リレー連載「一枚画像道徳」のススメ #17 百年の桜|倉内貞行先生(青森県公立小学校)
子供たちに1枚の画像を提示することから始まる15分程度の道徳授業をつくり、そのユニットをカリキュラム・マネジメントのハブとして機能させ、教科横断的な学びを促す……。そうした「一枚画像道徳」実践について、具体的な展開例を示しつつ提案する毎週公開のリレー連載。第17回は倉内貞行先生のご執筆でお届けします。
執筆/青森県五所川原市立栄小学校教諭・倉内貞行
編集委員/北海道函館市立万年橋小学校教諭・藤原友和
目次
はじめに
みなさん、はじめまして。青森県で小学校の教員をしている倉内貞行と申します。
今回、「一枚画像道徳」のリレー連載のお話をいただき、すごいメンバーの中で、自分も原稿を書かせていただくこととなり、恐縮しているところです。
また、今回、「一枚画像道徳」でどんな写真を使うか、に随分悩みました。
悩みに悩んだ結果、やはり、私は地域教材だなという結論に至りました。私が暮らしている青森県は、結構素敵なところだからです。
また、この記事に目を留めてくださった全国の先生方が暮らす街にも、きっと同様の素敵な場所、素敵な人々がいらっしゃり、そうした人々の思いや願いを授業で扱うことは、地域に誇りや愛情を抱くことにつながり、それが子供たちの道徳の基盤になるのではないかとも考えたからです。
拙い実践ではありますが、読者である先生方の実践の何か参考になれば、などと思います。
どうかよろしくお願いいたします。
1 授業の実際〜百年の桜〜
対象:小学5年
主題名:郷土を愛する心
内容項目:C-17 伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度
以下の写真を提示します。
提示した瞬間に、「弘前のさくらまつりだ!」という声が上がりましたので、次のようなやりとりをしながら画像について話し合いをします。
『そうです。弘前城の桜まつりです。みなさん、弘前の桜を見たことはありますか?』
「あります! いっぱい桜咲いているよね!」
「今年、久しぶりに行きました! きれいだった!」
「花筏(はないかだ)も見ました。お濠がピンクに染まってきれいです。」
『そうですね。弘前城の桜は日本全国でも、かなり有名なんだそうですよ。なんだか嬉しいですね。』
発問1 弘前の桜のすごいところはどんなところでしょうか?
●たくさん桜がさくところ。
●たくさんの桜をみることができるスポットがあるところ。
●お城と桜がきれい。
「弘前さくらまつり」は子供たちにとって身近で、それが全国でも有名になっていることに少し誇らしさを感じているようです。
総じて子供たちは、春になると、見事に咲き誇る桜の様子やお花見の雰囲気を想起して、なんだか待ち遠しいな、と感じているようです。
説明
ここで、次のように説明します。
●およそ100年ほど前(1900年頃)から弘前公園(弘前城)に桜が植え始められたこと。
●当初、お城に桜を植えて行楽をするのは反対意見も多かったが、やがて「観桜会」として住民に親しまれるものとなり、やがて「弘前さくらまつり」と名前を変えていったこと。
●現在、弘前公園内には約2600本ほどの桜があるということ。
●代表的な桜の品種であるソメイヨシノの寿命は約60年とされているが、弘前公園(弘前城)のソメイヨシノには樹齢100年以上のものもかなり多く、現在も多くの花を咲かせているということ。
この説明を聞いて、教室には「え?」という声が上がりました。
どうして弘前公園(弘前城)の桜は長い間、元気に花を咲かせられるのか、という疑問が出されました。
単に、桜を植えた、というだけではあっという間に寿命を迎えてしまうんです。どうして弘前城の桜は今も元気なのでしょうか。
誰かがお世話している?
元気に花を咲かせられるように、何かしているんじゃない?
弘前公園(弘前城)の2600本の桜が長生きなのは……青森の技術を使っているんですよ。
青森の技術?
なんだろう…。
リンゴ…?
