「教育クラウド」とは?【知っておきたい教育用語】
コンピュータ操作に必要なソフトウェアやデータをインターネット上のサーバに格納し、利用する形態を「クラウドコンピューティング」と言います。教育にこのクラウドを活用する「教育クラウド」について、GIGAスクール構想との関わりや、その活用で教育の何が変わるのかを確認しておきましょう。
執筆/東京学芸大学教育学部教授・日本教育工学協会会長・高橋純
目次
GIGAスクール構想の実現は「教育クラウド」の力
「教育クラウド」という用語の普及はこれからです。少なくとも文部科学省関連の資料などでは、「クラウド」とはいっても、「教育クラウド」という用語は、ほとんど活用されていません。そこで今回は、教育におけるクラウド活用、それでも幅が広いため、特にGIGAスクール構想を軸に解説を行います。
GIGAスクール構想は、クラウドの活用によって実現したと言っても過言ではありません。GIGAスクール構想以前の2018年に閣議決定された「第3期教育振興基本計画」では、「学習者用コンピューターを3クラスに1クラス分程度整備」という計画でした。
その後、2019年の文部科学省「『新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)』について」では、世界や米国市場におけるクラウドの採用による300ドル以下の安価なパソコンの普及が紹介され、具体的な整備モデルが示されました。
つまり、クラウドベースの安価なパソコンを採用することにより、従来の1台分の予算で3台分の整備が可能となり、換言すれば児童生徒1人1台端末の整備が可能となりました。まさに最新技術であるクラウドを活用することで、GIGAスクール構想が実現したのです。
クラウドを活用したICT環境について、文部科学省は当時の資料で「全く新しいICT環境」と表現しています。その特徴として、ソフトウェアもデータも「クラウド」と呼ばれるインターネット上のサーバーで集中管理することで、セキュリティも向上し、管理も楽で、災害にも強くなる。何より、各端末がシンプルになるために、壊れにくく、メンテナンスも楽で、安価になると説明しています。
「教育クラウド」で何が変わる?
こうしたクラウドそのものの説明は、さまざまな資料で紹介されている通りです。しかし、それらを読んで、クラウドだと何が変わるのか、ピンとくる方は多くないことでしょう。なぜなら、文部科学省もいう通り「全く新しいICT環境」であり、実際に体験してみて、初めてわかることばかりだからです。例えるならば、ガラケーで満足している人に、スマホのよさを説明しても難しく、しかし体験してみればすぐによさがわかるというような現象と似ているのです。
少なくとも、クラウドネイティヴの環境では、校務用パソコンの活用でよくあるような、共有フォルダでファイルを操作するといったことは行わないことが基本です。もちろんそういった30年以上前から続く古い活用法でも動きますが、まったく新しい活用法も求められています。とはいえ、どのような活用法があるのかと戸惑う方も多いはずです。実は仕事の流れ、学習の流れすらも変化します。だからこそ言葉だけでの説明は難しく、新しい体験から始めることが重要なのです。
教育クラウドをベースにした環境づくりが重要
しかし、GIGAスクール構想において、クラウド以前の考え方に基づく従来型のICT環境を導入してしまった地域も多くあり、クラウドネイティヴの環境で新設計のICT環境を導入した地域と、体験度にも大きな差が見られる状況になっています。こうした現状は、GIGAスクール構想そのものへの理解の差になり、活用度の差にもつながっています。
日本政府も、クラウド・バイ・デフォルト、つまり、政府情報システムを整備する際には、クラウドサービスの利用を第一候補にすると示しています。クラウドにもさまざまなレベルやタイプがありますが、今後、デジタル教科書や教材、全国学力・学習状況調査のCBT(Computer Based Testing)による実施、校務支援システムなど、こういったものすべてがクラウドベースで提供されることが予定されています。
▼参考資料
文部科学省(ウェブサイト)「第3期教育振興基本計画」
文部科学省(ウェブサイト)「『新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)』について」
文部科学省(PDF)「令和2年度補正予算概要説明~GIGAスクール構想の実現~」