先生が様々な視点から論じます。
第12回は、<主体性を引き出すマネジメントを>です。
執筆/上越教育大学教職大学院教授・赤坂真二
目次
涙の謝辞
この学校を訪れてから8か月。3回目の研修会が終わりました。謝辞を述べる教頭先生が、途中で声を詰まらせながら振り絞るように言いました。
「いい学校にしてくださって……ありがとうございますっ」
彼は挨拶が終わってもしばらく顔を上げませんでした。いつもは冗談ばかり言って周囲を笑わせる方が、真一文字に口を結んで深々と頭を下げるその姿に私も胸が熱くなりました。
私が何をしたというわけではありません。先生方は愚直なまでに私がお伝えしたことに取り組み続けたようです。初回に訪れたときに、子どもの叫び声が聞こえた教室の先生の授業を参観しました。教室は相変わらずいろいろな音がしていましたが、雰囲気が違いました。以前は「喧噪」でした。殺伐とした空気すら感じました。しかし、今回は賑やかさの中にあたたかさが漂っていました。先生は子どもたちと戯れるように授業をしていました。授業が終わってから、先生にお聞きしました。
「どうしたのですか、子どもたちを叱るのをやめたのですか?」
すると、先生は笑顔をさらに崩して言いました。
「はい、もう、叱ってもダメだなと思ったので、叱るのをやめたんです。そうしたらなんかいい感じになりました」
笑い声を立てながら子どもたちの中に帰っていきました。
授業の評価の観点は比較的はっきりしています。指導案にも記されます。また、テストなどでシビアに結果が表現されます。しかし、学級経営については、しっかりとした評価の指標がありません。個人的にもっている先生方はいますが、それを学校全体で共有していない場合がほとんどです。私が訪問する範囲では、授業改善は学校体制で、学級経営は教師個人で取り組む学校が少なくありません。授業改善がうまく機能するためには、学級経営の領域においても各クラスにある程度共通しているものが必要だと考えています。
学級が安定していた時代は学級経営を個々の教師がそれぞれに実践してもよかったのです。教師の力量差が顕在化しにくかったからです。しかし、学級状態が不安定な昨今、教師の力量が低いとクラスの荒れや授業の不成立などの大きな問題として表れます。ギリギリのスタッフで膨大な業務を抱えた今の学校では、一つのクラスで学級崩壊や授業崩壊が起こるとそこに人的、時間的、精神的エネルギーが注がれ、学校全体が疲弊してしまいます。
そこで先生方には、初回の研修で学級経営の最低限度の水準を揃えていただくことをお願いしています。20ほどの評価の観点を定めて、それを定期的に振り返ってもらいます。ここでは紙幅の関係で三つに絞って紹介します。