そうなのです。かつて、桜は枝を切るとそこから病気になって枯れてしまうとされ、切ってはいけないとされていたんだそうです。ところが弘前城では、初めに植えた桜が段々と年をとって、枝の元気がなくなってきたときに、なんとそれを切ってしまった。そうしたら、切ったところから若い芽が出てきたんだそうです。
えええ!?
この枝を切ったのは弘前公園管理事務所の職員さんだったのですが、その職員さんのお家はリンゴ農家だったんです。リンゴも桜も同じバラ科だから、枝を剪定すれば、元気になると考えたそうですよ。
弘前公園(弘前城)の桜はリンゴ栽培の技術を応用して枝を剪定したり、切り口に薬を塗ったり、土に肥料をまいて栄養豊富にしたりしています。
この技術は「弘前方式」と呼ばれています。この「弘前方式」は、全国の桜を管理している方々が学びに来るんだそうですよ。
リンゴ栽培の技術が桜に使われているなんて知らなかった。
弘前方式が全国に広がっているんだ。
この弘前方式を受け継いで、長年、弘前公園の桜を守ってきたのが木のお医者さん、樹木医の小林 勝さんという方でした。でも、2014年にご退職されました。
お仕事やめてしまったの? これから、弘前公園の桜、どうなっちゃうの?
そうだよね。先生もね、心配になって調べたら……大丈夫でした。今はこの技術を受け継いだ樹木医の方と、一緒に作業している公園を管理する職員さん、名付けて「チーム桜守」が弘前公園の桜を守っています。
よかった~! これからも弘前公園の桜が見られるんだ!
はい。数年後、数十年後を見据えて、「チーム桜守」の皆さんが弘前公園の桜の枝を剪定してくださっています。リンゴのように低く枝を広げて、たくさんの花を咲かせている弘前公園の桜を見かけたら、「チーム桜守」の皆さんのことを思い出してくださいね。
発問2 「チーム桜守」のみなさんはどんな思いで桜をお世話しているのでしょう。
「チーム桜守」のみなさんが弘前公園の桜に対してどんな思いをもっているかを考えさせ、意見交流をしました。
●私たちがずっと弘前公園の美しい桜を守ります。
●いつまでも日本一の桜を咲かせたい。
●作業は大変だけど、この仕事が桜を元気にしているんだ。
●また、たくさんの人に元気な桜を見てほしいな。
桜を守る大役を担っている「チーム桜守」のみなさんのお仕事に対する愛情や誇り、決意がどんどん発表されました。
次に、こんな問いかけをしました。技術を継承し、自分たちに伝えてくださった小林 勝さんへの思いも考えさせたかったからです。
弘前方式を長年行って、弘前公園の桜を守っていた小林 勝さんに対しては、どんな気持ちをもっているのかな。
小林さん、私たちが弘前公園の桜をきっと守ります。
小林さんが受け継いだ弘前方式は、私たちがこれからも続けていきます。
任せてください。私たちがちゃんと毎年、元気な桜を咲かせますから!
