赤坂真二×堀川真理「いじめが発覚したら、クラス全員が当事者」いじめと戦う覚悟と戦略①
文部科学省が全国の小中高校を対象に実施した2021年度の調査によると、いじめ認知件数は61万5351件となり、過去最多を記録しました。
学級づくりに関する実践研究の第一人者・赤坂真二先生(上越教育大学教職大学院教授)と、カウンセリングの手法を用いた教育によって、いじめと戦い続けてきた堀川真理先生(元新潟県公立中学校教諭)。桁違いの「本気度」で、いじめ問題と向き合い、「いじめの問題に、当事者でない人はいない」というメッセージを発し続けてきたお二人の対談を全3回でお届けします。
第1回は、いじめを発見したときに学級担任がとるべき対応、特に学級開きから6月までに押さえておきたいポイントについて解説します。
目次
学級開きで「いじめをけっして許さない」姿勢を示そう
――いじめを予防するために、学級担任はどんな取組をすべきでしょうか。また、いじめが発覚した場合、どう対応すべきでしょうか。
堀川 4月のうちに人権に関わる道徳の授業を行い、その中で「いじめをけっして許さない」という教師の姿勢や考えを伝えておくことがもっとも大切です。私のやり方はそれに加えて、どういうことがいじめなのかについて考え、いじりやからかいも、いじめになることを学級で共有します。そうしておけば、兆候が見られた時、すぐに「それって、いじめだよね」と言えるわけです。
4月にそれをしないでスタートしたとしても、やはり担任に必要なのは、いじめやそれを助長するような言動を見逃さない、流さないで、即座に動くことでしょうね。
赤坂 同感です。学級開きで子供たちと向き合った時、多くの先生方は自分の価値観を語ると思います。その中にいじめに対する自分の姿勢や態度を盛り込んでおくことが必要です。
堀川さんもおっしゃるように、いじめがあった時、看過しないことが重要で、5月・6月にすべきなのは、「この先生は、こういうことをすると絶対にNGなんだ」と示すことです。
堀川 私はいじめやいじりを見たら、まずは、自分がどう感じるかを伝えます。
「私が見ていて嫌なんだ」ということを伝えるのです。私は自分の感じ方に自信を持っています。若い先生方は自信がないとおっしゃるかもしれませんが、そうした言動に接して自然に湧き上がる気持ちって、間違っていませんよ。本当にいじめなのかは、その時点では分からない場合もありますが、そこで自信を持てないから様子を見ようとなり、対応が遅れます。いじめかどうかは分からなくても、自分から見て、「いい感じはしない」ということだけは、まず伝えましょう。
私がいじめ予防も兼ねて行っているのは、「呼ばれたい名前」という実践です。
友達から呼ばれたい名前を自分でつけるという活動です。こうした活動を通して対等な呼び方を保障すると、子供同士の力の上下関係はつくられにくくなります。
中には、「おデブちゃんと呼んでください」などと言う子がいますが、そんな子には、「その呼び方、私は嫌です。自分のことを貶めて笑いを取る必要はありません。あなたはそのままで大事な人なんです」と伝えます。
当事者だけの問題にしないことが最重要ポイント
赤坂 私は小学校の教員時代、朝はアイスブレイクのゲーム、体育の時間はグルーピングゲームから入っていましたので、子供たちの人間関係がおかしければ、すぐに気付くことができました。そういうときが指導のチャンスです。
例えば、4人組になるように伝えたとき、近くの者同士でさっと手をつながずに、目の前の子を避ける姿が見られたら、「今のは何?」と、その場で指導を入れます。
「あっちにいた〇〇君と組みたかったので」と言われたら、「そうだよね。だけど目の前にいた〇〇さんは、どんな気持ちになるかな? みんなはどう思う?」と、そこから簡単な道徳の授業を始めるわけです。
子供たちは悪意もなくいじめをしていることがあります。そういうときに、その行為には、どんな社会的意味があるのかということを、その都度教えることは教師の仕事だと思います。
堀川 そうですね。だから、いじめが発覚したときの対応で何より大事なことは、当事者だけの問題にしないことです。いじめは学級のみんなが見ていることです。
つまり、いじめの問題については学級全員が当事者なのです。
いじめた側、いじめられた側、双方の話を聞いて解決を図ったら、その子たちの了解を得た上で、学級ですべてを話します。どんないじめがあったか、二人とどんなことを話してきたか、謝罪をして二度としないと誓い合ったことまでを、みんなに聞かせます。そして、「でも、あなたたちも知っていたのだから、いじめたのと同罪です」と話します。傍観者は許しません。
その後、「〇〇さんに謝りたい人」と問うと、だいたいの生徒が立って謝ります。
最後に、「誰だって、この二人の立場になったかもしれない。二人はつらい思いをして、それを乗り越えて、みんなに話してもいいと言ってくれました。みんなは二人のおかげで学べたのだから、感謝しようね。ありがとう」と、最後に二人に労いの言葉をかけて終わります。
いじめを乗り越えると、学級の人間関係は深まりますね。
教師は、そのいじめ行為の社会的意味を語ろう
赤坂 私の対応も堀川さんと基本構造は似ています。ただし、いじめの中には教師が気付けないものがあります。「靴隠し」の類です。
靴隠しがあった場合、本人ないし仲の良い友達が、「〇〇ちゃんの靴がありません」と知らせに来ます。その時に当事者だけの問題にしないことが重要です。どんな時間であろうと、「〇〇さんの靴がなくなりました。これは×年×組全員の問題です。だから、みんなに協力してもらいたい。さっき先生が玄関を見てきたけれどないので、全員で探してほしい」と言います。
多くの場合、子供たちはどの辺りに靴が隠されているか分かっているので、すぐに見つけてきます。
そのとき「よかったね」で終わらせてはいけません。ここからが大事で、今回起こったことの社会的意味を語るのです。
私は、子供たちに考えさせるというより、自ら矢継ぎ早に語っていました。高学年でも、靴を隠す行為がどれだけ人を傷つけるか分かっていない子もいます。
だから、「靴隠しは明らかに犯罪で、訴えられても当然な行為だ」ということを教えます。
その後、私は報道についても話をしていました。
「今、世の中でこれだけいじめが問題になっていて、あなたたちの耳にもいじめのニュースが入ってくるでしょ。知っている人?」と聞くと、全員が手を挙げます。
「それは、靴隠しのようなことが続いた結果、起きたことなんだよ。もし、誰かがいじめによって命にかかわるようなことになったら、靴を隠したと疑われた瞬間に、その子だけでなく、家族の素性もみんな調べ上げられて、ネットに晒される。あなたたちはそういう時代を生きているんだよ。そういう結果を受け入れる覚悟があるの?」と、切々と語っていました。
いじめられた子に対する教師の対応の基本構造は、現状の回復と感情の慰撫です。
靴隠しであれば、靴が出てきて汚れていないということが大事。誰が隠したかには配慮しつつも、本人の望む範囲で解決を図ります。誰がやったかが分かれば、もちろん謝罪させます。
【第2回に続く】
対談 赤坂真二×堀川真理「いじめと戦う覚悟と戦略」
・第2回
・第3回
取材・文/長昌之 撮影/西村智晴
『小六教育技術』2018年6月号より