私たちが引き継いだ弘前方式は、今度は次の世代に引き継ぎたいです。
そして、ずっと(弘前公園の桜を)守っていってほしいですね。
子供たちは、伝統の技術を受け継ぎ、桜を守る「チーム桜守」のみなさんへの思いをまとめていきました。身近で大好きな弘前公園の桜にも歴史があり、技術があり、思いや願いが受け継がれていることに気付けたようです。
道徳科の学習指導要領解説に、
我が国や郷土の伝統と文化を大切にする心は、過去から現在に至るまでに育まれた我が国や郷土の伝統と文化に関心をもち、それらと現在の自分との関わりを理解する中から芽生えてくるものである。それは、国や郷土を愛する心へとつながり、さらに、我が国が果たすべき役割と責任を自覚することにもつながるものである。
と説明されていますが、我が国や郷土の伝統や文化に目を向けられるようになることが、第一歩ではないかと考えています。
身近な題材から、地域の価値ある技術やその継承について、短い時間でしたが、気付くことができたかと思います。
2 どこにどのようにつなげるか
6年生の道徳科の教科書『新・みんなの道徳 6』(学研)には、「もう一つの塔」という教材が掲載されています。
宮大工の西岡常一さんが伝統の技術を生かして、薬師寺西塔を再建されたお話です。
千年以上もつ建築をするために、鉄を用いない古来の技術を用いた西岡さんの思いに、伝統や文化を愛すること、伝承することの意義を学習していきます。
報告した「一枚画像道徳」を導入として、「もう一つの塔」における西岡さんの心情について考えを深めていく授業展開もよいかもしれません。
また、指導時期が前後しますが、国語の教科書(『みんなと学ぶ小学校国語五年』学校図書)の上巻には、瀧井宏臣氏の「東京スカイツリーのひみつ」が1学期の説明文教材として位置付けられています。
伝統の建築の知恵として「心柱」を参考に耐震性能を高めていることが述べられています。伝統と現在と未来を結ぶ技術について、今回の「弘前方式」の継承も補助線として活用できるかもしれません。
さらに、社会科には、こうした伝統の技術の継承や、先人の思いや努力や工夫を知る学習内容がふんだんに盛り込まれています。
過去、現在、そして未来を結び付けながら、自己と関わらせつつ教科横断的に学習を繰り返し展開していくことは、キャリア教育の観点からも重要になってくるものと考えています。
おわりに
地域の子供たちにできるだけ身近なものから、先人の努力や思い、願いを感じ取りたいと考え、今回の報告で扱った弘前公園の桜を守る「チーム桜守」に出会いました。
地域教材を使って授業を構成するということは、労力が必要です。今回も、ちょっと苦労したことを告白します。
しかし、私たち教師が地域を知り、先人の思いに触れることで、ある種の感動を覚えたり、学びを楽しんだりするということが、じつはとても価値あることではないか、と考えています。この感動から生まれた地域教材は、きっと子供たちにとっても価値あるものになるはずだからです。
今回の「一枚画像道徳」のリレー掲載のお話をいただき、私なりに考えて実践をしてみました。
この取組自体、今後、特別の教科道徳と各教科等との関連性を実感させるために有効な手立てだと実感しています。これから、もっとブラッシュアップしていきたいと思っています。
諸先生方の珠玉の実践について、今後も一読者として、楽しみに読んでいきたいと思っています。
拙い実践報告でしたが、お読みいただき、ありがとうございました。
<参考ホームページ>
●一般財団法人弘前市みどりの協会HP(参照2022-09-21)
●株式会社コンシス「弘前さくらまつり」(参照2022-09-21)
今後の連載予定
第18回 古舘良純(岩手県花巻市立若葉小学校教諭)
第19回 有田雪花(神奈川県海老名市立中新田小学校教諭)
第20回 木村麻美(弘前大学教育学部附属小学校教諭)
第21回以降も豪華執筆陣が続々と執筆中です。
※この連載は、毎週木曜日に公開します。次回は1月12日(木)10時に公開予定です。
<リレー連載>明日の授業に生きる! 「一枚画像道徳」のススメ ほかの回もチェック⇒
第1回 日本最古の観覧車
第2回 モノに宿る家族の「幸せ」
第3回 それっていいの?
第4回 このトイレ使ってみたい?
第5回 「命の重さ」は
第6回 「快」のコミュニケーションができる子供たちに
第7回 未来と今をつなぐ橋を架ける一枚画~『もの』『こと』『ひと』をみる目を深める~
第8回 「一枚画像道徳」を読み解く
第9回 地域の魅力、知ってる?
第10回 あえて「分かりにくい」写真で
第11回 なにが見える?
第12回 地域の課題の受けとめ方
第13回 函館港まつりに込められた想い
第14回 デザインの定義
第15回 「生きた文化財」~在来作物の声が聞こえる~
第16回 町名の由来